こんにちは。PyLadies Tokyoです。2024年9月に開催されたPyCon TW 2024というイベントに参加してきました。本記事ではこのイベントの模様をレポートします。PyLadies TokyoとしてはPyCon TW 2023から2年連続参加となります。昨年と少し変わったイベントの空気感を感じていただければ幸いです。
PyCon TW 2024とは
PyCon TW 2024は、台湾で開催されるPythonのユーザが集まるカンファレンスです。今年は13年目となり、台湾南部にある高雄という都市で開催されました。2023年まではずっと台北で開催されており、高雄での開催は初の試みです。
PyCon TW 2024 イベント概要
公式サイト | https:// |
---|---|
開催日 | 2024年9月21日~9月22日 |
会場 | National Science and Technology Museum |
参加費 | Individual Regular Stage:NT$3,790[1] [2] |
各セッションは台湾の中国語
PyCon TW 2023 同様、今年も台風接近の不安がありました。しかしながら、うまくイベント開催時間とずれての最接近となり、雨風が強い時間も多かったものの無事開催とあいなりました。
イベント登録者は350名を超え、日本からは8名、そのうちPyLadies Tokyoからは3名の参加がありました。その他アメリカ、シンガポール、香港、インド、韓国などアジアを中心に世界各国からの参加があったとのこと。現地では台湾語はもちろん、英語も頻繁に飛び交い、また日本語をしゃべれるもしくは勉強中の方も一定数おり、言語面においてあまり不安に思うことはありませんでした。
翻訳ツール群の活躍
最近はたくさんの翻訳ツールがありますよね。今回の参加では筆者各々リアルタイム翻訳ツールを駆使してセッションに参加していました。
- Microsoft Teams ライブキャプション・
ライブ翻訳機能 - Microsoft Power Point スピーカーモード
- Google Translator リアルタイムカメラ翻訳
などなど。
Generative AIの急激な進歩により、昨年までと比べて各ツールの精度が格段に上がっていたこともあり、同時通訳とまではいかないものの、セッションを聞くための補助機能として大活躍しました。昨年までは台湾語セッションへの参加に途方もなく大きな壁を感じていましたが、今年はツールのおかげで台湾語セッションもある程度内容を理解することができたと思います。個人的な感覚としては、もし英語がある程度できる方であれば、台湾語から日本語への直接変換よりも、台湾語から英語に翻訳してパソコン上に表示した方が読みやすいなと感じました。もちろん英語が苦手な方は、台湾語から日本語への直接変換や英語から日本語への変換も補助機能として大変有効です。言語の壁によって海外のイベント参加に躊躇していた方は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
昨年度は英語スピーカーには英語の字幕が表示されていましたが、今年のPyCon TWでは英語スピーカーには台湾語の字幕が表示されていました
カンファレンス1日目
PyCon TW 2024の会場は、高雄駅からバスで15分行ったところにある総合文化施設です。駅からは少し距離があるものの、到着したバス停からすぐに会場に入れるため、あまり不便さは感じませんでした。
会場は通路が少し狭めではありましたが、ブースエリアは広く、グループで円になって会話していても他人の邪魔にはならないくらいの広さがありました。PSFホールやR1、R2と呼ばれる部屋の椅子はふかふかの映画館タイプで、長時間座っていてもお尻や腰が痛くなることはありませんでした。
オープニングでは、会場の利用ルールや参加者心得、イベント全体のタイムスケジュール等アナウンスを行います。スポンサーの1つであるPSF
[keynote]Entering the World of Audio Signals with Python by SuLi
最初のキーノートは中央研究院情報科学研究所の准研究員であるSuLiさんの発表でした。
データサイエンスの観点からPythonを使用したオーディオ処理の話とAIによる音楽生成の話でした。SuLiさんは、AIによる技術が楽曲制作に与える影響と可能性、そして画像生成と同様に生成された音楽の著作権が誰にあるのかという問題、今後の課題等を挙げていました。
個人的に、ピアノ、バイオリン、トロンボーン、フルート、クラリネットの5種類の楽器のある特定の音階の時間領域とKHzの波形の特徴の比較や、リアルの音とAIで生成した音の波形をグラフにして視覚化していたことが面白かったです。これらの比較のために、librosaという音楽や音声の分析のためのPythonのパッケージが使用されていました。音声を視覚化した結果の比較だけでなく、音楽情報検索
