技術資格に「合格する」ための勉強法
—⁠—IPA&AWS試験で成果を出した“実践ノウハウ”公開

エンジニアにとって、変化の激しいIT業界を生き抜くうえで欠かせないのが「学び続ける力⁠⁠。そんな⁠学び方⁠そのものに焦点を当てた勉強会シリーズが、ハイヤールー社主催の「Study Hack」です。2025年7月10日に開催された回のテーマは、資格で人生を変える勉強法⁠。登壇したのは、IPA(情報処理技術者試験)とAWS認定資格のすべての区分に合格し、現在はENECHANGE社でVPoTを務める岩本隆史さんです。

イベントでは、岩本さんが試行錯誤を重ねて培った勉強のノウハウが語られました。本記事では、その内容をもとに「合格する」ための勉強法のエッセンスを紹介します。資格取得を通じてキャリアの選択肢を広げたい方や、勉強のモチベーションを高めたい方にとって、きっとヒントになるはずです。

1. 合格ラインを超えるコツ

まずは、合格に必要な知識や得点力を、どう身につけていくかを解説します。

1-1. 合格体験記を読む

資格試験の勉強を始める際、合格体験記を読むことは非常に有効です。すでに合格した先人たちの「どのように勉強したか」という記録には、再現性のあるノウハウが詰まっています。たとえば、⁠参考書を3冊買ったけれど、結局この1冊が一番よかった」といった具体的な書籍の紹介や、問題集の選び方、勉強にかけた期間などが詳しく書かれていることが多く、参考になります。

岩本さんの場合は、1カ月ほどが集中力の持続する限界と感じていることから、勉強期間は概ね1カ月を目安にしました。ただし、この期間は人によって合う・合わないがあるので、複数の体験記を読み、自分に合いそうなやり方を見つけて取捨選択することが大切です。

おすすめの情報源として、独学のオキテというサイトがあります。このサイトでは、資格の独学方法や勉強方法が紹介されています。読み物としても面白く、勉強のモチベーションにもつながるので、未読の方はぜひ一度目を通してみてください。

1-2. テキストをざっと読む

合格体験記を参考にして、おすすめされているテキストを入手しましょう。多くの場合、テキストは数百ページにおよぶため、最初から集中して読み切るのは大変です。岩本さんの場合、最初の一周は「どんなキーワードが出てくるか」⁠どんなテーマがあるか」くらいの感覚で、ざっと目を通すようにしています。

その後、何周も読むことになるので、最初からすべてを覚えようとするのではなく、全体像をつかむくらいの軽い気持ちで読み進めるのがおすすめです。試験の内容を大まかに把握することで、その後の学習もスムーズになります。

1-3. 問題集を解く

岩本さんが最も重要だと考えているのが、過去問を繰り返し解くことです。予想問題を解くのも一つの方法ですが、実際の試験では過去問と似た問題が出題されるケースも多いため、まずは過去問を優先するのがおすすめです。

特に直近の3回分以上を解いておくと、出題傾向がつかめるだけでなく、本番に向けた安心感も得られます。また、解くだけで終わらせず、必ず採点して得点を記録することも大切です。たとえば、合格ラインが100点満点中60点の場合、現在の得点が40点なら、20点分の底上げが必要になります。このギャップを把握することで、今後の学習計画が立てやすくなります。

1-4. 「テキスト→問題集」を何周かする

テキストを読み、問題集を解くというサイクルを1回で終わらせず、何周か繰り返すことが基本です。もちろん、1周で十分な手応えがあれば終了しても構いませんが、通常は繰り返すことで記憶が定着し、理解も深まります。たとえば、合格ラインが60点の試験で、問題集で毎回70点以上を安定して取れるようになれば、ひとまず合格できるという安心感が得られるはずです。

ただし、2周しても得点が伸びず、合格ラインに届かない場合は、使っているテキストや問題集が自分に合っていない可能性もあります。そんなときは無理に続けず、別の教材に切り替えるのも一つの手です。

