OSSデータベース取り取り時報

第108回ビジネス変革にOSSが武器になる!思えるためにはどうする? MySQL 9.0イノベーション⁠リリース提供開始⁠PostgreSQL 17ベータ2

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

オープンソースカンファレンス2024 Kyotoの企画セミナー報告

前回お知らせしたとおり、OSSコンソーシアムでは7月27日(土)に京都で開催された「オープンソースカンファレンス2024 Kyoto」に参加して、企画セミナーを行いました。

テーマ ビジネス変革にOSSが武器になる!と思えるためにはどうする?
日時 2024年7月27日(土)15:00〜16:45
会場 京都リサーチパーク
⁠オープンソースカンファレンス2024 Kyoto内)
登壇者 今村かずき独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
野原直一株式会社ウェブチップス
竹岡尚三株式会社アックス
内田太志株式会社インプリム
梶山隆輔Oracle Corporation MySQL GBU
溝口則行TIS株式会社

前半はIPAの今村さんとOSSコンソーシアムの部会リーダーの野原さんから講演をしていただき、後半はOSSコンソーシアムの他のメンバも加わりパネルディスカッションを行いました。ここではその概要と、印象的な発言などについて報告します。

サステナブルなコミュニティ実現に向けた私たちのオープンソース推進

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の今村かずきさんの講演です。

IPAのデジタル基盤センターでは、2024年3月からOSS推進の情報発信をスタートしています。今村さんからは、IPAがOSS推進に取り組み始めた背景とともに、OSSへの取り組みが継続的であるためにはどうあるべきかについてのお考えが示されました。

現在はソフトウェアが広く活躍する社会になり、産業界としてもソフトウェアをビジネスの武器にしていく必要があります。IPAでは、そのためのソフトウェアエンジニアリング革新の一環として、OSSの活用支援に着手しました。そしてOSSが普及し発展する核である、コミュニティがサステナブルであるためのポイントを示していただきました。その基本は「オープンであることをあたりまえにやる」こと。その「あたりまえ」とは次のようなことです。

  • オープンにして⁠やる”
  • グローバルコミュニティの一員であると意識する
  • 多様性・包摂性・公平性を尊重する
  • ルールの設定・実施・改善でガバナンスを強化する

これらは一見すると統一基準で縛るような印象を感じるかもしれませんが、そうではなくて、これらに配慮することによって心理的安全性が高まることが重要なのだと言います。そして、コミュニティがサステナブルになることで、活動を好循環に変えていこうというメッセージでした。

IPA今村かずきさんの講演発表
IPA今村かずきさんの講演発表

自社オープンソースで10年間ビジネスをしたらこんな感じになりました

講演者の野原直一さんは、ウェブチップスの社長としてOSSのCMSツールSHIRASAGI(シラサギ)を開発・提供されると同時に、OSSコンソーシアムのビジネスアプリケーション部会リーダーや、徳島県情報産業協会の会長としても活躍されています。ちなみにSHIRASAGIで採用しているDBツールはMongoDBです。この発表ではSHIRASAGIを開発・提供してきた経緯を紹介され、成果をオープンにしていくことの難しさや苦労と共にメリットも紹介いただきました。

難しさの例としては、前職である公的組織と共にOSSを開発してきた際に、公的組織として公平性を保つために、想定外の制約が条件に付いたという経験を紹介いただきました。逆にメリットとしては、デモサイトや成果を公開するGitHubがいわば自動化された営業ツールとして機能しており、全国の中小ITベンダーのみなさんが関わっていただくことにつながっているとのこと。全国39都道府県の139社に広がったのはOSSだから可能になったのでしょう。

また、OSSコンソーシアムの部会活動として、OSS採用事例をもっと知ることができるように事例紹介サイトを立ち上げています。現時点では始めたばかりなので数は多くありませんが、OSSコンソーシアムの会員企業でなくても、広く知ってほしい採用事例があればどしどしご提供いただいて、有益な情報提供の場に成長できればありがたく思います。

OSSコンソーシアムの事例紹介のWebページ
OSSコンソーシアムの事例紹介のWebページ

パネルディスカッション

「ビジネス変革にOSSが武器になる!と思えるためにはどうする?」というテーマを起点に、いくつかの小テーマについてパネリストに意見をお話しいただきましたので、出された意見の一部を紹介します。