私自身、librosaを使用して音声データをグラフ化したことはあったのですが、音声ファイルの入力から、音響信号の特徴抽出や音楽分析、音声認識の前処理などここまで幅広く対応しているパッケージであることは知らなかったので、音声加工や特徴抽出など試してみたくなりました。 また、聴覚的にはあまり大きな差が無いように感じたリアルの音とAIで生成された音の波形が、似ている箇所も多々あったものの、すぐ分かる程度に異なっていました。この波形の差をどれだけリアルの音の波形に寄せられるかが今後の課題だと思いました。
Stable DiffusionやDALL·Eの台頭によって、視覚的にインパクトのある画像生成の分野が取り上げられがちですが、音楽生成の分野でもAIが発展してきていること、画像生成同様に多くの課題があるということを学ぶ貴重な機会でした。
(レポート:中嶋)
Building Dynamic Knowledge Bases for Technical Documentation Through Retrieval Augmented Generation with Amazon Bedrock by Renaldi Gondosubroto
AWS Summit Jakarta 2024でも発表されていたRenaldiさんのAmazon Bedrockの活用方法についての発表でした。このトークでは、技術ドキュメント管理の最適化をテーマにしていましたが、生成AI初心者にも理解しやすいような内容になっていました。Amazon Bedrockという生成AIを手軽に利用・
技術ドキュメントの管理の課題として、ナレッジが蓄積されるにつれてどこにどのドキュメントがあるのかわからなくなることや、最新のドキュメントと古いドキュメントが入り混じってしまうという課題があります。その課題の解決例として、RAGが挙げられていました。
RAGを採用することで、生成AIモデルのみで賄える汎用的な回答だけでなく、より利用者に最適化した受け答えができるようになります。 RAGのユースケースとしては、今回のトークのテーマになっているドキュメントの検索だけでなく、カスタマーサポートなどが挙げられていました。
RAGを実装するためには生成AIモデルのほか、ストレージやデータベース等のデータサービスが必要になりますが、本トーク内では、データサービスとしてS3が挙げられており、S3にデータソースを統合することで一元管理できるようになること、スケーラビリティも確保できるということが説明されていました。実際のアーキテクチャ例をもとにデータソースをどこに置くか、どのようにモニタリングするか、どのようにデータを保護するか、どのようにドキュメントの完全性を維持するかなどが紹介されました。
これまで経験してきた中でも、ドキュメントの管理はいつも課題となっていたことを思い出し、Bedrockを導入すれば解消できるかもしれないという期待が持てました。また、RAGとAmazon OpenSearch Serviceの連携のベストプラクティスについても触れられており、Bedrockを使用する際はデータソースはS3、OpenSearch Serviceはデータのベクトル化と検索のために使用するというアーキテクチャが一般的かつ最適だということを知ることができました。Bedrockのハンズオン自体は何度か行ったことがあるのですが、具体的な活用例や詳細なアーキテクチャの情報は追えていなかったので、参考になりました。私のような生成AI初心者~中級者の人には最適のトークだったと思います。
(レポート:中嶋)
How to learn Japanese with Python by Takanori Suzuki
本トークのスピーカーである鈴木たかのりさんは、PyCon TW 2024唯一の日本人スピーカーです。
某お笑い芸人に
日本語を学習するハードルとして、以下の3点が挙げられていました。
- 日本語はひらがなとカタカナ、漢字の3種類を使い分けていること
- 単語と単語の間にスペースが無いこと
- 漢字には音読みと訓読みの複数の読み方があること
どの点においても
これらのハードルを乗り越えるために、読み方のルビを振る方法や、SudachiPyという、日本語の形態素解析器である
興味がある方は以下でスライドと実装コードが確認できるので、ぜひ読んでみてください。
(レポート:中嶋)
From Local Roots to Global Impact: Why Your Presence Matters to the Community by Georgi Ker
カンファレンス1日目のスケジュールは、オープニングとクロージングにそれぞれKeynoteがあるスケジュールになっていました。カンファレンス1日目の2つ目のKeynoteはの理事でもあるGeorgiさんの、コミュニティについてのトークでした。冒頭で
GeorgiさんがPythonコミュニティに参加し始めたきっかけは、デザイナーとしてPyCon Thailandのデザインを発注されてからだそうです。そこからPyConのプロモーションを行うマーケティングチームに参加したり、PyLadies Bangkokを立ち上げたりするなど、Pythonコミュニティに積極的に関わるように変化していったそうです。PyLadies Bangkokの立ち上げは、PyLadies TokyoでスタッフをしているselinaさんのPyCon Thailand 2019のトークに触発されてのことだそうです。世界のPyLadies、つながっていますね!
