GitLabが解説:ソフトウェア開発におけるAI活用の現状と今後

アジャイルプランニング本来の価値を⁠AI搭載のDevSecOpsプラットフォームで取り戻す

アジャイルプランニングが登場してから25年、プロセスの形式化や管理上の負担が生じ、その本来の価値はかすんでしまいました。バックログやバーンダウンチャート、技術的負債に足を引っ張られ、従来のアジャイルプランニングはその限界を見せ始めています。

しかし、アジャイルが企業全体へと拡大する過程で、その本来の意図が伝わらず、チームレベルの俊敏性と企業ニーズとのギャップを埋めようとするScaled Agile Framework(SAFe)のようなフレームワークが登場しました。ソフトウェア業界では長らく「昔からこうやってきたから」という姿勢が最も危険だとされてきましたが、近年では「一応アジャイルは導入しているけれど…」という企業が増えてきています。これは、当初アジャイルを画期的な手法として位置づけた本来の原則が妥協されつつある現状を浮き彫りにしています。

とはいえ、アジャイルの中核を成す「変化への対応」⁠イテレーション」⁠顧客価値の重視」といった考え方は、今なお非常に重要な意味を持ち続けています。課題とすべきは、複雑な組織構造の中でこれらの考え方を大規模に実践していくことです。アジャイルを廃止するのではなく、アジャイルの概念を体現する次世代のツールを見出すことが重要です。

AIとプラットフォームの革命

アジャイル開発との歩みは、アジャイルマニフェストの共同作成者である思想的リーダーたちとともに始まりました。その一人であるJon Kern氏は、⁠文書よりも顧客中心の姿勢と成果の提供こそが何より重要である」と述べています。この教えを実践した少数精鋭のチームは、迅速な反復と顧客からのフィードバックを通じて、大きな成果を生み出すことに成功しました。しかし、大規模な企業では、その環境の中でこうした原則が見失われてしまうこともあります。

現代のAI搭載プラットフォームは、そうしたアジャイルの本質に立ち返る新たな道を示しています。マルチエージェントコラボレーションプラットフォームの登場です。これは、複数のAIエージェントが連携しながら、コードスキャン、顧客フィードバックの分析、解決策の提案を自動で行う統合された環境です。この連携されたインテリジェンスにより、チームはリアルタイムのインサイトに基づいた対応を続けることができます。

顧客フィードバックやサポートチケット、利用パターンをAIが分析し、それらをもとに関連するイシューを自動的に特定し、有用なエピック(作業項目を作業階層構造に整理すること)として整理してくれる。そんなAIシステムを想像してみてください。長時間の計画会議はもう必要ありません。これらのシステムは、チームのベロシティやタスク間の依存関係に基づいて、エピックを適度なサイズのストーリーに分割し、ビジネス価値と技術的整合性のバランスを最適化しながら、スプリントに自動的に割り当てることが可能です。

その結果、バックログの手動整理やプランニングポーカー、スプリント計画といった煩雑な作業は、AIの自動化により短時間の確認セッションへと簡略化され、人間の創造性と戦略的思考は「どうやるか」ではなく「なぜやるのか」を考える時間に集中できるようになります。チームは、⁠価値をどう届けるか」を議論するよりも、実際にその価値を届けることにより多くの時間を使えるようになるでしょう。

実例として、欧州のソフトウェア開発企業であるCubeでは、開発の全工程にAIを活用する統合プラットフォームを導入し、開発スピードとコード品質の両面を大幅に改善することに成功しました。

アジャイルから人間の判断を排除することが目的なのではなく、それを管理的な作業の重荷から解放し、戦略的な意思決定へと昇華させることが重要です。その結果、チームはアジャイルが本来目指していた、柔軟性と価値提供に根ざした開発を実現できるようになります。

