GitLabが解説:ソフトウェア開発におけるAI活用の現状と今後

AIの新章⁠今後1年⁠ソフトウェア開発に起こる4大変革

生成AIの進化がソフトウェア開発に変革をもたらしつつある今、企業は単なる自動化を超えたAI活用のステージへと踏み出しています。文脈を理解し、積極的に判断・提案を行うAIの登場により、開発の在り方、チームの役割、そして技術戦略そのものが大きく変わろうとしています。本稿では、今後1年に起こると予想される4つの重要な変化を中心に、AIがどのようにソフトウェア開発を再構築していくのかを展望します。


2024年、AIはソフトウェア開発に新たな時代をもたらし、生産性、コード品質、そしてイノベーションにおいて大きな進展を促しました。技術リーダーたちはこの新しい状況の中、今後の戦略的投資をどこに集中すべきか、AIを活用して競争優位を得る新たなチャンスを模索しています。

2025年には、組織はAIの活用をさらに広げ、単なる自動化を超えて「コンテキスト(文脈や背景)の理解」「積極的な意思決定」へと進化しています。リーダーたちはまた、AIがビジネスに与える影響を定量化する術も学び、それによって投資の方向性をより明確にし、最大のリターンが得られる分野に注力できるようになります。

オープンソースのAI技術も引き続き進化し、企業内で大規模言語モデルを運用・学習するための、よりコスト効率の高い選択肢が生まれています。これにより、規制の厳しい業界でも、社内データを活用した強力なAIアプリケーションを構築できるようになります。

以下に、AIが今後1年でソフトウェア開発をどう変えていくか、4つの重要な変化を紹介します。

ソフトウェア開発の未来は「コンテキスト認識型」

現在、多くの開発チームがコードの補完や説明といった一部のワークフローにAIを導入していますが、次の段階は「コンテキスト認識型AI」です。これは自律型AIの開発にとって重要な基盤となります。エージェントが効果的に動作するには、コードベースを超えた広範なコンテキストを把握する必要があります。コンテキスト認識型AIは、環境のコンテキストを理解し、それに適応するアプリケーションを通じて、ソフトウェア開発の在り方を再構築する可能性を秘めています。

AIがユーザーとアプリケーションの両方のコンテキストを理解できるようになると、より複雑なタスクを自動化し、開発者のニーズを予測し、より適切な判断を下すことが可能になります。これにより、効率性と正確性が向上し、開発者は自身の専門知識をより創造的かつ戦略的な業務に活用できるようになります。最終的には、AIは単に開発のベストプラクティスに従うだけでなく、パフォーマンス、スケーラビリティ、コストといったさまざまな要素に基づいて、コードを最適化するようになるでしょう。

以下は、こうした影響が今後1年の間に現れると予想される主な領域です。

コード理解の高度化
AIの成熟に伴い、既存のコードベースを分析し、それにシームレスに統合できる新機能を能動的に提案できるようになります。これには、既存のアーキテクチャやインフラ、アプリケーションの要件も考慮されます。また、AIは環境におけるセキュリティおよびコンプライアンスのガードレールにも自動的に従うことができます。
コードレビューの効率化
コードレビューはボトルネックになりがちですが、AIによってそのプロセスを効率化できます。AIアシストによるコードレビューでは、既存の標準、ベストプラクティス、パフォーマンスへの影響予測に基づいて潜在的な問題を指摘し、共通のコンテキストをもとに開発チームのコラボレーションを促進します。
テストの強化
AIはアプリケーションのロジックや性能特性を理解しながら、より包括的なテストを生成し、コードの欠陥が本番環境に到達する前に積極的に検出・防止できます。
インフラストラクチャに配慮したアップデート
レガシーシステムの更新管理は特に困難な作業です。AIはコードベースだけでなく、クラウドインフラやアプリケーションのパフォーマンスへの影響も考慮に入れた変更提案を行うことで、セキュリティとコンプライアンスを維持しながら、更新をサポートします。