また、トーク終了後も積極的に参加者からの質問を受け付けるなど、交流を深めている姿が見受けられました。
特に印象的だったのは、Georgiさんが
(レポート:赤池)
カンファレンス2日目
Bytes, Pipes, and People by Seth Michael Larson
カンファレンス2日目の最初のトークはPSFの最初のSecurity Developer-in-ResidenceであるSethさんのKeynoteでした。PSFにはSethさんを含めてセキュリティエンジニアはたった2人しかいないそうで、その中でSethさんはPythonパッケージのエコシステムやCPythonのセキュリティを向上させるプロジェクトをリードされているそうです。OSSも含め、全てのソフトウェアでセキュリティが重要になってきているという前提を共有したのち、Pythonエコシステム内でのセキュリティについての取り組みと、車輪の再発明を行わないための工夫や取り組みについてのお話がありました。
具体的には、PyPIでダウンロードできるCPythonを例に挙げていました。PythonのダウンロードページにあるSBOM
質疑応答では、
このトークを聞くまで、パッケージインストールをする際のセキュリティについてや、セキュリティを担保するためにPythonコミュニティ内でもさまざまな活動がされていることを知らなかったので、Pythonコミュニティの裾野の広さを感じました。
本Keynoteの資料は下記サイトに掲載されています。ぜひご覧ください。
(レポート:赤池)
All about decorators by Reuven M. Lerner
PyCon TWでは、トークと並行してチュートリアルと呼ばれる、参加者が実際に手を動かしながら学ぶハンズオン形式の発表もありました。
カンファレンス2日目では、Pythonについての教育企業を運営し、PythonやPandasの入門書籍を執筆しているReuvenさんによるデコレータについてのチュートリアルがありました。このチュートリアルでは、準備された資料をもとに講義を行うのではなく、Reuvenさんがスクリーンでライブコーディングを行いながら説明し、会場からの質問に答える形式で進められました。途中の演習問題では、講師であるReuvenさんへの質問だけでなく、初対面の参加者同士が積極的に教え合い、全員が理解できるよう、お互いに協力し合う姿が見られました。
デコレータとは、関数に特定の処理などを追加・
Reuvenさんのライブコーディングによる説明で、順を追ってコードをどのように修正していくのか理解できました。デコレータの復習としても、学習者の方にどのように説明すれば理解してもらえるかという教育の面でも学びの多いセッションでした。
(レポート:赤池)
ポスターセッション
PyCon TW 2023にはなかった取り組みの一つとして、PyCon TW 2024 ではポスターセッションがありました。ポスターセッションとは、A0サイズのポスターにそれぞれ発表したい内容を記載し、その内容をポスターに立ち寄った参加者に対して説明したりディスカッションしたりするスタイルの発表です。聴講型のトークと異なり、参加者との距離が近く、発表内容に対して個別に会話しやすい環境のため、聴講型トークとは異なった体験ができます。
ポスター自体はカンファレンス1日目の朝から指定の場所に掲示することができます。休憩時間などポスターセッションの時間帯以外にもポスターを見てもらうことができるので、カンファレンス1日目の朝から貼り出している方も多くいました。
今回PyLadies Tokyoもポスターセッションが採択されていたので、日本から携えたポスターの掲示と説明を行いました。内容は、PyLadies Tokyoの活動報告です。PyLadies Tokyoの成り立ちや普段どんなテーマ・
東京以外の都市へ行き、PyLadiesイベントを開催する PyLadies Caravan や、 定例的なイベントの開催方法の1つにグループ研究方式があることなどに興味を持っていただける参加者が多かったことが印象に残っています。グループ研究方式のイベントとは、イベントで決めているテーマについて3、4人のグループを組んで調査・
(レポート:石田)
ライトニングトーク
カンファレンス1日目・
(レポート:石田)
クロージングイベント
クロージング、いわゆる閉会式では、今年の参加者分析
また、会場の通路に設置されていたスポンサー企業やコミュニティによるブースエリアでは2日間スタンプラリーが行われていました。スタンプを全て集めると抽選でプレゼントがもらえるというもので、この抽選結果発表もクロージング内で行われました。著者もブースでスタンプを集め、それで満足していたのですが、なんと当選!
最後に、PyCon TW 2025のchairの紹介と開催地の発表があり、カンファレンス終了です。開催地は台北に戻るとのこと。来年も楽しみですね。
(レポート:石田)
おわりに
PyCon TW 2024の雰囲気、感じていただけたでしょうか。PyCon TWでは分析系・
(全体構成:石田)