アジア太平洋地域最大規模のPythonイベント「PyCon APAC 2023」開催レポート

2023年10月26日から10月29日にかけてPyCon APAC 2023が開催されました。PyCon APAC 2023とはどのようなイベントだったのか、会期中の注目ポイントは何だったのかをまとめてお伝えします。

PyCon APAC 2023 参加者集合写真1
PyCon APAC 2023 参加者集合写真2

PyCon APAC 2023とは

PyCon APACは、プログラミング言語Pythonを中心としたボランティアによる非営利の年次カンファレンスです。Pythonとその周辺技術を探求し、議論・実践できる場を提供することを目的に開催しています。アジア太平洋地域の国々が毎年交代を重ねながら開催しており、2023年は唯一立候補があった日本で開催することになりました。

日本では毎年、一般社団法人PyCon JP Associationが母体となってボランティアスタッフを募集し、PyCon JPというPythonに関する技術カンファレンスを開催しています。本年はPyCon APACの開催地として日本が選ばれたこともあり、普段のPyCon JPから規模を拡大し、より国際色豊かな技術カンファレンスとしてPyCon APAC 2023を開催しました。日本でのPyCon APAC開催は2013年以来の10年ぶりとなります。

PyCon APAC 2023では以下の6種類のセッションを企画しました。

  • キーノート
  • トーク
  • ポスター
  • LT
  • チュートリアル
  • スプリント

チュートリアルとスプリント以外はカンファレンス期間として2日間にわたり開催し、その期間の前後に1日ずつDay 0とDay 3としてチュートリアルとスプリントを開催しました。

ここではカンファレンス期間の見どころをご紹介します。

キーノート

今回は英語でのキーノートを2名の方へ依頼しました。ひとりは京都大学でPythonの教科書を執筆されていることで有名な喜多 一氏、もうひとりはPython Software Foundationの議長を務められた経験を持つLorena Mesa氏です。お二方とも登壇依頼を快諾していただき、それぞれの経験に基づいた貴重なお話を伺えました。当日はオリジナルの音声を聞くトラックと同時通訳の音声を聴けるトラックを準備し、最も参加者が多かった日本語を母国語とする方々にも、その場で内容を理解していただける環境を準備しました。

Why University Teachers Wrote a Python Textbook ―喜多 一氏

Day 1では喜多氏に⁠Why University Teachers Wrote a Python Textbook⁠という題目で、喜多氏がPython教科書を執筆される背景や執筆時に気をつけたこと、Python を通じて学生たちにどのような力を身に着けてほしかったかなど、執筆者しかわからない教材の背景などをお話していただきました。日頃コーディングを行っている人からすると当たり前に感じる書き方x = x + 1 など)を丁寧に説明することなど細かい落とし穴をケアし、教材そのものが「良き教師」となるように心がけたというお話からは、喜多氏の教育に対する熱意を感じ取れました。

キーノート終了後、喜多氏へ直接お話を伺うことができたのですが、共同著者の方が、学生によるプログラミング学習に関する落とし穴に関して論文を書いた経験を持つという裏話をお聞きできて面白かったです。

Day 1キーノート講演中の喜多氏
喜多氏のDay 1キーノートの模様

Through the looking glass: 10 years of Python Organizing Lessons and Tribulations ―Lorena Mesa氏

Day 2ではLorena氏に⁠Through the looking glass: 10 years of Python Organizing Lessons and Tribulations⁠という題目で、10年間Pythonコミュニティに携わってきた経験から得た教訓やデータサイエンティストとしての今後の世の中の展望などを語っていただきました。Lorena氏が日頃から新たな技術に対して考えていることや、それについてLorena氏がPythonコミュニティとしてどのように向かいあって欲しいかなどといった、より将来を良くしたいという思いを感じ取れる、熱意ある公演でした。

キーノート講演中のLorena Mesa氏
キーノート講演中のLorena Mesa氏

トーク & LT

カンファレンス期間で最も長い時間を占めるトークセッション、今年は55本ほどのプロポーザルを採用し、登壇していただきました。今年はPyCon APACとして日本語と英語の2言語でプロポーザルを募集し、おおよそ半数以上が英語での発表となりました。

ここでは筆者が気になったセッションを日・英1本ずつご紹介します。

Introduction to Structural Pattern Matching

一般社団法人PyCon JP Association代表理事である鈴木たかのりさんによる、構造的パターンマッチングの紹介です。Python 3.10にて導入された本機能によって従来のif文よりも柔軟な条件分岐が可能になりました。セッション内では基本的な文法と共に新機能の使い方を紹介してもらいました。筆者はこの機能をまだ使ったことがなくついにPythonにもSwitch文が来たか~ 程度にしか思っていませんでしたが、既存のSwitch文以上の柔軟性を知ることができ感動しました。

鈴木たかのりさんのセッションの模様
鈴木たかのりさんのセッションの模様

Develop your Python cloud & serverless apps locally with LocalStack!

