あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの中村直樹です。昨年と同じく、2023年のWebアクセシビリティに関連する出来事を振り返りつつ、2024年のWebアクセシビリティの展望について俯瞰していきたいと思います。
WCAG 2.2の勧告とWCAG 2.1の更新
長らく待ちわびていたWCAG 2.
今回のWCAG 2.
3.3.8 Accessible Authentication (Minimum)
認知に関する障害がある人の中には、パズルを解く、ユーザー名とパスワードを思い出す、ワンタイムパスコードを再入力するなどが困難な場合があります。パズルを解くなどをWCAG 2.
Understanding Success Criterion 3.
2.5.8 Target Size (Minimum)
WCAG 2.
具体的にはどのような場合にこの達成基準を満たすのかどうかについては、Understanding Success Criterion 2.
さて、機械的なチェックツールの第一候補として、ブラウザー拡張axe DevToolsを思い浮かべる読者も少なくないと思われます。axe DevToolsのエンジンであるaxe-coreは、GitHubレポジトリにある説明によると、この達成基準のルールは既に存在するものの、執筆時点ではデフォルトで無効になっているようです。どの時点で有効になるかはわかりませんが、将来的にはある程度、自動的にチェックできるようになるものと思われます。
Adrian Roselli氏のBlog記事24×24 Pixel Cursor Bookmarkletでは、ブックマークレットや関連するチェックツールについてまとめられています。手動でチェックするのに必要なツールはここから入手できるでしょう。
WCAG 3.0
W3C Accessibility Guidelines (WCAG) 3.
2023年11月に更新されたAccessibility Guidelines Working Group CharterからWCAG 3 Timelineというスケジュールが記載されたページに飛べます。これによれば、今年の1~3月にguidelinesを、7月~9月にconformance model(s)を更新する予定になっており、それぞれのタイミングでより具体的なものが見えてくるのではないかと思われます。もっとも、これは楽観的なスケジュールですから、終わってみれば今年も対外的には大きな動きはなかった、ということになる可能性もありえます。
JIS改正の動向について
JIS X 8341-3:2016の原案作成団体は、ウェブアクセシビリティ基盤委員会
臨時WGで合意した大きな方針としては、WCAG 2.
枠組みが定まっていない一番の要因は、W3CがISO/
W3CがPAS submissionを行っていれば、WCAG 2.
ところで、JIS X 8341-3:2016は、日本規格協会
このような複雑な状況ではありますが、どのようにJIS化できるのかについては、JSAと相談をしている最中であり、引き続きWAIC内部で検討を行っていく予定です。
臨時WGの活動状況
臨時WGでは、JSAとのJIS化の相談をする一方で、改正予定のJISの内容についても検討を行っているところです。
規格本体に関しては、前述のようにWCAG 2.
WAICでは、記事の冒頭にも述べたように、現時点ではWCAG 2.
WCAG 2.
また、JIS X 8341-3:2016の附属書JA/
JISが国際規格との一致規格であることを踏まえると、附属書からは削除して、WAICのガイドラインとして一本化するのはどうかという考え方があります。その一方で、後述する
情報アクセシビリティ自己評価様式
2023年4月に第5次障害者基本計画が開始しました。その中では、情報アクセシビリティ自己評価様式の普及促進が謳われています。
製品やサービスを自己評価する既存の枠組みとしては、欧米ではVPAT (Voluntary Product Accessibility Template)が知られています。VPATは、米国リハビリテーション法508条という、障害のある人が情報技術にアクセスできることを求める法律にどの程度準拠できているのかを示すものです。特にソフトウェアに関して大雑把に捉えるなら、技術的にはWCAG 2をどの程度満たせているかを報告する文書であると捉えればよいかと思います。
米国や欧州では、VPATが企業から提供されることによって、製品やサービスが障害者にとってアクセシブルであるかどうかを購入者や利用者が判断できるようにする仕組みになっています。このVPATのような仕組みについて、技術基準をJIS X 8341シリーズとして日本にも取り入れようとしているのが
WAICでは、昨年2月に
既存のVPATとの互換性について心配される面があるものの、自己評価様式の仕組み自体はアクセシビリティの取り組みを加速させるものです。将来的には政府調達に用いられる可能性もあると考えられます。未知数ではありますが、今後どのように議論が進んでいくのか見守りたいところです。
改正障害者差別解消法の施行とガイドライン
いよいよこの4月から、民間企業の
ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティは
オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う
(合理的配慮の提供) とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う (環境の整備)。
このように合理的配慮の事前準備として、ウェブサイトの改良、つまりアクセシビリティの向上に取り組むことが示されるようになり、ウェブアクセシビリティの注目度合いが高まりつつあります。
しかしその一方で、民間企業がウェブアクセシビリティにどのように取り組んでいけばよいのかというガイドラインは存在しません。従来から公的機関向けにはみんなの公共サイト運用ガイドラインがあるわけですが、法改正により公的機関と民間事業者の法的義務に違いがなくなった一方で、民間事業者向けにはそのようなガイドラインが存在しないという現状は、少々歪な状態にあるといえます。
みんなの公共サイト運用ガイドライン
PDFのアクセシビリティ
PDFのアクセシビリティに関して、PDF/
PDF/
これは、PDFの規格がWAI-ARIAを取り込んだとも解釈できます。WAI-ARIAはもともと、HTMLやSVGのようなマークアップ言語のセマンティックスを拡張するために策定されたものです。非マークアップ言語であるPDFが、マークアップ言語のWAI-ARIAを取り込むという事態は当初想定していなかったはずであり、WAI-ARIAのポテンシャルに驚かされているところです。
さて、HTMLでは、HTML-AAM
W3CとPDF Associationとの間で著作権をはじめとする権利関係をどう扱うのかという問題はありますが、法的な問題さえ解決すれば、
また、PDF Associationでは、昨年10月にPDF techniques for accessibility: a new modelという記事を公開しています。
WCAG 2.
この状況に対して、PDF Associationが独自のTechniquesを公開する予定としています。オリジナルのTechniques for WCAG 2.
ところで、官公庁では、比較的ウェブアクセシビリティに積極的に取り組んでいると思われる組織であっても、PDFファイルをそもそもの対象外としているサイトが見受けられます。例えば、福岡市は可能な限り代替情報の提供に努めるとしていますが、PDFを対象外としています。内閣府も同様に対象外です。ただし、アクセシビリティ方針制定後に内閣府で作成するPDFデータについては、準拠に努めるとして前向きな姿勢を見せています。
デジタル庁では、PDFを試験対象ページから除外しているようです
ウェブページ及びPDF文書を作成する際のフローや各種ガイドライン、アクセシビリティ確認体制の整備などを進めてまいります。
と記載されています。特に官公庁では大量のMS WordやPowerPointが生成され、その大多数はPDFとして公開されている状況にあると考えられます。PDFについては、HTMLでも同じ内容を代替として提供する方法はあり、みんなの公共サイト運用ガイドラインでもそのことに言及していますが、PDFの全部をHTMLにするのは限界があると考えます。また、PDFを取り巻く環境も変化しています。上記引用にあるように、PDF文書を作成する際のガイドラインをデジタル庁から発行することに大いに期待したいところです。
2024年1月15日追記
「ウェブアクセシビリティ」
試験対象ページ以外のページにおいても、以下の課題が引き続き残っていることを認識しています。
- PDFで提供している情報について、以下の課題があります。
とあるため、PDFファイルについて別途調査を行ったものと認識していましたが、実際にはPDFファイルが試験対象URLに1つ含まれていました。お詫びして訂正します。