PCゲームプラットフォーム「Steam」の開発元であるValveには、Waylandプロトコルの開発に関わっているグラフィックエンジニアも少なくない。そのひとりであるJoshua Ashtonが9月24日、アップストリームのWaylandプロトコル(wayland-protocols)の代替プロジェクトとなる「Frog Protocols」を公開した。開発とサポートが遅れがちのWaylandプロジェクトに対して「我々はユーザにもっと速くプロトコルを届ける必要がある」( Ashton)という意図から開発されたプロトコルで、Waylandプロトコル開発のあり方に一石を投じるプロジェクトとなりそうだ。
ここ数年でLinuxデスクトップの主流はX Window SystemsからWaylandに置き換わりつつあるものの、Xを利用しているユーザもいまだに多い。Ashtonは「Waylandプロトコルでは、それが基本的な機能であっても数ヵ月から数年もの間に渡って放置されるという問題を長いあいだ抱えてきた。とくに非常に原始的で基本的な機能(VSyncなど)の実装において問題となる。多くのユーザがXをいまだに使い続けている最大の理由は、我々が提供できる機能が不足しているから」とコメントしており、Waylandプロトコル開発の停滞がWaylandの普及の妨げになっていると指摘している。
Frog ProtocolsはこうしたWaylandプロトコルの現状を改善するためにAshtonが提案したアップストリームとは別のプロジェクトで、よりイテレーティブ(反復的)な開発手法をWaylandプロトコル開発にも取り入れていくことを目的としている。その一環としてAshtonは、Mesa(オープンソースのグラフィックライブラリ)のWayland WSI(Window System Integration)において「FIFO(First In, First Out)が根本的に壊れているという非常に大きな問題」( Ashton)に対処するため、Frog Protocolsに含まれる「frog-fifo-v1」プロトコルのサポートを追加するマージリクエスト を提出したことも明らかにしている。
Waylandプロトコルの開発に時間がかかりすぎているという問題はAshton以外の開発者も指摘している。Ashtonと同じValveのオープンソースグラフィックエンジニアであるMike Blumenkrantzもまた、「 Waylandアップストリームへの実験的なプロトコル開発領域の追加」として、安定版やステージングの前段階となる“ 実験(experimental)” フェーズを用意し、Waylandプロトコルの破壊的な変更や反復的な開発を許可することで迅速なプロトタイピングを可能にすることを提案 している。
AshtonやBlumenkrantzのアプローチに対し、Wayland開発者からは「アップストリームのコンセンサスを得ないで新たなサポートを追加することは好ましくない」という声も出ている一方、「 イテレーティブな開発モデルを導入することで、これまで見落としてきた価値を発見し、貴重なフィードバックを得られやすくなるかもしれない」という好意的な意見も出ている。Blumenkrantzはこれを受けて「オープンソースには意見の相違がつきものだが、私はそれでかまわない。最終的には全員が一歩下がって同じ目標を見すえ、そこにたどり着くための何らかの合意に達することができると信じている」と自身のブログでコメント しており、今後も引き続きWaylandプロトコルが抱える問題に対して「行動を起こしていく」としている。