primeNumberデータマネジメント特集

データを組織の武器にする!3原則+3ステップ

頑張ってデータ分析基盤を作っても、それが効果的に使われないということはよくあることです。前回の記事(⁠データ活用社会で活躍するための、非エンジニアのデータエンジニアリングスキル育成のヒント⁠)では、こういった状況への対策として、非エンジニアのデータエンジニアリングスキル育成の側面を整理しました。

今回は、その記事では論じることができなかった、データ活用プロジェクトの進め方のポイントについて、3原則+3ステップを取り上げます。これからデータ分析基盤を立ち上げる方や、立ち上げたけれどもなかなかその取り組みが浸透していかない方に、参考にしていただけると嬉しいです。

データ活用を進めるための3原則

データを活用した業務の改善/改革を進めていこうとするとき、その難しさは改善/改革という行為それ自体に伴うものと、データというドメインに由来するものがあります。

これらが混在しているからこそ、データ活用のプロジェクトには難しさがあります。具体的な進め方のプロセスに入る前に、私が基本になると考える3原則について確認しておきます。

原則①⁠プロセス変更に伴う⁠心理的ハードルと学習コストを最小化する

データ活用を進めていこうとするような人は、自分で積極的に学びながら新たな取り組みに挑戦していこうとするような志向性が強いでしょう。

ただ、一般的な組織メンバーではそのような志向性を持っているとは限らず、業務プロセスを変えることが簡単には受け入れられないことも多くあります。これまで慣れ親しんできたプロセスを変えることは、適応のための負荷をかけることであり、蓄積してきたものを崩して不安にさせることでもあるからです。

だからこそ、プロセスの変更に対して前向きにかつ負担がかからないようにすることは非常に重要です。その取り組みによってどのようなメリットがあるのか、どういうよい結果につながるのかというビジョンを共有しつつ、変更の範囲を統制することで、スムーズに適応していけるよう検討するのが重要になります。

原則②⁠不確実性の存在を受け止め⁠改善に重点を置く

データ活用のプロジェクトでは、データに由来するもの、データを活用する際の技術力に由来するもの、そしてそれを活用する人に由来するものと、多くの不確実性が介在してきます。このような不確実性を抱えながら、これまでと違うやり方を進めるとなると、当然ながらうまくいかないこともあります。実際やってみないとわからないこともあります。

そこで大事なのが、初めから時間をかけて完璧なものを作ろうとしないということです。とにかく小さく始めてみて、実際の効果を測定しながら、軌道修正していくという改善の考え方に重点をおきましょう。成功/失敗の2分法ではなく、いかに学習を深めて先に進められたかと考えるのが重要です。

原則③⁠組織に浸透させるための⁠支援者/推進者を味方につける

データ活用の取り組みを組織に浸透させていこうとすると、個人の力だけではなかなか難しく、組織のなかでうまく立ち回りをしていく必要があります。データ人材は合理主義的な人が多いと思われ、プロジェクトも合理的に進めていこうとしがちかもしれませんが、その進め方ではどうもいかないことがあります。

そこで重要なのが、組織のなかで2種類の味方を探すことです。

1つが支援者で、組織のなかでデータ活用の取り組みに挑戦するよう促してくれる人です。こういう人がいないと、実行の許可を得るためにコストがかかり、実行/改善のサイクルが遅くなります。

もう1つが推進者で、実務のなかで取り組みの試行錯誤を進めてくれる人です。データ活用を組織にスケールさせようとすると、各部門でハブになるような人材が必要になりますが、そういう人を見つけられると劇的に進みが早くなっていきます。

以上、これら3原則を前提にしつつ、ここからは実際に進めていく際の3ステップについて考えていきます。

データ活用を進めるための3ステップ

データ活用を進めていこうとするとき、図1の3ステップで進めていくのが望ましいと考えています。

図1 データ活用を進めるための3ステップ
図1

これらの内容を端的に言うと、①なぜその取り組みをやるのかを明確にし、②実行の負荷を最小化し、③実行状況や成果をタイムリーに把握し改善を進める、ということになります。以下では、これらについて詳しく見ていきます。

ステップ①⁠限定されたスコープでアウトカムを明確にする

データ活用に失敗する最大の原因が、この点がうまくできていないことだと考えています。データ領域にいるとあるあるの話ではありますが、下記のようなものはたいていうまくいきません。

要望 ありがちな結果
データ活用を始めないといけないと考えており、このデータを使って何かできないか データの品質が悪く使いものにならない
実運用に必要なデータが取れていない
世間で話題のAIを使って、自社でもすごい成果を出したい PoCまで進めたが、運用コストに対して事業インパクトが小さすぎ断念
高すぎる期待制度をクリアできず、結局人間がやるほうがいいとなる

こういった状況に陥らないためには、とにかく実施する施策の規模や利害関係者を限定し、目指す成果を明確にすることで、小さく確実に結果を出す(=いわゆるQuick Win)ことがポイントになります。

このやり方で進める理由は、3原則とも関連しています。スコープを限定することは、学習コストを抑制し、改善のサイクルを回すためのコミュニケーションを円滑にし、強い支援者の存在を不要にします。学習に応じてやり方を変更する際に、組織としての意思決定が重荷にならないかというのが重要な観点になるのです。

逆に、不要にスコープを大きくしすぎると、開始承認までのコストが大きくなり、実行中の試行錯誤の柔軟性を失わせ、場合によっては「失敗とは絶対に言えないプロジェクト」となってしまうことで、⁠改善に使えるリソース<組織政治で取り繕うためのコスト」になり失敗することになりかねません。

