KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025 参加レポート

去る2025年6月16・17日、KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025がヒルトン東京お台場にて開催されました。KubeCon + CloudNativeCon(以下、KubeCon)は世界最大のクラウドネイティブ技術の国際カンファレンスであり、この分野の日本国内のエンジニアにとって待望のイベントでした。今回は、その初めての日本開催となりました。

主催者発表によると、用意された1,500枚のチケットは完売。実際の会場でも、このイベントの熱気を楽しむ多くのエンジニアで溢れており、日本のクラウドネイティブコミュニティの盛り上がりを肌で感じることができました。

満席のキーノート会場(CNCF公式flickrアルバムより)

この記事では、当日の印象深いセッションやイベントの様子、参加者としての楽しみ方についてレポートします。

セッションの紹介

KubeConには、インフラ運用からセキュリティ、Observability、Platform EngineeringやAIワークロードまで、幅広い分野にわたるセッションが用意されています。中でも、実際の現場での運用事例や最新の機能開発の取り組みに基づいたリアルな発表は、非常に学びの多いものでした。ここでは、特に印象に残った2つのセッションを紹介します。

No More Disruption: PSN's Approaches To Avoid Outage on Kubernetes Platform

ソニー・インタラクティブエンタテインメントのTomoyuki Ehiraさん、Shuhei Nagataさんによるこのセッションでは、50以上のクラスタで構成されたKubernetesベースのプラットフォームにおいて、99.995%の可用性を実現するために行った数々の工夫が紹介されました。

特に印象的だったのは、このキーメッセージ「Doing the Basics Right / 普通のことを普通にやる」です。

紹介されたプラクティス自体は、決して技術的に高度なものばかりではありません。しかし、一つひとつの課題の原因を正しく捉え、それに対して効果的なソリューションを地道に適用していく姿勢に、私自身とても感銘を受けました。華やかな技術に頼るのではなく、基本を丁寧に積み重ねていくことの大切さを改めて感じさせられる内容でした。

また、紹介された中の多くのプラクティスは、Kubernetesやクラウドネイティブ関連の標準的なコンポーネントや機能によって実現可能なものであり、このエコシステムの成熟度の高さと懐の深さを実感する機会にもなりました。

Reimagining Cloud Native Networks: The Critical Role of DRA

このセッションでは、EricssonのLionel JouinさんとIBM ResearchのSunyanan Choochotkaewさんが登壇し、Kubernetesの注目機能であるDynamic Resource Allocation(DRA)をネットワークリソースに応用する取り組みについて解説しました。

特に注目すべきは、DRAによる「帯域幅の保証」「NICトポロジーを考慮したデバイス割り当て」など、従来のCNIでは対応が難しかったユースケースに対応する新たなネットワーク管理の枠組みが提示された点です。

この仕組みにより、ユーザーはたとえば「10Gbpsの帯域が保証されたNICを利用したい」といった詳細なリソース要求をPod単位で宣言でき、Kubernetesはそれに基づいて最適なノードを自動で選定・設定します。これは、Kubernetesネイティブかつ宣言的なネットワーク制御を実現するものであり、高性能な分散アプリケーションやAIワークロードにおいて非常に有用だと感じました。

Kubernetesはすでに非常に成熟した基盤である一方で、このような拡張性の高い取り組みを通じて、今後も大きな進化の余地を残していることを強く実感したセッションでした。

セッションを聞くだけじゃない!KubeCon + CloudNativeConの楽しみ方

KubeConは選びぬかれたセッションを聴講できるだけでなく、他にも参加者が楽しめる魅力が多くあります。ここでは貴重なKubeConの機会を最大限に活かすための、おすすめの楽しみ方を紹介します。

CNCFのキーパーソンに質問してみよう

KubeConはCNCFのキーパーソンや、各プロジェクトのコントリビューターが集まる貴重な機会です。彼らと直接交流し、技術的な質問やコミュニティ活動について意見交換できる場としても非常に価値があります。

なんのきっかけもなしに彼らとコミュニケーションを取るのはハードルが高いかもしれませんが、そんなときはオープンに質問を受け付けるQAセッションに参加してみてください。

今回のKubeConでは、⁠Ask the Experts: CNCF CTO and TOC Members Open Q&A」という、CNCFのスタッフやTOC (Technical Oversight Commitiee) によるQAセッションが開催されました。これは、CNCFの今後の方針や、プロジェクトへの参加方法、コントリビューションの始め方などを質問できる対話型のセッションです。

このQAセッションでは、CNCF傘下プロジェクトの成熟度レベル (*) について、各レベルに加わるための基準やプロセスに関する質疑応答が主に交わされました。プロジェクトを審査する立場のメンバーから、期待されるポイントや評価の観点について直接話を聞けたことは、非常に貴重な機会だったと感じます。

プロジェクトのディープな情報をゲットしよう

KubeConにはMaintainer Trackと呼ばれるセッションカテゴリがあります。このトラックでは、KubernetesのSIGやCNCF傘下のプロジェクトのメンテナーやコントリビューターが登壇し、最新のロードマップ、技術的課題、注目機能などについて直接説明してくれます。

自分たちが利用しているプロジェクトのMaintainer Trackに参加することで、よりディープな情報をゲットしたり、現在直面している課題について質問することもできます。

こうしたセッションは普段はGitHub上でしか見かけないメンテナーと直接対話できる貴重な機会です。また、実際に運用や開発で感じている疑問をぶつけてみることで、仕様の背景や設計意図を深く理解できるだけでなく、フィードバックが今後の改善につながる可能性もあります。

Co-Locatedイベントもチェックしよう

KubeConの前後には、Co-Locatedイベント(併設イベント)が多数開催されるのが通例で、今回の日本開催では、KeycloakConやJapan Community Dayなど、合計4つのイベントが開催されました。

私個人としてはCloud Native Community Japan (CNCJ)の一員として、Japan Community Dayの運営に一部関わりました。

Japan Community Dayでは、クラウドネイティブ技術に関わる日本のコミュニティや、CNCJ内のSIGやサブグループが中心となり、各々が持ち寄ったコンテンツを通じて知見や経験を共有しました。海外からの招待スピーカーや、CfP選考を経た登壇者が集結し、KubeCon本体にも劣らぬ質の高いコンテンツを提供できました。また、Kubernetes Upstream Trainingや技術書籍のサイン会なども実施され、とても充実した内容だったと思います。

Kubernetesの共同創設者であり、技術リーダーのTim Hockin氏による講演
図

このイベントの発表内容は、YouTubeにてアーカイブ動画を視聴することができます。ぜひチェックしてみてください。

  • 「Japan Community Day」動画アーカイブ:Track1, Track2

まとめ

KubeCon + CloudNativeCon Japan 2025は、クラウドネイティブ技術の最前線を肌で感じられる貴重な場であり、世界と日本の技術者が交わるハブとして、非常に意義深いイベントでした。

セッションを通じて得られる知見はもちろんのこと、人との交流やコミュニティへの参加意欲を高めてくれる、学びと刺激に満ちた時間だったと感じています。

そして、2026年にも日本でのKubeCon開催がすでに決定しています! 来年もこの熱気を継続し、クラウドネイティブのムーブメントを日本からさらに盛り上げていきましょう!

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