“OSSはビジネス変革の武器になるはず”は本当か?
この問いへの回答の他に、各パネリストが今現在は何に目を向けているのかなどの紹介も兼ねています。
  • OSSではライセンス費用の面でのメリットを感じてもらえるケースも多いのですが、有効活用する(武器にする)にはそれなりの力量も必要になります。現状ではOSSを武器にできているのは提案力のある大手ITベンダーが有利なのではという意見がありました。
  • OSSはベンダーロックインが無い点が最大のメリットであるので、その特性を活かすのが良いという意見もありました。
  • OSSだけではありませんが、デジタルによるビジネス変革の文脈では「ユーザ企業」「ベンダー企業」を区分けして話をすることが多くありますが、それを当たり前と思っている人たちばかりでは無いのだという点も印象的でした。
一緒にOSS推進をする“誰か”に対して期待することは?
  • 前述のユーザとベンダーの区分けともつながりますが、公的機関と民間という区分けをすることの良し悪しもありそうです。共に目標に向かうコミュニティ的な意識も大事なのでしょう。
  • OSSを採用しようという方たちには「自分にも何らかの貢献ができないか」と考えて欲しいという期待も示されました。もちろん開発に貢献するのは簡単ではありませんが、開発以外にもいろんな関わり方があることを継続的に発信すべきなのでしょう。
  • 調達仕様書に「OSSは使わないこと」や、それに近い表現の指定が書かれてしまっているケースが残念ながらときどきあるそうです。調達側はOSSについての偏見があるわけではなくて単にわからないだけなのでしょう。OSSを語る人たちが「OSSは問題無いよ」というメッセージを継続して伝える努力をするべきでしょう。
  • 開発成果をOSSにして顧客にも提供するようになってから、積極的に使ってくれる企業にはOSSなどオープンなものに前向きな方が「たまたまいらっしゃったから話が進んだ」というケースがいくつもあるという経験も示されました。そういう人たちとのコネクションが増えるような場が望ましいのでしょう。
パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの常として講演発表で取り上げにくい話題を扱おうとしたので、今回も即効性のあるノウハウを与えることができたわけではありません。さまざまな立場のパネリストや会場からの意見・質問を含めた全体として、問題点やその他の何らかの気づきにつながる場となってもらえればありがたいと思います。

今回の企画セミナーの講演資料などは準備が整ったものから順次公開していきます

[MySQL]2024年7月の主な出来事

7月1日にMySQL 9.0イノベーション・リリースが公開されました。またMySQL 8.4 LTSとMySQL 8.0の各マイナーバージョン、および各クライアント・プログラムがリリースされました。ただし、この日リリースされたMySQLサーバーの各バージョンにはテーブル数が8,001を超えている環境で再起動に失敗するケースが報告されたため、7月23日に改めてMySQL 9.0.1イノベーション・リリース、MySQL 8.4.2 TLS、MySQL 8.0.38がそれぞれ緊急リリースされています。なおこの問題の影響を受けない各Connectorには緊急リリースはないため、バージョン番号は9.0.0が原稿執筆時点での最新です。

  • 9.0.0が最新:Connector/C、Connector/ODBC、Connector/Python、Connector/J、Connector/NET
  • 9.0.1が最新:Server、NDB Cluster、Shell、Router、Operator、NDB Operator、Enterprise Backup、Cluster Manager

MySQL 9.0イノベーション⁠リリース

MySQL 9.0はMySQLの新しいリリースモデルに基づく最新のバージョンです。MySQL 9.0はイノベーション・リリースとなり、3ヵ月ごとに9.1、9.2とメジャーバージョンアップが行われ、新機能を追加されていくリリースです。MySQL 8.4 LTSのリリースまでもMySQL 8.0をベースとしたMySQL 8.1がイノベーション・リリースとして公開され、3ヵ月ごとの8.2、8.3のメジャーバージョンアップを経て、8年間サポートを提供する8.4 LTSとなっています。

MySQLの各バージョンのサポート期間
MySQLの各バージョンのサポート期間

MySQL 9.0.0および緊急リリースされた9.0.1は、主に新しいイノベーション・リリースを開始したという位置づけが大きく、新機能の追加や変更は限定的です。その中でも最も重要な変更点は以下の3点です。

特にネイティブ認証が非サポートとなったことは、コミュニティ版、商用版およびクラウド版のHeatWave MySQLを含めた全ての提供形式に影響があるものです。すでにMySQL 8.0.34の時点で非推奨、MySQL 8.4 LTSではデフォルトで無効となっている機能ですが、MySQL 9.0ではサポートされないこととなりました。

このほか、トランザクション対応のInnoDBとBLACKHOLEと非対応のMyISAMなどのテーブルを1つの更新処理などの対象にすることが非推奨となり、MySQLサーバーのエラーログとクライアント側に警告が出力されるようになっています。