AI時代の軽量プランニング

複雑なワークフローを伴う従来のモノリシックなプランニングツールは、開発ライフサイクル全体とシームレスに連携する軽量なイシュー管理システムに置き換わりつつあります。イシュートラッキングが、コードリポジトリやCI/CDパイプライン、デリバリーシステムと一体化していることで、AIがワークフローを真に強化できる環境が実現します。

この統合プラットフォームアプローチを通じて、プランニングと実行を根本から変革することができます。以下に、統合機能の例をいくつかご紹介します。

AI主導のセキュリティ修正計画
セキュリティを別のワークフローとして扱うのではなく、インテリジェントなAIツールが脆弱性スキャンに基づいて自動的に修正イシューを作成し、リスク評価に応じて優先順位をつけ、機能開発と並行して賢くスケジューリングしてくれます。これにより、セキュリティ負債が放置されたバックログに蓄積されることを防ぎ、アプリケーションのセキュリティ対策状況を明確に把握できるようになります。
インテリジェントなコードレビューの自動化
コード変更の分析、潜在的なバグの特定、最適化の提案、アーキテクチャパターンへの準拠チェックなど、これらすべての作業を、人間のコードレビューに先立ってAIが自動的に実行します。これにより、人間のレビュアーは、基本的な問題の指摘ではなく、実装アプローチに関する戦略的な判断に、より多くの時間を割けるようになります。
インテリジェントなクロスプラットフォームオーケストレーション
Agent2Agent(A2A)通信フレームワークを活用することで、開発プラットフォームと、プランニング・イシュー管理ツールの間に強力なインテグレーションを構築できます。これにより、AIエージェントがプラットフォーム間のデータを自動で同期できるようになり、プランニングがどこで行われていても、開発作業の全体像を把握できる環境が整います。さらに、デベロッパーの作業状況に応じてスプリントの割り当てを調整し、タイムラインやチームのキャパシティにリスクがある場合は早期に警告を発します。

こうした機能はすでに存在しており、これらを活用することで、デベロッパーの生産性向上やリーダー層による情報に基づいた意思決定が可能になります。その結果、プランニングツールと実行ツールの間で情報が滞りなく流れる一体的なエコシステムが構築され、デベロッパーが複数のシステムを行き来して頭を切り替える必要がなくなります。

チームへの影響

AI搭載のアジャイルプランニングに移行する際は、以下のような流れで現在のプロセスやツールチェーンを現実的に見直すことが求められます。

  1. まずは、現在の開発とデプロイの間にボトルネックがないかを確認します。アジャイルセレモニー(定例会議)は行われているものの、依然として従来の承認フローが重要な意思決定の足かせになっていないかを見極めることが大切です。

  2. 次に、チームが計画のセレモニーにどれだけ時間を割いているか、実際の開発作業にどれだけ時間を使っているかを検証します。バックログ整理や見積もりセッション、ステータス更新などの管理業務をAIで自動化しつつ、優先順位の設定や技術的な意思決定といった戦略的な判断には人間の知見を活かせるかどうかを検討してみましょう。

  3. さらに、計画、開発、デプロイの各フェーズ間で手動による調整作業が必要な箇所を洗い出し、データの自動同期や、キャパシティやタイムラインに関するリスクの予測インサイトの提供など、AIに任せられる領域を探しましょう。こうした取り組みにより、デベロッパーが複数のツールを行き来する際に生じる「頭の切り替え」を減らし、集中力の分散を防ぐことができます。

  4. 最後に、現在のプランニングに伴う負担を見直し、自動化可能な管理作業を見極めましょう。そうすることで、チームはプロセスの順守に時間を取られることなく、顧客への価値提供や戦略的思考に基づく技術的な意思決定に集中できるようになります。人間の判断力を排除するのではなく、日常的な業務から戦略的思考へと引き上げることが目的です。

未来を掴むのは、計画、コード、デリバリーが一体となった、軽量でAI対応のプラットフォームを取り入れたチームです。機械が戦術的な実行や管理業務を担うことで、人間はイノベーションの創出や顧客満足の実現といった、組織に真の価値をもたらす役割に専念できるのです。

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