OSSデータベース取り取り時報

第115回オープンソースカンファレンス東京報告⁠HeatWave MySQLへのMariaDBからの移行事例⁠PostgreSQLの脆弱性修正版が緊急リリース

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

OSSがビルディングブロックになってデジタル変革は進む(はず)@OSC東京春

2月21日(金)と22日(土)に東京・駒澤大学で開催されたオープンソースカンファレンス 2025 Tokyo/Spring(OSC東京春)にて、OSSコンソーシアムでは「OSSがビルディングブロックになってデジタル変革は進む(はず⁠⁠」と題した講演発表とパネルディスカッションを実施しました。

OSC大阪ではソフトウェア開発のコンポーネントとしてのDBMSを中心にして考えましたが、今回のOSC東京春では、もう少し視点を拡げてITシステム構築でのOSSの活用について考えるセッションにしました。⁠OSSの」活性化とともに、⁠OSSによる」IT業界とデジタル社会の活性化にも視点を拡げて、参加者がこれからの取り組みのヒントにしていただくことを意図しています。OSSコンソーシアムで部会活動をしているメンバの他、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のOSS推進メンバにも加わっていただき、いくつかの話題について講演発表の後、全員でパネルディスカッションを実施しました。

〔講演者⁠パネリスト〕
オープンソースカンファレンス2025 Tokyo/Springでのパネルディスカッションの様子:左から溝口(OSSコンソーシアム)、油谷(TIS)、梶山(日本オラクル)、内田(インプリム)、比毛(東京システムハウス)、今村(IPA)
オープンソースカンファレンス2025 Tokyo/Springでのパネルディスカッションの様子

オープンソースエコシステムをどのように変えていくか

まず、IPAの今村かずきさんに発表の口火を切っていただきました。

OSSは、複数のOSS、複数のプレイヤーが相互に影響し合ってその価値を発揮するものです。OSSを取り巻くプレイヤーの関係性(エコシステム)が健全に発展・継続できることが、OSS全体についても個別のOSSについても、その発展と継続のキモになります。

ただ、日本国内でのOSSエコシステムには課題もあります。プレイヤー間の連携不足、課題共有の不足、短期的利益の偏重などです。これら問題点の原因のひとつとして、OSSについての理解がまだまだ不足しており、機会損失や、実践していても非効率なやり方をしてしまっているのではないかとの見解が示されました。

レガシー刷新とコンポーネント選択

二人目は、東京システムハウスの比毛ひもう寛之さんです。

COBOLは「不動の不人気言語」といわれつつ、この瞬間にも世界で、たとえばクレジットカードの決済とするときにお世話になっているはずです。世界中で稼働しつづけているものの、メインフレームからオープン系基盤やクラウドなどへの稼働基盤の移行や、稼働基盤の変更とともに他の言語への変換も進められています。

稼働基盤が変わった後、以前のメインフレームなどで使っていたミドルウェアなどがそのまま使えるわけではありません。データベースで言えば、PostgreSQLなどへの移行作業が伴います。また、COBOL言語からJavaへの変換ツールが話題に上る機会が増えました。OSSコンソーシアムのオープンCOBOLソリューション部会では、従来型のいわゆるCOBOLコンパイラに当たるopensource COBOLに加えて、ソースコードをJavaに変換するopensource COBOL4JをOSSとして公開しています。

ノーコード開発ツールプリザンターとMySQL⁠パネルディスカッション

上記の他に、OSSコンソーシアムのデータベース部会から、ノーコード/ローコード開発ツールのプリザンターをOSS公開しているインプリムの内田太志さんと、長年MySQLに取り組んでいる筆者梶山も講演発表しました。

内田さんには、プリザンターがユーザが直接触れるビジネスアプリである観点から、ビジネスアプリ開発に際して他のOSSの活用についてお聞きしました。

梶山からは、MySQLが長く愛され続けている視点から、これまでのMySQLの歩みと開発スタイルなどについてお話ししました。

最後のパネル討論は、講演発表では話しにくいであろう意見をパネリストから引き出すことを意図して、筆者溝口がモデレータになって次のような点について話しました。

  • OSSをITシステム実現の部品にすることについてどう思うか?100%のYes・Noでは無いはずなので部品として採用しやすい条件は何か?
  • OSS開発者は「愛される部品作り」に務めるのが良いか?それともOSSを部品として使って「魅力的な完成品」を目指すのがいいか?
  • 日本の産業界のデジタル変革は、まだ勝ち筋はあるか?そしてOSSはそれに貢献するか?

