日本企業のオープンソース/クラウドネイティブへの関心の高まりと⁠CNCFのこれまでと現在 —⁠—KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025 記者発表会より

6月16日、17日に東京で開催された「KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025⁠⁠。16日に、Linux Foundationの日本担当VPである福安徳晃氏と、Cloud Native Computing Foundation (CNCF) のCTOであるChris Aniszczyk氏による記者発表会が行われました。本稿ではこの模様をレポートします。

福安徳晃氏の発表⁠日本企業のオープンソース/クラウドネイティブ技術への関心の高まり

福安徳晃氏の発表は、今回のKubeCon + CloudNativeCon Japan 2025の賑わいが、日本企業によるオープンソースおよびクラウドネイティブ技術への関心の高まりを示しているという話から始まりました。

本イベントの参加費用が高額であったにもかかわらず1,500枚の参加チケットが完売し、スポンサーシップ枠もすべて埋まったとのこと。つまり、日本企業がこれらの技術を重視し、コミュニティ内での存在感を高めたい意図がうかがえると述べました。

次に、Linux Foundationのメンバーシップ数が過去5年間(2019年から2024年)で約25%増加していることを紹介しました。また、Linux FoundationとCNCFの合計メンバーシップは75%以上増加しており(日本の合計メンバーシップ数は83⁠⁠、Linux Foundationのゴールドメンバーシップは80%増加しています。そのゴールドメンバーシップに最近参加した日本企業として、パナソニック オートモーティブシステムズ、三菱電機、LINEヤフーを挙げていました。

日本企業のメンバーシップが増えているのも、日本企業がオープンソースおよびクラウドネイティブ技術のエコシステムへ積極的に参加し、コミュニティにおいて企業や開発者のプレゼンスや影響力を高めることが意図されていると指摘しました。

次に、日本のクラウド市場の現状について、パブリッククラウド上でのワークロード実行率が34%で、グローバル平均(43%)を下回っていること、クラウドエンジニアの数も他国と比較して少ない状況にあることを取り上げました。この状況は、海外からは日本市場に大きな伸びしろがあると認識されています。

具体的な日本のエンジニア人材の状況については、Linux Foundationが公開した2025 State of Tech Talent Japan Reportを見てほしいと紹介しました。日本の組織の70%以上が主要な技術分野で人材不足に直面しており、これはグローバル平均よりも52%高い水準です。

一般的なAIスキルは、40%未満の企業にしか備わっていません。AIの効果的な導入と拡張に大きな障壁が生じており、AI関連の需要は増加しているため、エンジニアの雇用は増加すると予測されていますが、エントリーレベルでは減少する懸念もあります。

これらの課題に対応するため、日本企業の94%がアップスキリングを重要視しています。アップスキリングは新規雇用と比較して124%速く、従業員の定着において98%の効果があることが示されており、社内人材の育成において戦略的にアップスキリングを進めることは正しい施策と紹介しました。

日本企業がクラウドネイティブやOSSへの関心を急速に高めている背景として、クラウドネイティブ技術が世界的にデファクトスタンダードになっていることに加え、近年、日本企業の多くが利益を出していることから、これら技術への戦略的な投資が行われている面もあると述べました。

また、オープンソースへの取り組みは企業の開発文化を根本から変える必要があるが、近年はそれが可能になってきたと言及しました。たとえば、これまであまり積極的でなかった電力業界や金融業界でもクラウドネイティブ技術から大きな恩恵を受けていること、自動車業界やゲーム業界でもKubernetesやクラウドネイティブプロジェクトの活用が増加していることに触れていました。

特に、日本ではこれまでオープンソースへの取り組みが「ベンダー主導」が主流であったが、海外では先行していたように「エンドユーザー企業が直接行う」流れが出てきていると、その変化を指摘しました。

最後に、Cloud Native Community Japan(CNCJ)の影響力について、一つの事例を取り上げました。

約1年半前、日本におけるKubernetesの認定試験の受験者数は、インドの8分の1、中国の5分の1、韓国の2分の1と非常に少なかったものの、2023年11月にCNCJが立ち上がり、多くのミートアップを通じてクラウドネイティブ技術を広めた結果、状況が改善しました。最近の調査では、日本の受験者数は韓国とほぼ同レベルになり、中国との差も3分の1に縮まっています。

福安氏は、コミュニティをエンジニアを育成する「ゆりかご」のような存在だと表現し、エンジニアの成長とモチベーション向上にコミュニティは不可欠であると述べました。

また、企業がオープンソースコミュニティとより良い戦略で関わるためには、Open Source Program Office(OSPO)やOpen Source Competency Center(OSCC)といった組織の立ち上げが重要であり、日本でも日立や富士通、トヨタ、ホンダといった大手企業がOSPOを置いているトレンドがあると紹介しました。さらに、日本国内で様々なオープンソーステクノロジーの「ローカルコミュニティを増やす」ことも重要であると付け加えました。

Chris Aniszczyk氏の発表⁠CNCFのこれまでと現在

Aniszczyk氏ははじめに、クラウドネイティブの開発者数は2020年から270万人増加し、現在920万人に達していることを紹介しました。

クラウドネイティブの導入は過去最高水準にあり、CNCFの調査によると調査対象の89%がクラウドネイティブ技術を採用しています。そしてKubernetesの利用率は93%に達しており、現代のインフラストラクチャにおけるその役割を確固たるものにしています。

