OSSデータベース取り取り時報

第118回HeatWave MySQLの機能アップデート⁠PostgreSQL新メジャーバージョン18ベータ版などリリース情報いろいろ

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2025年5月の主な出来事

5月はMySQLサーバーのバージョンアップはありませんでした。クラウドサービスのHeatWave MySQLは、OCIのVNIC(仮想NIC)ごとに設定できる仮想ファイアウォールであるネットワーク・セキュリティ・グループに対応したため、これまでよりも柔軟にアクセス制御が可能となりました。

HeatWaveの4月⁠5月のアップデート

4月のMySQL 9.3.0などのリリースにあわせて、HeatWaveでもMySQL 9.3.0、8.4.5、8.0.42の各バージョンが利用可能となっています。またHeatWaveクラスターも9.3.0にバージョンアップされています。

HeatWave 9.3.0では、ベクトル埋め込み(Embedding)のためのデフォルトのLLMが、9.2.2までのall-MiniLM-L12-v2からmultilingual-e5-smallに変更になりました。HeatWave AutoMLでall-MiniLM-L12-v2を使って、英語以外の言語のベクトル埋め込みの生成も可能ではありました。all-MiniLM-L12-v2自体は英語のみを対象としています。日本語を含む多言語のデータからベクトル埋め込みの生成した際の精度の向上が期待されます。

他のHeatWave 9.3.0での改良点としては、HeatWaveクラスターが一時表をサポートしたことで、集計やデータ変換を行う処理の性能向上が見込まれます。またANALYZE TABLEによって、HeatWaveクラスターにロードされたテーブルの統計情報を更新できるようになりました。

MySQL Shellのアップグレード⁠チェッカー⁠ユーティリティの改良

MySQL Shellには、バックアップ/リカバリやデータ移動を効率化するダンプ&インポート・ユーティリティや、MongoDBの形式のJSONデータなどをロードできるJSON インポートユーティリティ、MySQLサーバー全体やテーブルをコピーできる機能など、運用を効率化できる各種のユーティリティが用意されています。アップグレード・チェッカー・ユーティリティは、MySQLサーバーのバージョンアップ時に互換性の問題が発生しないかなどを事前に確認するためのツールです。

MySQL Shell 9.3.0では、MySQL 9.2.0、8.4.4、8.0.41の各マイナーバージョン以降で影響する空間図形情報(GIS)のインデックス(Spatial Index)の非互換の問題を検出する機能が追加されました。これらのバージョンをまたいだバージョンアップやバージョンダウンの際は、作成済みのSpatial Indexを再作成しないと、データ変更時にデータの消失やサーバーのクラッシュが発生し得ます。

[PostgreSQL]2025年5月の主な出来事

前回にお知らせをしたPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムの成果発表会にはご参加いただけたでしょうか。開催が月末だったため、今回の記事ではその様子をお伝えすることができませんでしたが、次回に報告したいと思います。

また、同じく前回の記事で、次期メジャーバージョン18のベータ版がそろそろお目見えするのではないかと書きましたが、期待通りにリリースされました。今回はその概要を中心にお知らせします。また、既存バージョンのマイナーバージョンアップや、Pgpool-IIのリリース、国産RDB劔⁠Tsurugi⁠の最新情報についてもお知らせします。

次期メジャーバージョン18の最初のベータ版がリリース

5月8日、PostgreSQL 18の最初のベータ版がダウンロード可能になりました。このリリースには、一般公開されたときに利用できる予定の機能のプレビューが含まれていますが、一部はベータ期間中に変更される可能性があります。PostgreSQL 18のすべての機能と変更点の情報はリリースノートに記載されています。今後は数回のベータ版とリリース候補版の後、2025年9月~10月ごろに正式版がリリースされる予定です。

このベータ版を本番環境で実行することはお勧めできませんが、オープンソースのPostgreSQLコミュニティの精神に則り、PostgreSQL 18の新機能をテストして、バグやその他の問題解決にご協力されることを期待します。

PostgreSQL 18ベータ1と他バージョンのリリースを知らせるThe PostgreSQL Global Development Groupのトップページ
The PostgreSQL Global Development Groupのトップページ

以下に、今回のベータ1での機能ハイライトの中からパフォーマンス改善関連を紹介します。

  • 非同期I/O(AIO)サブシステムが導入されました。この新しいサブシステムにより、I/Oスループットの向上とI/O遅延の影響軽減が可能になります。このリリースでは、シーケンシャルスキャン、ビットマップヒープスキャン、バキュームなどのファイルシステムの読み取りがサポートされており、テストでは最大2~3倍のパフォーマンス向上が見られているとのこと。

  • マルチカラムBツリーインデックスで「スキップスキャン」ルックアップの使用がサポートされるようになりました。これにより、1つ以上のプレフィックスインデックス列で「=」条件を省略するクエリの実行時間が短縮されます。

