日本IBMは2024年春、AI/データ プラットフォーム
生成AIは戦国時代に突入している。
ChatGPT、Google Gemini、Claude、Meta AIなど数多登場している。そして、国産言語AI開発も、ソフトバンク、NTT、NEC、サイバーエージェントなど名だたる大企業が名を連ねている。
我が古巣である日本IBMもAI/データ プラットフォーム
- Granite
(読み:グラナイト) の特徴はなんなのか? - IBM watsonx / Graniteを活用するメリットはなんなのか?
戦国時代を彷彿とさせるAIの世界で、多くの武将たちが覇権を競う中、武将の一人として活躍する日本アイ・
“Granite / グラナイト”とは何者か?どのような課題を解決するために作られたものなのか?
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田中:GraniteはIBMが提供しているLLMです。ただ、昨今の生成AIのムーブメントで登場した物ではなく、大きな流れの一環にあるものとして捉えていただきたいので、まず全体像からお伝えしていきます。
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ご承知のとおり、IBMでは2014年からAIプラットフォーム Watsonを展開しています。日本でも2015年からビジネスの現場でAIを推進することを目的にWatsonを展開しています。
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我々はコンシューマ向けではなくビジネスプロセスの中で、AIによる自動化・
効率化を支援することを目的にしています。そして、近年、生成AIへの注目が高まる中、IBMとしてもお客様の生成AI活用を支援するために新しいAIプラットフォームwatsonxを2023年から展開し始めています。このwatsonx上で、生成タスク用に設計されたIBM独自の基盤モデルとして提供するLLMがGraniteモデルファミリーであり、そのファミリーメンバーとしてGranite日本語版を2024年2月に提供開始しました。 -
昨今話題のChatGPTなどの生成AIはコンテンツを生成することにより、ブレスト相手、アイディア創発として役立っていますが、LLMはコンテンツ生成だけではなく、従来型の機械学習で取り組まれてきた情報分類・
抽出にも活用することが可能です。 -
Graniteの言語モデルは、インターネット、教育機関、各種規定、法律、金融にまたがり信頼性の高いエンタープライズ・
データでトレーニングされています。 -
こうしたビジネスに特化した基盤モデルを使うことにより、従来の機械学習のように1から学習をしなくてもビジネスで求められるAIタスクを実現できるので、特に効率性やスピードを意識して企業特化のAIを獲得したいお客様に使ってもらいたいと考えています。
Graniteファミリーにはどのようなものか? 製造業、農業など産業別に使えるものか?
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田中:現時点では製造業向けなど個別の業界業種別のモデルがあるわけではありません。Granite本体と、Graniteコード、Granite日本語版がファミリーメンバーとしてあります。
「Graniteコード」とは何か。Graniteファミリーはオープンソースで提供するLLMモデルなのか?
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田中:GraniteとGranite日本語版はオープンソースではありませんが、その技術仕様を公開し、モデルの透明性を担保するアプローチを取っています。また、コード生成に特化したLLMであるGraniteコードは、2024年5月8日よりオープンソースモデルとして公開しました。
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また、IBM以外の企業やコミュニティも含めてオープンソースLLM開発のさらなるオープン化をリードする取り組みも進めており、さまざまなベンダが貢献し合いながらLLMを開発していくアプローチである
「InstructLab」 を2024年5月に発表しました。特定のベンダに閉じたLLMを使うのではなく、さまざまなベンダの貢献によって成長するLLMのマーケットを活況化させてければと考えております。
IBM watsonx / Graniteが加速させる生成AIビジネスはどのような領域か?
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田中:Graniteはコンテンツ生成、プログラミング・
コード生成、分類・ 抽出、検索と生成を組み合わせるRAG (Retrieval-Augmented Generation) といった幅広い生成AI用途に活用できますが、ビジネス現場で使うことを目的とした強みが2つあります。
ビジネス利用メリット①:クラウド提供型とソフトウェア提供型による選択
IBM watsonxはクラウド提供型と、オンプレミス環境に導入していただくソフトウェア提供型の2種類を準備しています。ChatGPT、Geminiなどコンシューマ向けに認知されているものはクラウド一択ですが、データやモデルをクラウドに公開したくないお客様には、自社データセンターに導入可能なソフトウェア提供型をご活用いただくことができます。
ビジネス利用メリット②:モデルのソース・信頼性の担保
業務で活用することを想定した信頼性を担保していることもメリットとして挙げられます。お客様からご指摘いただくポイントとしては、一人ひとりの従業員の生産性向上も大事ですが、生成されたものが著作権侵害など、企業にネガティブインパクトを与えてしまうではないかどうかといった点に対処できることも重要であるということ。
IBMが提供しているものはモデルがどのソースからの情報を得ているのか、モデルの信頼性が担保されているので、安心して使えるというお声をいただきます。
コンシューマ向けの生成AIで盛り上がっているプロンプトエンジニアリングよりも踏み込んでモデルを企業向けにチューニングするための支援機能を提供していることもIBM watsonxの特徴として加えられます。
IBMは「AI倫理委員会」を設けてAI活用に関する価値観を明確化するなど、信頼高いAIがIBMであるという印象がある。「信頼」できるAIを担保しているのは何か?
