自然災害が起きたとき、我々はどのように最適な行動を決定すべきか? 2023年8月にオープンソースとして公開されたAI基盤モデルPrithvi
2024年12月、NASAとともに衛星画像を活用したAI基盤モデルの研究開発を実施した、IBM 東京基礎研究所 クライメイト&サステナビリティ担当部長木村大毅博士に話を伺った。木村氏は大学時代より画像処理研究に携わっており、2022年11月からNASAとの衛星画像プロジェクト
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木村氏が貢献したのは、NASAが提供する膨大な衛星データを基にした、地理空間に関する世界最大規模のAI基盤モデルPrithvi
オープンソース化し、Hugging Face上で公開したことで、研究者や開発者は誰でもアクセスでき、世界中で活用されているという。Prithviとはサンスクリット語で

Prithviの利用用途と技術的な背景
Prithviは、衛星データを用いて自然災害や環境変化に関する重要な指標を抽出するモデルの基盤となる、衛星データに関する大規模な地理空間基盤モデルである。Prithviの応用例としては、火災後の被害の状態、洪水による浸水領域の検出、土地利用や土地被覆、都市の位置、さらには地球上のバイオマスの状況の推定などが挙げられる。
利点として、これらの応用例に特化したAIモデルを構築するときに、学習済みの大規模基盤モデルを使うことで、新たに用意する学習データや学習回数を少なくすることが可能だ。
基盤モデルの学習に用いられた衛星データには、NASAが提供するLandsat-8と、ヨーロッパの宇宙機関ESAが提供するSentinel-2のデータが使用されているという。
これらの衛星はそれぞれ異なるタイミングで地球を観測し、たとえばLandsat-8は約2週間に一度、Sentinel-2とは別のタイミングで地球を観測している。時差/角度違いのデータをHarmonized
Prithviモデルのトレーニングの前処理として、衛星データに含まれる不要な情報、例えば雲や霧などを取り除く処理を実施している。トレーニングには、画像の基盤モデルの学習手法として代表的なマスキング技術を活用した学習手法を採用している。
Prithviの画像解析には、IBMのスーパーコンピュータであるVelaマシンを用いて、6テラバイトのデータ、1億モデルをわずか4.
Velaマシンを使用し、Prithviモデルは、膨大な衛星データを短期間で処理し、正確な地球環境の分析を行うことが可能となる。
この基盤モデルを特化モデルのベースとして活用することで、従来の方法では不可能だったスピードと精度で、衛星データを利用した環境モニタリングが実現できるようになる。しかもHugging Faceにオープンソースとして基盤モデルを公開することで、多くの方にこの恩恵を感じてもらえるようになっている。
Prithviの成果と応用事例
Prithviは、データ解析にとどまらず、地球上の問題解決にも大きく貢献していきそうである。例えば、世界中の11箇所で発生した洪水データを基に、Prithviを活用したモデルと他の一般的なモデルを比較した結果、Prithviを活用したモデルが水域の判別において最も高い精度を示したという。これにより、少ないデータで十分に高精度な分析が可能となり、災害対応における効率化が期待される。つまり、自然災害が発生した際に、数枚の画像データを使用することで、迅速に被害状況を分析できるため、被害を最小限に抑えることが可能となることも予想できる。
さらに、Prithviを実際の問題解決に活かすためのより実用的な応用タスクも考えていると木村氏は語る。先に示した応用例では、
さらには、現在、気候変動によって自然災害が世界中で増加している中で、河川の水害だけでなく、山火事や津波の影響範囲の予測など複合的な災害被害予想にも応用できる可能性がある。これにより、将来の都市計画にも大いに役立つ基盤モデルであると感じる。
これらが実現していけば、各自治体で自然災害が発生した際のシミュレーションにPrithviを活用し、避難経路や救助経路の計画を立てる未来が見えてくる。
Prithviの進化は、単なる技術革新にとどまらず、社会全体に新たな可能性を広げている。現在公開されているPrithvi、Prithvi 2.
とくに注目すべきは、この基盤モデルがHugging Faceというオープンソースプラットフォームで公開されている点だ。これにより、Prithviは限られた企業や組織に閉じた基盤モデルにとどまらず、世界中の研究者や開発者が協力し合い、地球規模の問題に立ち向かうための共同作業の場となっている。
2024年12月にワシントンD.

このように、Prithviの議論と応用はIBMやNASAを超えて広がり、さまざまな分野の専門家によって活用されている。これこそが、Prithviが目指す姿であり、サンスクリット語で
木村氏はまた、
災害予測を自然言語で行い、その後の対策を迅速に決定できる時代がやってくる。その時代には、たとえば、自治体の職員が直感的なインターフェースを使って、災害発生時に避難経路を瞬時に分析し、必要な資源を即座に配分することができるようになるだろう。
さらに未来を妄想してみると、洪水が発生した場合、過去のデータをもとに予測される浸水範囲を表示し、その情報を基に迅速な避難指示を出すことができる。そして、実際の状況を衛星データに限らず、監視カメラやドローンなどでリアルタイムに確認しながら、最適な行動計画を立てることが可能となる。自治体職員が、
また、衛星画像にとどまらず、さまざまな一般的な画像データにもPrithviを活用できる可能性が広がっていくだろう、とも木村氏は語る。監視カメラや車載カメラの映像なども活用することに、各地域で発生する環境問題以外の課題、企業の活動に対しても、より広範囲かつ柔軟なアプローチが可能となるのがPrithviのポテンシャルだ。
オープンソース化の価値は、決して一部の専門家だけにとどまるものではない。NASAやIBMが提供する膨大なデータと、Prithviという強力なAI基盤モデルをオープンソースとして公開したことにより、世界中のさまざまな立場の人々がそれを活用できるようになり、誰もが自分の視点で新たな発見をし、社会に貢献できる可能性が広がる。これにより、これまでにない形でデータを解釈し、課題を解決する方法が生まれ、私たちが直面する問題に対して、より迅速かつ的確な対応が可能となるだろう。
とくに、PrithviがHugging Faceを通じて広く公開されたことで、これまで限られた組織や研究者だけが扱っていた膨大なデータと先進的な技術が、誰でも手に入れ、活用できるようになった。このオープンなアクセスによって、未来は予測可能なものにとどまらず、むしろ創造的で革新的な方法で問題解決が行われ、社会全体がその恩恵を受けることになるだろう。