1-5. 経験を整理する(論述試験の場合)

論述形式の試験、特にIPAのプロジェクトマネージャ試験の午後Ⅱなどでは、過去の実務経験をもとに、数千字の文章を手書きで記述する必要があります。準備なしで挑むのは非常に危険であり、自身の経験をきちんと整理しておくことが重要です。

整理の方法として有効なのが、STARメソッドです。

  • S(Situation):どのような状況だったか
  • T(Task):自分に課された役割や課題
  • A(Action):どのように行動したか
  • R(Result):その結果どうなったか

このフレームワークで自身の経験をあらかじめ言語化しておくと、論述試験でも説得力のある文章を書きやすくなります。

実際のプロジェクトマネージャー試験の午後Ⅱでは、⁠どんなシステムに関わったか」⁠どのような課題が発生したか」⁠自分がとった対応」⁠得られた結果」などを、それぞれ指定された字数で記述します。たとえば、⁠プロジェクトで主要メンバーが離脱した」⁠生成AIプロジェクトに知識ゼロの状態で配属された」などの課題にどう向き合い、どんな対応を行い、成果につなげたかを順序立てて説明する必要があります。このような構成の試験では、あらかじめ書けるネタを3つほど用意しておき、頭の中で整理しておくのが効果的です。

もし、プロジェクトマネージャーの実務経験がないならば、⁠追体験」が役立ちます。合格者の体験記や論文を読み、自分の経験として咀嚼し、実際に見聞きした事例を自分の言葉で語れるようにするのです。完全なフィクションにするのではなく、⁠同じチームのプロジェクトマネージャーの行動を見て学んだこと」⁠自分ならこうしたいと思ったこと」など、リアルな視点を取り入れれば説得力のある内容になります。

また、市販されている合格論文集の活用もおすすめです。さまざまな区分の過去合格論文が掲載されているため、自分の立場や経験に近い事例を参考にしやすいでしょう。論述試験の副次的なメリットとして、面接の対策にもなります。論述試験の準備は、実務や転職活動にも活かせるのです。

特にプロジェクトマネージャー試験は、エンジニア職に限らず、学生や他職種の方にも有用です。というのも、資格取得そのものが1つの「プロジェクト」であるためです。目標設定、課題分析、戦略立案、実行、結果の振り返りという一連の流れは、プロジェクトマネジメントのプロセスそのものです。プロジェクトマネージャー試験を受けると自己分析のきっかけにもなり、他の勉強にも応用がきく貴重な経験になります。

1-6. とりあえず受ける

一発合格できれば理想ですが、不合格でも得られるものは多くあります。そこで、⁠とりあえず受ける」ことで経験を重ねるのが大切です。

実際に試験を受けてみないと、会場の緊張感や自分のコンディション、手書きの分量にどれだけ対応できるかなど、わからないことが多くあります。特に論述式の試験では、限られた時間内でどれだけ書けるかを体感するだけでも大きな収穫になります。

2. スケジュールを立てて守るコツ

続いて、合格に向けた計画を立て、それを無理なく継続するためのコツを解説します。

2-1. 残り日数から逆算して決める

学習スケジュールは、試験日から逆算して立てることが基本です。岩本さんの場合、1カ月前からの準備を行う際には「1週目でテキストを通読」⁠2週目で問題集に取り組み」⁠3週目・4週目で問題集を復習」のような流れを意識しています。自分なりの「勝ちパターン」を持っておくと、計画が立てやすくなります。

2-2. なるべく前倒しする

とはいえ、計画通りに進まないのが人間です。だからこそ、序盤にペースを上げて前倒しで進めることが大切です。岩本さんは、途中でモチベーションが下がることに備えて早めに取り組み、スケジュールのバッファを確保するようにしています。

2-3. 時間泥棒と別れる

「時間が足りない」と感じる背景には、何かに時間を奪われているケースが多くあります。たとえば、岩本さんの場合はゲームがその一つでした。そこで、ゲーム機を手放して資格取得を⁠現実世界のゲーム⁠だと捉えるようにしたことで、自然と勉強に意識が向くようになりました。

