OSSデータベース取り取り時報

第104回MySQL HeatWaveのECPUシェイプ登場⁠“Tsurugi”ロードマップとCloudNativePG情報

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

OSS全般での気になる動き

OSSデータベースに特化した話題ではありませんが、OSS全般のニュースを2つ取り上げます。

IPAがOSS推進のための情報発信をスタート

3月19日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が、OSS推進の情報ページを開設しました。現時点では公的・準公的な団体から発表された情報を中心としたリンク集といった構成で、日本OSS推進フォーラムが作成・維持しているOSS鳥瞰図も案内されており、ここにOSSデータベース各種も載っています。今回開設されたWebページではIPA以外からの情報提供も受け付けており、今後はOSSについて最初に見に行くWebサイトのひとつに発展することを目指しています。

IPAのOSS推進Webページ
IPAのOSS推進Webページ

OLL Awards褒賞者発表

3月7日、一般社団法人オープンソースライセンス研究所(OLL)が、2023年度のOLL Awards褒賞者を発表しました。このアワードは、オープンソースで活躍する方々を表彰し、オープンソースライセンス研究の意義を広く社会に伝えるために開催されています。今回の褒賞では、団体としてOpenChain Japan Work Group FAQ Subgroupの他、個人として3名の方が受賞されました。

ライセンスはOSSの特徴的な面であるにもかかわらず、正しい理解が難しいものでもあります。また、ここ数年間は、クラウドサービス事業での利用に関連してOSSデータベースが独自のライセンス体系に切り替える事例がいくつも出てきています。ライセンス分野で専門的知見を持った方や、OLLのような団体の活動がこれまで以上に重要になってきそうです。

[MySQL]2024年3月の主な出来事

3月のMySQLの製品リリースはありませんでした。MySQL HeatWaveのサーバーの仕様と課金単位を表すものとして「ECPUシェイプ」が追加されました。

なおMySQL HeatWaveの正式名称が、従来のMySQL HeatWave Database ServiceからMySQL HeatWave Serviceに変わっています。名称変更の理由は公開されていませんが、HeatWave Lakehouseが加わったことでこれまでのリレーショナルデータベースの世界を飛び出して、より多彩なデータを管理および分析対象とできるようになったことを踏まえて、あえてDatabaseをサービス名から削ったとみることもできます。なお通称はMySQL HeatWaveのままです。

MySQL HeatWaveの「シェイプ」―OCPUとECPU

「シェイプ」とは、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)における各インスタンスCPU数、メモリサイズ、およびその他のリソースを示すものです。これまでMySQL HeatWaveではOCPU(Oracle CPUの略、ゼロCPUではない)シェイプを使用していました。OCPUシェイプはMySQLサーバーおよびHeatWaveノード稼働するサーバーのアーキテクチャに対応したシェイプとなっています。AMDのシェイプ、Intelのシェイプなど複数のアーキテクチャに応じたシェイプが用意されています。

CPU OCPUシェイプのカテゴリ名
AMD EPYC 7742 MySQL.VM.Standard.E3
AMD EPYC 7J13 MySQL.VM.Standard.E4
Intel Xeon Platinum 8358 MySQL.VM.Standard3
Intel Xeon 6354 MySQL.VM.Optimized3

1 OCPUは1物理コアに該当します。実際のシェイプ名は物理コア数とメモリサイズが含まれています。たとえばAMD EPYC 7J134を4物理コアと64GBのメインメモリを搭載したシェイプの名称は、MySQL.VM.Standard.E4.4.64GBとなります。

OCPUシェイプではHeatWaveクラスターを追加できるシェイプが限られており、

  • 16 OCPU+512GBメモリを搭載したMySQL.HeatWave.VM.Standard
  • 128 OCPU+2048GBメモリを搭載したMySQL.HeatWave.BM.Standard

のいずれかのみとなります。後者はベアメタルのマシンになります。

ECPUはElastic Central Processing Unitの略で、サーバーのハードウェアのアーキテクチャに依存しない課金体系です。1 ECPUあたり8GBメモリを含んだ価格となっています。

たとえば上記の例の4 OCPU+64GBメモリのシェイプで比較すると、同等のECPUシェイプの名称はMySQL.8です。ストレージを最小の50GBとしたときの価格はどちらも月間¥30,778.05で変わりません。OCPUシェイプとECPUシェイプの違いはハードウェアに依存しないことだけでなく、ECPUの場合には用意されている8種類の全てのECPUシェイプにHeatWaveクラスターを追加できることです。これによってより柔軟な選択が可能になっています。

[PostgreSQL]2024年3月の主な出来事

3月はPostgreSQL本体のバージョンアップはありませんでしたので、周辺ツールのリリースなどをお知らせします。その前に、この連載で以前から注目しているProject Tsurugi(劔)の最新情報をお伝えします。

劔“Tsurugi”のロードマップ

劔“Tsurugi⁠は次世代の高速DBエンジンで、フロントエンドにPostgreSQLを使うことができるものです。この連載では以前から注目して動向をお知らせしてきました。2023年10月にオープンソース版、2024年1月にベータ2が公開されるなど活発に活動されています。2月末には今後に向けたロードマップが公開され、開発方針と予定が示されました。詳しい説明はブログ記事に記されています。