  • ORおよびIN (...)ステートメントを含むWHERE句が最適化されています。最近のインデックスの改善を有効に活用して、クエリパフォーマンスが向上します。

  • ハッシュ結合のパフォーマンスの向上やマージ結合の増分ソートの使用など、テーブル結合の計画・実行方法でのパフォーマンス改善が行われました。

  • JSONやフルテキストデータの検索でよく使用されるGINインデックスの並列構築がサポートされました。

  • Bツリーではない一意のインデックスを使用して、パーティションキーとマテリアライズドビューを定義できるようになりました。

  • 多くのリレーションにアクセスするクエリのロックパフォーマンスが向上し、プルーニングと結合のサポートの改善など、パーティションテーブルに対するクエリが改善されています。

  • upper/lower関数の全体的な高速化や、新しい組み込み照合順序PG_UNICODE_FASTなど、テキスト処理のパフォーマンスが向上しています。

既存バージョンのマイナーバージョンアップ

現在マイナーバージョンアップの対象(サポート対象)になっているメジャーバージョンは13から17です。5月8日に、これらのサポート対象バージョンのマイナーバージョンアップもリリースされています

ちなみに、バージョン12は2024年11月にサポート対象外になっています。また、バージョン13は2025年11月にサポートが終了になります

今回のリリースでは過去数ヵ月間に報告された60件以上のバグが修正されています。その中には次のセキュリティ脆弱性の修正が含まれています。

CVE-2025-4207: PostgreSQL GB18030エンコード検証が失敗したテキストの割り当て終了から1バイト先まで読み取ることができる
PostgreSQL GB18030エンコーディング検証で、バッファオーバーして読み取る問題により、1バイトの超過読み取りでプロセスが強制終了するプラットフォームにおいて、データベース入力プロバイダが一時的なサービス拒否攻撃を実行できる可能性があります。これはデータベースサーバーとlibpqに影響します。PostgreSQL 17.5、16.9、15.13、14.18、13.21より前のバージョンが影響を受けます。

Pgpool-IIのセキュリティ脆弱性修正バージョンがリリース

5月15日、Pgpool-IIの4.6.1、4.5.7、4.4.12、4.3.15、4.2.22がリリースされました。このリリースには、次のセキュリティ脆弱性の修正が含まれています。

CVE-2025-46801: Pgpool-IIにおける認証回避の脆弱性
この脆弱性があったバージョンのPgpool-IIでは、クライアント認証メカニズムに認証バイパスの脆弱性があります。 本来であれば認証が必要な場合でも、認証処理がスキップされてしまう可能性があります。 この脆弱性を悪用することで、攻撃者が任意のユーザとしてログインし、データベース内の情報を参照・改ざんしたり、データベースを停止させたりすることができる可能性があります。
なお、この脆弱性の影響を受けるのはあるパターンの条件を満たす場合に限られますので、適合有無を確認されることをお勧めします。

国産RDB劔“Tsurugi”を自然言語で操作することを可能にするMCP対応版をOSS公開

最新状況を随時お知らせしている劔⁠Tsurugi⁠ですが、AI業界で注目されているMCP(Model Context Protocol)への対応を行いOSSでリリースしました。これにより将来的に、TsurugiをAI(LLM)を介して自然言語で操作することが可能となります。

Tsurugiは、NEDOの「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発」において開発されたOSSのRDBです。現状のメニーコア・大容量メモリのハードウェア環境で、超低遅延・高スループットの世界最高水準のパフォーマンスを、一貫性を担保したまま提供できる超高速RDBです。

ユーザがLLMを通じて自然言語の入力をすることで、特定のアプリケーションを介さず、Tsurugiのデータを扱うことができます。Tsurugiに存在する業務データをSQLや特別の画面アプリケーションを操作せずに、ユーザが「適当な自分の言葉で」利用することを可能にしています。

なお、Tsurugi本体については、5月16日にバージョン1.4.0がリリースされています

また、Tsurugiに関する講演やセミナーが予定されています。6月11日にはInterop Tokyo 2025会場にて、6月27日には上述のMCP対応についてのセミナーが開催されます。詳しくはこの記事後半のセミナー・イベント情報コーナーを参照してください。

2025年6月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

Amazon RDS for MySQLからHeatWave MySQLへの移行し⁠コストパフォーマンスを大幅改善

日程 2025年6月11日(水)16:00~17:30
場所 オンラインセミナー(Zoom)
内容 このウェビナーでは、Amazon RDSからOCI上のHeatWave MySQLへの移行のメリットと手順について、実際のデモを交えながら解説します。移行のベストプラクティスとトラブルシューティングの方法について学び、自社のデータベース環境を最適化するための実践的なアドバイスを得ることができます。
主催 日本オラクル セミナー事務局

光電融合で実現するリアルタイム分散データベース (Interop Tokyo 2025内)

日程 2025年6月11日(水)13:20~14:00
場所 幕張メッセ(Interop Tokyo 2025 展示会場内)
内容 技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)研究開発責任者などとともに,劔"Tsurugi"開発責任者の神林飛志氏が講演します
地域的に離れた多数のデータセンタを結び、高可用性および高保守性を実現するリアルタイム分散データベースのための技術を概観します。この技術のベースとなる多方路エラスティックネットワーク技術は、分散配置したサーバを、光スイッチを通して多対多で接続することにより、光ファイバ中の光速度で決まる遅延量しか持たず、任意に接続経路を切り替えられるネットワークとなります。
これを運用するための、OSSとして公開される資源管理・自動経路設定アルゴリズム、運用される分散データベースアルゴリズムを説明し、将来的なさらなる高速化のためのマルチテラビットトランシーバについても説明されます。
主催 Interop Tokyo 実行委員会
出展者:技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA⁠⁠、株式会社ノーチラス・テクノロジーズ