[PostgreSQL]2024年7月の主な出来事

次期メジャーバージョン17の新しいベータ版(ベータ2)がリリースされましたので、今回はこの内容をお知らせします。

PostgreSQL 17ベータ2がリリース

前回第107回の原稿執筆後、6月27日にPostgreSQL Global Development Groupから、PostgreSQL 17の2番目のベータ版が発表されました。このリリースにはPostgreSQL 17が一般公開されたときに利用できるすべての機能のプレビューが含まれていますが、一部はベータ期間中に変更される可能性があります。

  • ON EMPTY句がSQL/JSONクエリに存在しない場合、その句のデフォルトの動作を正しく適用
  • リソースの所有権に関連するpg_logical_slot_get_changesの問題を修正
  • VACUUM関連データの新しいデータ構造に関するいくつかの修正

今回のベータ2でのベータ1からの修正と変更は多くはなさそうですが、新機能と変更された機能の完全なリストについてはリリースノートを参照してください。

2024年7月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリッドが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Open Developers Conference 2024

日程 2024年9月7日(土)10:00~18:00
場所 docomo R&D OPEN LAB ODAIBA
(台場フロンティアビル 12F)
内容 開発者とインフラエンジニアの交流の場として、⁠DevOps」⁠開発」⁠開発者」をキーワードに、さまざまな最新情報を提供いたします。今回お知らせするODCはいずれも展示とセミナーの両方を会場にて開催します。セミナーのオンライン配信は予定されていません。ただし、出展者が独自に配信を行うセミナー枠はあるかもしれません。オラクルのMySQL Community Teamとしての講演とブース展示が予定されています。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

MySQL 8.4入門セミナー⁠高可用性構成編

日程 2024年8月6日(火)16:00~17:00
場所 オンライン開催
内容 大好評MySQL 8.4入門セミナー第2弾!大変わかりやすいとご好評いただいているMySQL 8.4入門セミナー第2弾です。第1回のアーキテクチャー編に続いて、MySQL入門セミナーの中でも特に参加者の多い、高可用性構成にフォーカスしたウェビナーです。グループ・レプリケーションは自動フェイルオーバー機能を備えており、MySQL InnoDB Clusterによって高可用性構成の構築や運用を効率化できるようになっています。
さらに災害対策のためには複数のデータセンターを繋いだ構成を構築できるMySQL InnoDB ClusterSetも登場しています。このウェビナーではレプリケーションのアーキテクチャの解説や活用例を軸に、⁠いまどきの」構築や運用のための構成についてご紹介します。
今後は10月に「運用・監視編⁠⁠、来年1月に「パフォーマンスチューニング編」を計画しています。ご期待ください。
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

ハンズオンワークショップ⁠MySQL5.7から8.4へバージョンアップ

日程 2024年8月27日(火)15:00~17:30
場所 日本オラクル株式会社 本社 オラクル青山センター13F セミナールーム
内容 MySQL 5.7ユーザの皆様へ
MySQL 5.7のサポート期間は2023年10月で終了しました。最新のMySQL 8.4 LTSおよびMySQL 9.0は、パフォーマンス向上、新機能の追加、セキュリティ強化など、数多くのメリットを提供します。しかし、以下のような理由でバージョンアップをためらっていませんか?
  • アップデートの手順がわからない
  • バージョンアップ時のトラブルが懸念される
  • 現在問題が発生していないため急いでバージョンアップする必要を感じない
このような悩みを解決するために、日本オラクルは「MySQL 5.7からMySQL 8.4 LTSへのアップデートを成功させるためのハンズオンワークショップ」を開催します。まだMySQL 5.7を利用されている方、この機会にぜひワークショップにご参加ください。最新バージョンのメリットを活用し、安心してシステムをアップデートしませんか?
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

ゼロから始める「EDB」超入門 PostgreSQLとは何が違うのか?

日程 2024年8月8日(木)11:00~11:50
場所 Zoom によるオンライン開催
内容 「そもそもEDBとは何か」⁠PostgreSQLと何が違うのか」⁠なぜ、EDBを採用するのか」という方の疑問に答えるセミナーです。また、⁠EDBで何ができるのかわからない」という方に向けて、EDBのお役立ち機能も解説します。さらに「セキュリティ面を強化したい」⁠パフォーマンスをチューニングしたい」⁠トラブル時の対応が気になる」など専門的なスキルに不安のある方に対しては、試使用や導入構築、ガイドライン、技術者育成、運用サポートまで提供する支援サービスも紹介します。
主催 株式会社アシスト

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