2024年から2025年の期間に、リリース候補(RC)版、そして正式(GA)版のリリースを目標にしています。このリリースの内容は、現状と同じ単ノードで稼働する状態で、対応プラットフォームの拡充や障害対策の強化、優先度の高いSQL実装の追加などが計画されています。また、この期間には複数ノードに跨がって実行させることも目標にしています。ただしこの複数ノード版は、この期間内のものはベータ版もしくは試験的実装に留まるのではないかとのことです。

さらにロードマップとしては2026年以降の計画というか目論見も示されています。中長期で野心的な挑戦がまだまだ続きそうですので、これからも劔⁠Tsurugi⁠の動向に注目してください。

CloudNativePG関連いろいろ

3月15日にCloudNativePGのバージョン1.22.2と1.21.4がリリースされました。CloudNativePGはKubernetes環境でPostgreSQLを稼働させるKubernetes Operatorで、この連載の第92回でも取り上げていました

今回のマイナーリリースでは、次のような機能強化や改善が成されています。

  • GUC(Grand Unified Configuration)パラメータのwal_levelのカスタマイズ
  • オペレータが管理するTLS証明書の構成可能な期間
  • publicationとsubscriptionコマンドグループがcnpgプラグインに導入されて、ネイティブ論理レプリケーションのシームレスな管理が容易に
  • その他のバグ修正

また、同じく3月にCloudNativePGに寄与しているEDBからもCloudNativePGおよびEDB Postgres Distributed for Kubernetesに関する情報発信がありました。これらの情報も参考になるでしょう。

PostgreSQL JDBC 42.7.3, 42.6.2, 42.5.6, 42.4.5, 42.3.10, 42.2.29がリリース

3月19日に、PostgreSQL用のJDBCドライバのマイナーバージョンがリリースされています。JDBCドライバについては、この連載の前回に脆弱性が見つかり修正版が出ていることをお知らせしましたが、今回はそこからマイナーバージョン番号が1つ上がっています。今回のリリースには次の点が修正されています。

  • ブール型を単純なクエリモードで処理
  • Java 8で実行中のByteBuffer#positionでのNoSuchMethodErrorに対処

2024年4月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

オープンソースカンファレンス2024 Nagoya/Hokkaido/Kyoto

日程 〔Nagoya〕2024年5月25日(土)10:00~18:00
〔Hokkaido〕2024年6月29日(土)10:00~18:00
〔Kyoto〕2024年7月27日(土)10:00~18:00
場所 〔Nagoya〕中小企業振興会館(名古屋市)
〔Hokkaido〕札幌市産業振興センター(札幌市)(予定)
〔Kyoto〕京都リサーチパーク(京都市)(予定)
内容 今回お知らせするNagoya、Hokkaido、Kyotoはいずれも展示とセミナーの両方を会場にて開催します。セミナーのオンライン配信は予定されていません。ただし、出展者が独自に配信を行うセミナー枠はあるかもしれません。Nagoyaは4月15日まで出展募集中、Hokkaidoは4月上旬に出展募集を開始予定、Kyotoは5月上旬から出展募集を開始予定です。OSSデータベース関連の展示やセミナーは、出展者の決定後に各開催回のWebページをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

MySQLで実践する機械学習 - HeatWave AutoML (Oracle AI Brown Bag Seminar#10)

日程 2024年4月12日(月)12:00~13:00
場所 オンライン
内容 MySQL HeatWaveでは機械学習プラットフォーム(HeatWave AutoML)を提供しており、インスタンスを起動すると機械学習の実行環境をすぐに利用することができます。今回は、HeatWave AutoMLの概要、実際の操作方法とデータベース内で機械学習を実践することのメリット、活用事例などをご紹介します。
主催 Oracle Code Online

クラウドデータウェアハウスは絶対MySQL HeatWaveを見るまで決めるな!

日程 2024年5月24日(金)16:00~17:45
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 機械学習とビッグデータはデータ活用における近年のキーワードであり、昨今は生成AIの文字を見ない日はありません。多くのお客様がこれから導入したいテクノロジーとして検討されています。今回はデータ活用に豊富な経験をお持ちのパートナーである株式会社ジール様をお迎えし、業務に即したデータを用いて機械学習およびビッグデータ活用の現実面をご紹介いたします。データ活用における想定外のレスポンス遅延や予算オーバーなどの課題をお持ちの方はもちろん、BIツール選定や機械学習の採用に悩まれている方もぜひこの機会にHeatWaveの驚異的なスピードと機能をご体感ください。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

MySQL5.7の次ステップの最適解⁠移行を成功させるノウハウを半日で習得(大阪開催)

日程 2024年4月25日(木)16:00~17:45
場所 TKPガーデンシティPREMIUM心斎橋 カンファレンスルーム4E
内容 MySQL 5.7からの移行を検討されている方々へ、半日で必要な情報を凝縮してお届けします!!MySQL 5.7は、2023年10月から新規のパッチが提供されないSustaining Support期間に切り替わりました。この移行期において、パッチの提供が続くMySQL 8.0や最新のイノベーション・リリースであるMySQL 8.3、あるいはクラウド環境であるMySQL Database Serviceへの移行など、多岐にわたる選択肢が存在します。しかし、何が最適なのかを見極めることは容易ではありません。
本セミナーでは、MySQL 5.7を利用し続けるリスクや移行先の選択肢、また移行に必要な情報をわかりやすく解説します。5.7から8.0や8.3への移行や今後リリースが予定されているLTS(Long Term Support)リリースへの対応方法に迷われている方や、クラウドサービスであるMySQL Database Serviceへの移行も考えたいという方に必見の内容です。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

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