SNSも同様で、つい時間を取られがちです。たとえば「夜10時〜11時だけ見る」といったルールを自分に課すことで、時間の使い方をコントロールしやすくなります。時間を確保するためには、何に使っているのかを意識し、不要なものとは適度に距離をとる工夫が大切です。

3. モチベーションを上げるコツ

ここからは、自らの気持ちを奮い立たせ、勉強を継続する秘訣を解説します。

3-1. 合格後の自分を想像する

資格に合格すると、大きな達成感を得られます。そうした⁠合格後の自分⁠を想像することは、勉強のモチベーション維持に効果的です。また、資格はキャリアにも好影響を与えることがあります。転職がしやすくなったり、年収アップにつながったりする例も珍しくありません。実際に、合格体験記の中には「合格後にどのような変化があったか」を書いている方も多く、非常に参考になります。

岩本さん自身も、資格取得をきっかけにして未経験からエンジニアへ転職し、アマゾンウェブサービスジャパン社への入社、そしてENECHANGE社でのVPoT就任などを経験。人生が大きく変わりました。

3-2. 悔しさを思い出す(再挑戦の場合)

再挑戦の強いモチベーションになるのが、⁠悔しさを思い出すこと」です。岩本さんは、2015年にシステムアーキテクト試験に不合格となり、⁠論述は自分には無理だ」と感じて、しばらくは論述のない試験ばかりを受けていました。しかし、⁠このまま逃げたままで終わるのか」と悔しさがこみ上げ、2018年に再挑戦を決意。失敗の原因を振り返り、課題を克服してプロジェクトマネージャー試験やシステムアーキテクト試験に合格しました。

不合格はつらいものですが、何が足りなかったのかを正面から見つめ直すことで、次の挑戦の糧になります。悔しさを原動力にする姿勢が、再挑戦には何よりも大切です。

3-3. スタンプ帳を作る(全冠狙いの場合)

複数の資格を取得する場合、スタンプ帳を作るのは有効なモチベーション管理法です。人は、枠があると埋めたくなるもの。⁠残りが見える状態」になると自然とやる気が湧いてきます。⁠スタンプ帳を自作するのは面倒だ」という人は、紙のメモ帳やスプレッドシートにチェック欄をつくるだけでも十分です。

岩本さんは、IPA全冠を目指していたときに実際にスタンプ帳を作り、試験の達成状況を可視化していました。当時は「あと◯個!」と自分を鼓舞しながら取り組んでいたそうです。目標と進捗状況の見える化は、学習の継続において思いのほか効果的です。

3-4. 会社の受験料補助制度を使う

会社の受験料補助制度を活用することも、モチベーション維持のためには効果的です。岩本さんの勤務先であるENECHANGE社では、不合格の場合でも受験料を全額補助してもらえる制度があります。この制度を使って「◯月◯日に試験を受けます」と宣言することで、自然と背筋が伸びます。宣言しておいて不合格になるのは悔しいため、その気持ちも努力の原動力になるのです。

「うちの会社にはそんな制度はない」という方もいるかもしれません。しかし、ENECHANGE社にもかつてはこの制度はなく、岩本さんが提案して新設されたのです。制度がないからと諦めず、自ら提案してみることも選択肢の一つです。周囲の学習意欲も高まり、組織としての成長にもつながる可能性があります。

まとめ

本記事では、岩本さんの実体験をもとに、⁠資格試験に合格するための勉強法」について紹介しました。テキストや問題集の活用方法、スケジュール管理の工夫、そしてモチベーションを維持するための具体的なアプローチには、再現性の高いヒントが詰まっていました。資格は、単なる称号ではなく、自信を高めキャリアの可能性を広げるきっかけになります。この記事が、⁠学び続ける力」を身につけたいと願う方の後押しとなれば幸いです。

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