IPAから「オープンソースとは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説」

今回の企画タイトルの後半部分「デジタル変革は進む(はず⁠⁠」に関連しますが、IPAのDX推進のための情報サイトDX SQUARE にて「オープンソースとは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説」の入門解説が公開になりました。この記事の読者のみなさんにはわかりきったことかもしれませんが、IT企業やITエンジニア以外の一般の方たちにもOSSを正しく知っていただき、採用に前向きになってもらうことが、国内産業界のDX推進の一助になるはずです。

IPAのDX SQUAREに掲載された「オープンソースとは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説」
IPAのDX SQUAREに掲載された「オープンソースとは? 今さら聞けないDX関連用語をわかりやすく解説」

今回のオープンソースカンファレンスも1月の大阪と同様にセミナーを含む全てが会場開催でしたので、オンライン配信はありませんでした。講演のスライド資料は支障のない部分についてはOSSコンソーシアムのWebページで公開します。

OSC東京春のOSSデータベース関連セッション

OSC東京春では、その他にもOSSデータベースやデータ活用関連の発表が多数実施されましたので、まとめて記しておきます。

[MySQL]2025年2月の主な出来事

2月のMySQLのバージョンアップはMySQL Operator for Kubernetes(k8s)のみでした。2022年5月にGA版となったMySQL Operatorは着実に進化を続けており、Capabilityレベルも自動リカバリなどが可能なLevel 3相当となっています。2月のMySQL Operatorのリリースは1月にリリースされたMySQL 9.2.0への対応をバグ修正のみが行われ、新機能の追加などはありません。

HeatWave MySQLへのMariaDBからの移行事例

2月13日に開催されたOracle CloudWorld Tour Tokyo 2025では、多くのセッションの中にHeatWave MySQLに関するものも用意されていました。このセッションでは、KDDIグループの一部となるラック株式会社が運用する、脅威情報などを企業や組織間で共有し連携を図るSecureGRIDアライアンスにおける事例が紹介されました。このSecureGRIDアライアンスの核となるシステムでは、以前はAWS EC2上のMariaDBにデータを蓄積していましたが、十分な処理性能が得られていなかった課題を解消するためにインスタンスのスペックを上げるとコストも上昇する、という問題に直面していました。Oracle Cloud Infrastructure(OCI)のHeatWave MySQLに移行し、最大で65倍の性能向上、コスト64%減、さらに9インスタンスあったMariaDBを1つのHeatWave MySQLに集約することに成功したことが報告されていました。

日本MySQLユーザ会のメーリングリスト刷新

日本MySQLユーザ会(略称:MyNA)は、メーリングリストでの情報交換が行われていたところがユーザ会に発展して設立されています。このメーリングリストはユーザ会の設立よりも前の1998年1月25日から運用されています。2月24日にMyNA代表のとみたさんが、メーリングリストのフリーソフトウェアのMailman3で新たに運用されることをアナウンスしていました。オープンソース・コミュニティのコミュニケーションの手段もSlackやDiscordなどさまざまな形態が増えていますが、MyNAのメーリングリストは引き続き重要な役割を務めていきそうです。

日本MySQLユーザ会 25周年 & MySQL 30周年記念イベント準備中

日本MySQLユーザ会は2000年3月28日に開設され、今年で25周年を迎えます。またMySQLの最初のリリースは1995年5月23日となっており、今年が30周年の節目の年となります。この2つのマイルストーンを記念したイベントを、3月25日に日本オラクルの本社 青山センターにて開催する準備が進んでいます。MySQLに長年携わってきているエンジニアの方々や、日本におけるMySQLの歴史を知る方々などの講演などを予定しています。

[PostgreSQL]2025年2月の主な出来事

2月は、サポート中の全メジャーバージョンに対するマイナーバージョンのリリースが2回ありました。危険度が高めのセキュリティ脆弱性の修正が含まれていますが、この脆弱性修正が不十分だったようで、1週間後に緊急リリースとして再修正版がリリースされています。