LocalStackのエンジニアであるHarshさんによるLocalStackの紹介セッションです。現代の開発現場ではAWSから提供されているLambdaやS3、DynamoDB、SQSなどさまざまなクラウドサービスに依存したアプリケーションを作成することが多くなってきました。外部サービスへの依存が増えれば増えるほど些細な変更するために設定のアップロードや適用に時間がかかったり、エラーの原因究明に時間がかかってしまいます。そこでAWSのエミュレータであるLocalStackを利用することで、90以上のAPIをローカル環境のみで検証することができます。セッションではDockerコンテナでLocalStackを動かしながら実際に使い方を紹介してくださり、デバッグがやりやすそうな環境だなと筆者は感じました。何よりローカルで動かしているだけなので、どれだけAPIを叩いても課金されないのが最高です。

Harsh Bardhan Mishraさんのセッションの模様
Harsh Bardhan Mishraさんのセッションの模様

PyCon APAC 2023で発表されたキーノートおよびトークセッションは公開許可を頂いたセッションに限り、後日PyCon JPのYouTubeチャンネルにて録画を公開する予定です。

ポスターセッション

今年は久しぶりに感染症による制限がない会場開催だったこともあり、ポスターを会場内に常設展示させるポスターセッションを復活させました。このセッションは唯一、個人としてだけではなくコミュニティ単位でも参加することができるセッションです。PyCon APAC 2023では17のポスターが展示され、そのうちの10はコミュニティとしてのポスターでした。大学で行ったプロジェクトの成果から地元の勉強会の紹介、海外コミュニティから海外カンファレンスの紹介など、さまざまなPythonの姿を見ることができるのが魅力的でした。

盛況のポスターセッション会場
盛況のポスターセッション

ポスターを掲示していたスペースではコミュニティのメンバーで集合して久しぶりの再開を喜んだり、新しい世界を知ってワクワクされた方などいろいろなドラマが存在していました。

ポスターセッション参加のPyLadies Tokyoの皆さん
PyLadies Tokyoの皆さん

アフターパーティー

Day 2の夜には会場であるTOC有明の20階を使い、アフターパーティーを開催しました。おおよそ250人ほどが参加し、美味しいご飯と共にたくさんの方々と交流することができました。お寿司はやはり一番人気で、後で食べようと狙っていたネタが気付いたときにはありませんでした。

アフターパーティー会場の模様
アフターパーティーの模様

今回のパーティーではオリジナルクラフトビールを作成し、パーティー参加者に無料で提供しました。オリジナルクラフトビールに関しては以下のPyCon JP Blogで詳しく紹介しているので、気になる方はそちらをご覧ください。

オリジナルビール

お菓子⁠ドリンク

PyCon APAC 2023ではお菓子とドリンクの提供を行っていました。国内外を問わずに楽しんでもらえ、かつ日本らしさを感じてもらえるものを様々検討した結果「大量の駄菓子」を提供することになりました。準備段階ではかなりの台車2つ分以上の駄菓子を箱買いし、大量に余ったらどうしようという不安も少しありましたが、実際には2日目の後半で駄菓子はすべて無くなってしまうという大好評ぶりでした。

用意された駄菓子とドリンクコーナー
駄菓子とドリンクコーナー

ひとつひとつが個包装になっており海外の方々も手をのばしやすく、その場で駄菓子の説明を英語でされる方も何人かお見かけし、参加者同士の交流のきっかけ作りとしても正解な選択だったと思います。


以上、PyCon APAC 2023の様子をお伝えしました。今回はアジア太平洋地域を対象としており、国外からの参加者が思った以上に多かったのがカンファレンス期間を通して一番驚いたことでした。Pythonコミュニティの大きさや優しさを感じ取りつつ、これからもPythonでいろんなことにチャレンジしたり、深く研究できる分野が存在していることを知ることができた、非常にワクワクに溢れたカンファレンスだったと思います。

詳しい日程は確定していませんが、来年2024年はPyCon JPとして開催を予定しています。今年は残念ながら日程の都合で参加できなかった方も来年こそはぜひ、会場に足を運んでください。Pythonistaなあなたを満足させるたくさんのコンテンツがそこにはあることでしょう。また来年、皆さんに会場でお会いできることをスタッフ一同心待ちにしています。

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