日本のデータ活用は付加価値創出ではなく業務効率化が多いとは言われますが、まず確実に結果を出せるところから取り組むことで組織としてデータ活用に前向きな土台を作ることと、その中での試行錯誤を通してデータ活用のスキルが培われていくことは重要なことです。いきなり複雑な課題に取り組まずに、組織の状況に適した取り組みから始めましょう。

ステップ②⁠業務プロセスに効果的に組み込む

やることの方向性が定まったあとは、とにかく業務プロセスへの組み込み方にこだわるのが重要です。⁠誰の」⁠どの業務を」⁠どう変えるのか」について、解像度高く考えられると、データ活用の取り組みは非常に進めやすくなります。

データを活用した業務の類型

これらを考えていくための起点として、データを活用してどのような取り組みができるか類型を考えるのは役に立つでしょう。それは、以下のとおりに整理できると考えています。

方向性 区分 備考
人間の判断/行動の支援 戦略検討の素材 抽象度高
戦術調整のツール 抽象度中
実行の参考資料 抽象度低
機械が自動処理する 全自動処理 複雑性高
半自動処理 複雑性小~中

これらについて重要なのは、抽象度が高いほど実施施策の不確実性が高く、施策の探索のコストがかかるのと、機械処理のカバー範囲が広い程技術的な複雑性が高く、実装コストがかさむということです。原則②の「改善に重点を置く」を念頭に置くと、実行しながら学習を進めるのを円滑にできる形で留めておきましょう。

使う人に合わせたデータの設計

ここの内容はやや判断/行動の支援によった内容にはなりますが、どういう立場でどういう業務をしている人がそのデータを活用するのかという観点から、やるべきことを検討するのは重要なことです。

見られないダッシュボードでよくあるのが、誰もが使えるように作ったところ、誰も使わなかったということです。みんな向けのものは誰向けのものでもないのです。人によってニーズがどう違うのかの例として、たとえば以下のようなものが考えられます。

  • 経営層:全社のKPIを把握して、事業の状態の大枠を掴みたい
  • ミドルマネージャー:部門のKPIやメンバーの活動を把握して、実行の調整に使いたい
  • メンバー:顧客のカスタマージャーニーを捉えて、効果的なアプローチを行いたい

全体的な事業の状況を把握したいのと、顧客のカスタマージャーニーをベースに考えたいのでは、まったくニーズが異なっています。見せ方の側面に関わらずですが、実際に行われている業務プロセスを深く理解することが、データ活用のうえで大事なことになってきます。

データをどう業務プロセスに組み込むか

原則①の「学習コストを最小化する」につながることですが、データを使わせにいこうとするとそこが壁になってデータ活用が停滞することがあります。作ったダッシュボードが見られなくなるのはよくあることですが、それは見るのが手間だからというのも一因にあるのです。

そこで、業務プロセスへの組み込みの観点で、重要と思えるポイントが4点あります。

ポイント 補足
見に行かずともデータが届く形にする SFAやMAなど、日常利用しているシステムにデータを連携する
SlackやTeams等のコミュニケーションツールに流れるようにする
一目で理解が進むように視覚的な補助を入れる 色やグラフなどを的確に使うことで認知負荷を下げる
理解したあとにとるべき行動の示唆が出るようにする 業務プロセスを深く理解し、その後の行動と連動させる
判断に困る際にはそこを起点に議論を進められるようにする コミュニケーションツールに流すと、スレッドで議論を深められる効果もある

このように、業務が行われるプロセスのなかに、データを利用した支援が組み込まれると、自然とその取り組みが進展していくことにつながります。

ステップ③⁠実行状況を適切にモニタリングする

最後のステップが、実行状況を適切にモニタリングすることです。原則②であったように、施策の開始をスタート地点として、そこからどれだけ試行錯誤を回せるかが重要だとすると、モニタリングは非常に重要な取り組みになります。

モニタリングには2つの側面があり、それは成果の測定と実行状況の把握です。前者はその通り、実施した施策がうまくいったかを判断するものです。ステップ①で明確にアウトカムを設定できていれば、どの指標をどう見るかは比較的明らかになるでしょう。これは原則③の支援者を厚くしていくために役立ってくるものになります。

後者の実行状況の把握は、データ活用の取り組みにどの程度協力的に取り組んでもらえているかというものです。

たとえば、ダッシュボードではアクセス状況をトラッキングすることができますし、何らかのデータ入力を求めるようなものがあれば、その入力率を見ることも1つでしょう。

取り組みがうまく進まないとき(そしてこれは往々にしてある)には、その対応は2つあります。1つが支援者の権威を借りて強制力を強めることです。これは短期的に確実に成果を上げますが、データ活用を形骸化させたり、反感を抱かせるような副作用が生じることがあります。

もう1つが、原則①にあるように心理的ハードルと学習コストの観点から取り組みを調整することです。データ活用に協力してもらえない理由をうまく特定して、改善のためにいかしていくことができます。

また、逆に取り組みがいいことを、原則③の推進者の発掘に使うこともできます。業務の改善/改革には必ずしも全員がついてきてくれるものではないので、初期には組織のエバンジェリストとなってくれそうな人を見つけて、その人を重点的にサポートすることが重要です。

まとめ

今回の記事では、データを組織の武器にするためのポイントとして、3原則と3ステップを取り上げてきました。データ活用を組織に浸透させていこうとするとなかなか個人の努力だけでは難しいですが、抑えておくべき基本的な考え方や、進めていく際に気を付けておくべきポイントを踏まえておくと、少しはハマりがちなポイントを予防することができるのではないでしょうか。

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