最新はPostgreSQL 17.4⁠16.8⁠15.12⁠14.17⁠13.20

2月20日、PostgreSQL 17.4、16.8、15.12、14.17、13.20 がリリースされています。修正されたセキュリティ脆弱性は、CVE-2025-1094(PostgreSQLで引用APIがテキスト内の引用構文を無効化(neutralizing)できずエンコードの検証に失敗する、CVSS v3.1、基本スコア: 8.1、対象バージョン: 13~17)ですが、1週間前の2月13日のリリースで一部で後退(リグレッション)があったため、2月20日にサイクル外でのリリースがありました。2月13日のリリースバージョンを適用された方も、再修正版の再適用が必要になります。

PostgreSQL 17.3⁠16.7⁠15.11⁠14.16⁠3.19のリリースでのその他の改善

最新版は上記のバージョン17.4などですが、2月13日にリリースされたこれらのバージョンでは、セキュリティ脆弱性以外の修正や改善も70件以上が入っています。リリースのお知らせに記されたリストからいくつかピックアップします。

  • 接続リクエスト内の63バイトを超えるデータベース名とユーザー名の切り捨て動作がバージョン17以前に戻されました。
  • 並列ワーカーに対して接続特権のチェックと制限を実行せず、代わりにリーダープロセスからこれらを継承します。
  • LWLock待機イベント名からLockサフィックスが削除されます。
  • ウィンドウ集計で古い結果が再利用される可能性があったため、不正確な結果が生じる可能性があった問題が修正されました。

これらの修正点やここでは省略した修正点は主にPostgreSQL 17に影響するものですが、一部はサポートされている他のバージョンにも影響する可能性があります。詳細は各バージョンのリリースノートを参照してください。

2025年3月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Oracle Cloudウェビナー - MySQLをベクトル⁠ストアとして活用し⁠セマンティック検索をする方法

日程 2025年3月5日(木)15:00~16:00
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 MySQL 9.0ではVECTORデータ型が追加されたため、ベクトル・データを保持できます。また、オラクルが提供しているMySQLのマネージド・サービスであるHeatWave MySQLでは、テキスト・データに対してエンべディングを生成するルーチンや、ベクトル・データの距離を求める関数が使えるため、MySQL内のテキスト・データに対して簡単にセマンティック検索(データの意味に基づいた検索)を実現できます。
本セッションではこれらの新機能について解説し、MySQL内のテキスト・データに対してセマンティック検索を実現する方法について解説します。申し込みページは近日公開予定です。
主催 日本オラクル セミナー事務局

第52回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2025年3月27日(木)20:30~22:30
場所 オンライン開催
内容 2025最初のPostgreSQLアンカンファレンスです!「PostgreSQLについてしゃべりたいことがある、聞いてほしいことがある!⁠⁠PostgreSQLについて聞いてみたい、相談したい!」そんな感じで登壇してもらってOKです。
  • 初心者による「使ってみた/動かしてみた」
  • 中級者による「こういうノウハウ使ってる」
  • 上級者(?)による「こういう拡張してみた」
その他、PostgreSQLに関連する話題であれば何でもOK!アンカンファレンス形式なので、何が出るかは当日参加してのお楽しみ。なお、今回はこの連載のMySQLパートを担当する梶山が登壇を予定しています。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

オープンソースカンファレンス 2025 (5月~7月開催)

日程 〔Nagoya〕2025年5月31日(土)10:00~18:00
〔Shimane〕2025年6月21日(土)10:00~17:00
〔Hokkaido〕2025年7月5日(土)10:00~18:00
場所 〔Nagoya〕中小企業振興会館(名古屋市千種区)
〔Shimane〕松江テルサ(松江市)
〔Hokkaido〕札幌市産業振興センター 産業振興棟(札幌市白石区)
内容 Nagoyaは3月上旬から出展者募集予定、Hokkaidoは4月中旬から出展者募集予定、Shimaneは執筆時点ではまだ情報が出ていません。OSSデータベース関連の発表については、今後に公開されるプログラム詳細をご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

日本MySQLユーザ会 25周年 & MySQL 30周年記念イベント

日程 2025年3月25日(火)15:00~19:30
場所 日本オラクル 青山センター
内容 本記事でもご紹介していますが、日本MySQLユーザ会25周年、およびMySQL 30周年を記念したイベントの開催を準備中です。申し込みページなどは近日公開予定です。
主催 日本MySQLユーザ会 & 日本オラクル セミナー事務局

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