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田中:
「信頼」 を担保するための取り組みにはさまざまなレベルがあります。
- モデルを作る際の信頼性の確保
(入口の信頼性) - モデルを使用する際の、モデル出力結果を評価する機能の提供
(出口の信頼性) - 企業の機密情報漏えいを防ぐオプトアウト機能
- 第三者から訴えられたときの契約上の保護
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田中:この入口から出口までの信頼性を意識しているという点でもIBMはお客様に安心して使っていただけると考えております。
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また、IBMの
「AI倫理委員会」 の取り組みには外向けと内向けの2種類あることも追加させてください。内向けにはIBMのAI製品がAI倫理のガイドラインやポリシーに即して開発されているかどうか社内の開発体制に対して厳しくチェックをしている点、また、外向けにはお客様への提案時に、AIを活用したデリバリーの内容がIBMのガイドラインやポリシーに準じているかどうかもチェックしています。
生成AIをビジネス活用する上でお客様が気をつけるべきこと、大事にすべきことは何か?
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田中:選択肢を多く持つことが大事だと考えております。単一のモデルですべてのユースケースをまかなおうとするのではなく、複数のモデルの中からユースケースに合わせて最適なモデルを選択できるような仕組みが重要だと考えております。
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また、ユースケースへの適合性だけではなく、コスト、信頼性、スピード、パフォーマンスといった視点もモデルを選択する際に重要となります。
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そして、開発・
テスト・ デプロイ・ 運用というAI開発のライフサイクル全体を見据えることも大事です。従来型の機械学習の領域ではMLOpsの考え方は広く認知されていますが、生成AIの活用において同様の視点を持って取り組んでいるお客様はまだ多くありません。まずは使ってみよう! という姿勢も大事ですが、それを本番展開に繋げていく道筋をしっかりと描きつつ仕組み化を進めることも大事だと考えております。
他の生成AIやLLMとの比較をした場合の強みはどこにあるのか?また、田中氏が考える2024年時点での生成AIのポイントはどこか?
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田中:ここまで何度か言及してきましたが、IBMではAIの信頼性にフォーカスをしております。また、お客様のビジネスの中で使ってもらうことを第一に考えているので、クラウドだけではなくオンプレミスでも活用できるソフトウェアの提供も行っており、モデルを業務にフィットさせるためのプロンプトエンジニアリング、チューニングという選択肢を提供しております。業務の中で使っていただくための仕組みを幅広くて供していることが他社との違いとなるのかと考えております。
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そして、生成AIを本番モードに切り替えていくのが2024年であると考えております。2023年まではPOCの期間だったと言っても良いでしょう。いよいよROIを考えるタイミングになってきており、コストとスピードがより大事になってくるのが2024年でしょう。
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IBM Graniteは他社に比べてモデルが軽量なので、利用コストが安く、生成スピードが速く、チューニングが容易であることも、本番化へと進めていく際に活用いただきやすい利点だと考えております。
Graniteが注力するユースケースはどこか?
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田中:LLMは主にインターネット上に公開されているデータをはじめとする種々様々なデータを学習するのが一般的ではありますが、Graniteはそれに加えて法務・
財務系の情報や医療論文の情報を多く含めて学習しているので、法務・ 財務系の領域や医療・ 創薬などの領域で活用いただく際に有利な点があるかとは考えておりますが、必ずしも特定のユースケースに限定されるものではないと考えております。 -
Graniteの特性はさておき、弊社のコンサルティング部門への問い合わせでニーズが高く、IBMならではの分野というと、IT開発 / 運用の領域でのAI活用は強みとして挙げられるのではないかと考えております。
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生成AIでコード生成ができるというのはすでにコンシューマレベルでも話題になっておりますが、ITの開発・
運用で必要とされる作業はプログラミングだけではありません。要件定義、設計書作成、テスト仕様策定、テストコード生成など開発のあらゆる場面で生成AIが活用できる可能性があります。また、過去に開発されたシステムのプログラムから生成AIで仕様書を作り、リバースエンジニアリングに活用することもできるのではないかと考えております。 -
また、運用フェーズでもエラーコードの分類、エンドユーザーから上がってくるチケットをAIによって解釈し開発・
運用に活かしていくことも可能です。 -
弊社が有しているITの知見をお客様に提供する際の、スピードや効率化をAIによって後押しするようなソリューションを現在考えております。
最後に、生成AIはどのように人間社会を豊かにすると考えるか?
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田中:IBMはビジネスのためのAIに注力しているため、世界を一変させるというよりも、ビジネスの世界をAIによって変革させたいという気持ちを強く持っています。
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ITの世界はビジネス主導で動く時期とテクノロジ主導で動く時期があると言われますが、現在はまさに生成AIの登場によってテクノロジ主導で動いている時代だと考えています。
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ただ、テクノロジ主導の時代においても、大切なのはお客様ご自身で業務の課題解決をどう進めていきたいか、業務をどう伸ばしていきたいかという熱量です。
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「生成AIのテクノロジを提供できるからお客様をここに連れていきます!」 という驕った考え方ではなく、お客様が抱えている課題を、最新のテクノロジーを活用しよりスピーディーに解決するお手伝いしたいと考えています。その動きが、社会全体の成長に寄与すると信じています。 -
私たちはお客様が実現したい社会を、触媒
(カタリスト) としてテクノロジーと知見を武器にお手伝いしていきたいと考えております。
田中氏の話を聞いていると、IBMはAI戦国時代における黒田官兵衛のような存在にも思えてくる。戦国時代の名参謀だ。各企業が戦略をたて、良い戦いを行い、新しい時代を切り拓いていく清々しい未来が想像できる取材だった。
「試してみた!」