また、GitOpsは77%の組織に採用されており、デプロイが効率化されている点も指摘しました。KubernetesでのAI/MLワークロードも着実に増えており、生成AIの基盤となる新しい事例も登場しています。

ここで、Aniszczyk氏は、設立10周年を迎えているCNCFは成長を続けていることを強調しました。Kubernetesは歴史が11年にもかかわらず、30年以上の歴史を持つLinuxに匹敵する勢いのあるプロジェクトであり、貢献という点ではLinuxに次ぐ勢いであると述べ、それが個人的な喜びでもあると言います。

新しいプロジェクトでは、コンテナワークロードの実行やセキュリティ確保といった基本的なインフラに加え、⁠Day2」運用(運用段階の課題解決)に焦点を当てているものも多いそうです。そのため、CNCFプロジェクトにおける最近の貢献トレンドとして、AIワークロードのような新しい種類のワークロードをより良く実行するための技術や、大規模なコンテナを実行可能にする機能(例えばDRA)があると述べていました。

さて、昨年のCNCFのレポートであるCNCF Annual Report 2024を見ると、200以上のプロジェクト、728のメンバー、27万以上のコントリビューター(189カ国)を擁し、2024年に140以上の新規メンバーが加わったことがわかります。

CNCFは現在、750以上のメンバーがいて、多くの主要なハイパースケーラー(大規模なデータセンターを基盤にクラウドサービスを提供している会社)がプラチナ/ゴールドレベルで参加しています。日本からのCNCFメンバーは24社に上り、これは2019年から60%増加していることを紹介しました。

特筆すべき点として、ベンダー企業だけでなく、東京ガスやLINEヤフーといったエンドユーザー企業からのメンバーが増加していることを挙げ、これは、日本の企業がメンバーシップを通じてこのエコシステムに積極的に関与しようとしていることを示していると述べました。

そして、日本からのCNCFプロジェクト全体への貢献について、26万件以上あり、これは世界のトップ15にランクインする貢献(9位)であることを取り上げました。特にKubernetesプロジェクトへの直接的な貢献数で見ると、日本の順位はさらに高くなることを指摘し、このことはソフトウェアへの貢献を通じて、学んだり、開発の方向性を見据えていたりしていることを示していると述べました。

CNCFの新しい取り組みとして、クラウドネイティブ技術上に構築されたAI/MLプラットフォーム向けの新しい認定プログラム「Kubernetes Certified AI Platform Conformance Program」を導入したことを紹介しました。このプログラムは、スケーラブルで相互運用可能なAI/MLプラットフォームの構築を評価するものです。認定を受けることで、信頼性とクラウドネイティブのスケーラビリティ標準への準拠を示せるため、エンドユーザーのワークロードポータビリティを担保、また導入を促進できると紹介しました。

このほかCNCFは、クラウドネイティブ人材育成への投資として「Kubestronautプログラム」を立ち上げています。このプログラムは、KubernetesおよびCNCFプロジェクトのスキル知識を証明するために作られたもので、2024年11月のプログラム開始以来、世界100カ国以上で約1,800人のKubestronautが認定されています。

アジアからは280人が認定され、特に日本からは63人がKubestronautとして認定されており、これは中国の29人を上回る数とのこと。なお、CNCFが提供する全13種の認定とLinux Foundation認定システム管理者(LFCS/LFCS-JP)資格をすべて取得すると「Golden Kubestronaut」となり、世界に54人いることを紹介しました(アジアからは30%⁠⁠。

CNCFでは、KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025開催にあたり、⁠CNCFエンドユーザー ケーススタディ コンテスト」を実施しました。そこで優勝したのは東京ガス、準優勝したのは三菱UFJフィナンシャル・グループでした。

東京ガスは、モノリシックアーキテクチャから脱却し、Kubernetes、Argo CD、Istioを導入することで、マイクロサービス、GitOps、サービスメッシュを実現しました。その結果、KubernetesとKarpenterによる動的スケーリングでコストを30%削減し、Kubernetesの自己修復機能により運用工数を30%削減、GitOpsとArgo CDによる高速デプロイ、そしてテスト時間を2ヶ月から2週間に大幅短縮するなどの成果を達成しました。また、データセンターのエネルギー消費量削減といった環境責任にも貢献できることを示しました。

三菱UFJフィナンシャル・グループは、Kubernetes、OpenShift、AWS、GitLab、Ansibleを活用して、プロビジョニング時間を数週間から数日へと短縮し、Blue-Greenクラスターアップグレードによる柔軟で安全なロールアウトを実現しました。また、VMからコンテナへ移行したことで開発工数が削減され、俊敏性も向上したことを示しました。

Aniszczyk氏は最後に、CNCFが年間5回、貢献している地域でのKubeCon開催にコミットしていることに言及しました。そして今回の東京でのイベントは、CNCFの期待を上回るものであり、日本コミュニティの活発さを再確認したことを述べ、来年2026年も日本でのKubeCon開催を予定していることを伝えました。

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