JPUG総会併設セミナー2025

日程 2025年6月14日(土)15:00~17:00
場所 AP東京八重洲 ⁠昨年度開催のAP日本橋とは違う会場です)
内容 日本PostgreSQLユーザ会の2025年度総会に併せて、一般参加も可能なセミナーが行われます。内容は、PGConf.dev参加レポートなどが計画されていますが、未確定の内容もあります。詳細はイベント案内ページをご参照ください。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

EDB Postgres AI の未来との出会い

日程 2025年6月17日(火)12:30〜13:05 ⁠日本時間)
場所 オンライン開催
内容 エンタープライズDB(EDB)はAIおよびデータアプリケーション向けに特別に設計された、初のオープンでセキュアなPostgresプラットフォームを全世界に向けてオンラインで発表します。この新しいプラットフォーム上ではノーコード/ローコードのAIアプリケーションをセキュアに構築することができます。
  • 新機能のライブデモ
  • EDB、Red Hat、Supermicroなど連携パートナーによる技術解説
  • 性能ベンチマークで大幅な向上を実現する、新しい発想の革新性について
  • ソブリンAIとグリーンコンピューティングに関する最新調査結果
言語:英語(機械翻訳によるライブ日本語字幕あり)
主催 EnterpriseDB Corporation

企業のAI活用はクラウドを前提で大丈夫!?これからのAI戦略に求められるAIプラットフォームとデータベース戦略

日程 2025年6月19日(木)10:00~11:00
場所 オンライン開催(ウェビナー)
内容 企業におけるAI活用においてプラットフォームとデータベース基盤の選択は非常に重要な要素となります。 特に重要なデータを活用する場合、すべてをクラウドサービスにて利用することが出来ないケースが多く、オンプレミス環境を含めて利用できる環境の検討が必要です。
本セミナーではクラウドとオンプレミス、どちらの環境でも利用が可能なAIプラットフォーム、AIデータベース基盤をご紹介し、その導入価値について解説します。
主催 サイオステクノロジー株式会社、レッドハット株式会社、エンタープライズDB株式会社

第53回 PostgreSQLアンカンファレンス@オンライン

日程 2025年6月24日(火)20:30〜22:30
場所 オンライン開催
内容 「PostgreSQLについてしゃべりたいことがある、聞いてほしいことがある!」⁠PostgreSQLについて聞いてみたい、相談したい!」そんな感じで登壇してもらってOKです。
  • 初心者による「使ってみた/動かしてみた」
  • 中級者による「こういうノウハウ使ってる」
  • 上級者(?)による「こういう拡張してみた」
その他、PostgreSQLに関連する話題であれば何でもOK!アンカンファレンス形式なので、何が出るかは当日参加してのお楽しみ。
主催 PostgreSQLアンカンファレンス

Tsurugi-MCP セミナー

日程 2025年6月27日(金)14:30~17:00頃
場所 TKPガーデンシティPREMIUM東京駅丸の内中央
内容 本編で紹介したように劔⁠Tsurugi⁠が話題のMCP(Model-Context-Protocol)を実装、提供しました。これにより、TsurugiをLLMから直接利用することができようになっています。
自然言語の入力で、Tsurugiのデータを扱うことができるようになり、特にリアルタイム性に優れるRDBのデータをSQLや特別のアプリケーションを介さずに利用することができます。デモンストレーションも行われる予定です。
主催 株式会社ノーチラス・テクノロジーズ

オープンソースカンファレンス 2025 Shimane / Hokkaido / Kyoto

日程 〔Shimane〕2025年6月21日(土)10:00~17:00
〔Hokkaido〕2025年7月5日(土)10:00~18:00
〔Kyoto〕2025年8月3日(日)10:00~18:00予定
場所 〔Shimane〕松江テルサ(松江市)
〔Hokkaido〕札幌市産業振興センター 産業振興棟(札幌市白石区)
〔Kyoto〕京都リサーチパーク 4号館(京都市下京区)
内容 オープンソースカンファレンス(OSC)はオープンソースの今を伝えるイベントです。東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで、年間を通じて全国各地で開催しています。オープンソース関連のコミュニティや協賛企業・後援団体による、セミナーやプロダクトの展示などを入場・参加料が無料でご覧いただけるイベントです。現在は開催地域によってオンラインとオフラインで開催しております。
今回ご案内する ShimaneとHokkaidoの出展募集は終了しており、プログラムの公開準備中です。Kyotoは6月23日締切で出展者募集中です。なお、今年のKyotoは日曜日(8月3日)の開催です。ご注意ください。OSSデータベース関連の発表については、公開されるプログラムをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

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