SUSEのCEOであるDirk-Peter van Leeuwenは7月11日(ドイツ時間)、同社のブログに「At SUSE We Make Choice Happen(SUSEなら選択肢を提供できる)」と題したブログを投稿、今後数年に渡り1000万ドル以上を投資して「Red Hat Enterprise Linux」のコードをベースにしたハードフォークを構築し、誰でも利用できるディストリビューションとして提供する計画を明らかにした。プロジェクトの成果物はオープンソース財団に寄贈し、ユーザの継続的なアクセスを実現する意向を示している。
「かの競合企業(Red Hat)が最近発表したソースコード入手に対する厳しい制限を見るに、我々は彼らが誤った道へとシフトするランドスケープを描いていると確信している(With the latest restrictions to source code availability, we believe that the competitive landscape is shifting in the wrong direction.)」― Leeuwen CEOがブログで批判したRed Hatによる“厳しい制限”とは周知の通り、Red Hatによる6月21日付の「Red Hat Enterprise Linuxのソースコードを入手できるリポジトリは今後、CentOS Streamのみとする(git.centos.orgの更新終了)」というアナウンスを指している。
事実上、Red Hatの顧客以外はRHELのソースコードにアクセスできなくなるという、このRed Hatの突然のアナウンスに対し、RHELクローンOSを開発するAlma LinuxやRocky Linuxを含め、少なくないオープンソース関係者がいっせいに反論、「GPL違反であり、オープンソースコミュニティを分断する行為」としてRed Hatを強く批判した。これに対し、Red Hatも「なんのコストも時間も労力も費やすことなくRHELコードを再構築して利益を得ようとする勢力のRed Hatに対する要求は不当である。彼らこそオープンソースにとっての脅威であり、オープンソースをホビイストやハッカーだけの存在に戻しかねない」と強い言葉で応戦している。
この一連の騒動に対して、エンタープライズLinuxの競合ベンダであるSUSEが取ったアクションが、今回のLeeuwen CEOがみずから発表したRHELフォークの開発宣言である。SUSEはマルチLinux環境をサポートするプログラムとして「SUSE Liberty Linux」「SUSE Manager」といったソリューションをエンタープライズユーザ向けに提供しており、CentOS/RHELユーザに対しても間接的なサポートを行ってきたが、今回のRHELフォーク開発の表明はさらに踏み込んだかたちでRHELエコシステムに入っていく意向を示したといえる。「携帯電話ユーザなら、自分の電話番号を維持したまま、受けられるメリットを最大化するために通信キャリアを変えたいと思うだろう。エンタープライズLinuxユーザであっても同じだ。ユーザが現在の環境を維持したままSUSEにスイッチしたいと願うなら、我々はそれ支援する」(Leeuwen CEO)
現時点でRed HatはSUSEのアナウンスに対してとくに反応を示していない。ただし、CentOSユーザが移行先としてRHELを選択できるためのプランはいくつか提供しており、たとえば6月29日には約1年後の2024年6月30日にサポート終了予定だった「Red Hat Enterpise Linux 7」のサポートを4年延長することを発表している。CentOS Linux 7のサポートは2024年6月30日で終了し、ソースコードリポジトリもシャットダウンされるが、その代替としてRHEL 7が用意された格好だ。
「顧客に選択肢を」というSUSEや他のクローンOSベンダに対し、「RHELのダウンストリーム(クローンOS)はもう必要ない」という態度を崩さないRed Hat。RHELクローンをめぐる攻防はまだきびしい睨み合いが続きそうだ。