ソフトウェア開発におけるAIのROIを測定する

過去1年間で、組織はソフトウェア開発から意思決定、カスタマーサービスに至るまでの業務に、急速にAIを導入してきました。AIの力を活用し始めてはいるものの、その影響をさまざまなチームやビジネス機能全体にわたって測定するという点では、まだ課題が残っています。

その一因は、⁠適切な問いを立てていない」ことにあります。たとえば「AIは収益向上にどう役立っているのか?」といった測定が難しいマクロな課題に注目しがちです。そうではなく、もっと測定しやすい具体的なビジネス成果に焦点を当てるべきです。

ソフトウェア開発においては、新しいアプリケーションや機能の市場投入までの時間、ソフトウェアの品質、運用コスト、開発者の生産性といった指標に、AIや自動化がどのような影響を与えているかを見る必要があります。来年には、経営幹部がこれらの成果にいっそう注目し、AIによる利益を正確に数値化し、AIが得意とするタスクに重点的に投資を行うことで、さらなる投資の正当性を示すようになるでしょう。

コード提案から自律的なアクションへ⁠ソフトウェア開発におけるAIエージェントの台頭

AIアシスタントはますます賢くなっており、プロンプトベースの対話を超えて、開発者のニーズを先回りして予測し、積極的に提案を行うようになっています。こうした進化を支えているのが、AIエージェントの台頭です。AIエージェントは、タスクを自律的に実行し、経験から学習し、さらには他のエージェントと協力することも可能です。来年には、これらのエージェントがコード支援の中心的な存在となり、ソフトウェア開発ライフサイクル全体を効率化することになるでしょう。AIエージェントは、単体テストの自動作成、効率的なコードのリファクタリング、さらにはアーキテクチャ改善の提案までも自律的に行うようになるでしょう。

開発者の役割も、こうした進化に合わせて変化していく必要があります。AIが開発者を置き換えることはありません。それどころか、能動的なAIアシスタントと、それを支えるAIエージェントによって、開発者は新たなスキルを習得し、より価値の高い戦略的なタスクに集中する時間を確保できるようになります。開発者は今後、⁠AIアーキテクト」としての役割を担い、インテリジェントなエージェントを設計・指導して、複雑な課題に取り組めるようになります。その結果として、生産性の向上、コード品質の改善、そしてより広範なビジネス課題の解決に注力できるようになります。

カスタマイズされたセルフホストAIモデルへの移行

AIモデルは、社内データでトレーニングすることで、各組織特有の業務や目標に特化したインサイトを生成できるようになり、より高い効果を発揮します。しかし、そのためにはセキュリティやコンプライアンスの観点から、多くの場合オンプレミス環境でモデルを運用する必要があります。

現在、オープンソースのAIモデルは商用モデルとの性能差を急速に縮めており、2025年にはさらに多くの企業がオンプレミスでAIモデルを展開するようになると見込まれています。これにより、組織は自社データでモデルを微調整し、はるかに低コストでAIアプリケーションを導入できるようになります。

特に、銀行や医療などの高度に規制された業界にとっては魅力的です。こうした業界では、外部ネットワークから物理的に切り離された「エアギャップ環境」でオンプレミスモデルを運用することで、高いコンプライアンスを確保できます。

今後の大きな変化

ソフトウェア開発におけるAIの活用の広がりで、今後1年でさらに大きな変化がもたらされることが予想されます。AIの役割は、単なるコード生成を超えて、ソフトウェア開発ライフサイクルの不可欠な一部へと急速に拡大しており、セキュリティやパフォーマンスの向上、そして技術的負債の軽減にも貢献しています。

こうした変化にいち早く適応した組織は、市場において明確な優位性を獲得するでしょう。ただし、AIの導入には、スキルやインフラへの投資を伴う、計画的かつ戦略的な取り組みが必要です。ROI(投資対効果)を正確に把握することも、望ましいビジネス成果を得るうえで極めて重要です。AIを効果的に活用できる組織は、今後も持続的な成長を遂げていくことでしょう。

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