3DP ジャングル

ついにAutodesk Fusionデビュー⁠そして3DPの次のステージへ

本連載では今回からAutodesk Fusion(以降Fusion)[1]を前提とした解説に移ります。前回までの解説に利用していたOpenSCADより直感的な操作が可能なCADソフトウェアを利用することで、より複雑なデザインを作成したり、デザイン作成をより効率よく行っていきます。

Fusionは機能限定版の個人用があり、非商用利用であれば無償で使えます。無償版の場合は同時に編集できるデザインは最大10個までですが、現実的にはそれほど問題にならないでしょう。多少の操作感の違いはありますが、もちろん他の同様なCADソフトウェアである、FreeCADOndselSolidworksOnshape等を選んでも問題ありません。

今回はFusionの基本的な機能の概要と、OpenSCADでは実現しにくかったいくつかのディテールの作成方法を紹介します。Fusionに限らず、このようなCADソフトウェアを扱えるようになることで3Dプリントできるモデルの幅がぐっとひろがります。

スケッチからソリッドへ

Fusionでは厚みを持たない2D/3Dのオブジェクトをスケッチと呼びます。また、厚みを持った3次元のオブジェクトをソリッドと呼びます。スケッチではいわゆる平面図を作成できます。OpenSCADのcube/cylinderのようにいきなりソリッドからモデリングを行うことも可能ですが、多くの場合ではまずスケッチを作成してからそれを元にソリッドを作成・変形させていきます。

図1 スケッチの例
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前述の通りFusionおけるソリッドとは厚みを持っているオブジェクトのことで、そのオブジェクトを指す場合にボディと呼びます。今回は紹介しませんが、厚みを持たないサーフェスという3DオブジェクトもFusionには存在します。ちなみにサーフェスのインスタンスもボディと言います。

図2 複数ボディで構成された箱
図2

OpenSCADでも平面に図を描画してから押し出しを使って3Dモデルを作成することは可能でしたが、図を構成する点や線の位置は絶対座標で指定する必要がありました。Fusionでは拘束という概念を利用して、相対的な位置関係を指定できます。

例えば、⁠直線AとBは直角に交わる」⁠直線Cは円Dの接線である」などの拘束を指定できます。絶対座標で同様のことをするにはすべての関係性を数学的に指定する必要がありますが、拘束を使った方法であればより人間の直感に近いレベルでの指定ができるようになります。これとは別にもちろん線の長さなどを指定する方法もありますが、拘束を上手に使うのがFusionを使う際のコツと言えると思います。

以下の図では2つの直線が交わる部分で三角やトンカチのようなマークが3つあります。これらは三角から時計回りに「中点」⁠直交」⁠水平」拘束となります。これらを指定しておくことで、例えば底辺の長さを変えても縦の線は必ず底辺の真ん中に来ますし、それぞれの線の角度が間違って変わってしまうこともありません。

図3 拘束のサンプル
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これらの線がつながり、閉じた形となったものをプロファイルと呼びます。任意のプロファイルを指定し押し出しを行うことで3Dモデルを作成できます。以下の図ではプロファイルと認識された部分が水色になっています。

図4 プロファイルのサンプル
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図5 プロファイルからの押し出し
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また、Fusionのスケッチでは通常の線とコンストラクション線のどちらかを指定できます。プロファイルは通常線でのみ作成され、コンストラクション線では作成できません。つまりコンストラクション線からは押し出しはできません。コンストラクション線はいわゆる補助線と考えてよいでしょう。コンストラクション線を上手に使えば押し出しの邪魔をせずに拘束を追加できます。

ポストプロセシング

3Dモデルの形ができたあとにポストプロセシングができるのもFusionの魅力です。OpenSCADではひとつの式が実行された後でさらにその3Dモデルを変更することはできませんでしたが、Fusionならばすでにできあがった3Dモデルそのものはもちろん、そのモデルを構成する辺や面に対してあとから様々な処理ができます。

OpenSCADで簡単に行えない、しかし非常に実用的なポストプロセシングの一つがいわゆる面取りです。面取りとは任意のボディに存在するエッジ(辺)に対して、斜面を作る行為です。

図6 面取りをする前の箱のエッジ
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図7 面取り後の箱のエッジ
図7

面取りを行わないと、プリントされたアイテムを手に持った時にそのエッジが手に食い込んで持ちにくくなります。小さい差ですが、手に持って使う部品などではできあがりがこれだけで大分違ってきます。

またプリントした際にプレートとの接地面が比較的大きいモデルはプレートからはがすのに苦労しがちですが、これらのモデルの接地面のエッジに面取りを行うとエレファントフットを軽減できるとともにプレートからはがしやすくなります。

図8 第3回で紹介した、面取りしてない状態
図8
図9 面取りした時の接地面
図9

面取りは直線的に該当部分を補正しますが、フィレットは滑らかな曲線で同様の処理を行います。フィレットのほうがデザイン的に美しいことは多いですが、3Dプリントの実用的な面においては面取りで充分なことが多いです。

図10 フィレットの例
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そしてもうひとつよく使う機能がプレス/プルです。これは任意のソリッドのボディを構成する面を選択すると、その面を指定した距離だけ直線方向に動かせるものです。この機能はは例えば複数のボディのクリアランス(お互い触れないためにあけるスペース)をあけるのに便利です。

以下の図では以前の記事で作った、立方体の中心を円柱が通るモデルのクリアランスを設定しています。

図11 プレス/プル前の状態
図11
図12 プレス/プル後の状態
図12

これらの機能を使うと以下のようなモデルが完成します。本連載第3回でOpenSCADを使ってデザインした際にはなかった上下の面取り、縦のエッジのフィレットなどが存在するのがポイントです。是非そちらとも見比べてみてください。

図13 ポストプロセシングをあしらったデザイン
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図14 実際出力した結果
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次のステップ

ここまで大分話が長かったですが、モデリングの基本とより高度な表現力を(手軽に)可能にしてくれるCADソフトウェアを得ることができました。次回以降はよりよいプリント結果を得るためのモデリング、さらに高度なデザイン方法、そしてプリントする際の注意事項などを紹介していきます!

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