OSSデータベース取り取り時報

第119回MySQLでの非同期タスクのサポート⁠PostgreSQLエンタープライズ⁠⁠⁠コンソーシアムの成果報告⁠そして次回は10周年!

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

この「OSSデータベース取り取り時報」1995年9月に連載を開始しました 。そして、次回が第120回となり、10周年を迎えます。ご愛読いただきありがとうございます。

オープンソースカンファレンス 2025 Kyotoでセミナー実施〔連載10周年記念プレ企画〕

10周年を記念して、オープンソースカンファレンスの場をお借りして企画イベントを考えていますが、秋の開催回(Online/Fall)をメインにして、その前にプレ企画を準備中です。8月3日(日)に開催される「オープンソースカンファレンス 2025 Kyoto」⁠OSC京都)にてセミナーを開催予定です。

データ活用がデジタル変革(DX)のキモであること、そしてそこではOSSが中心的役割を果たすであろうことを、データベース部会のメンバや他の部会メンバ、そして他団体からの応援も得て、講演発表とパネルディスカッションを行う予定にしています。

1ヵ月前になりましたが、登壇者や発表内容など、大急ぎでとりまとめています。OSSコンソーシアムのWebサイトや、OSC京都のプログラムページで、近日中に詳細をお知らせできる見込みです。関西の方や、OSC京都に参加をお考えの方は、私たちのセッションにご参加ください。

[MySQL]2025年6月の主な出来事

6月はMySQLサーバーのバージョンアップはありませんでした。第118回の締め切り後の5月27日に、HeatWaveで使われるMySQLサーバーとHeatWaveクラスターのバージョンが9.3.1にバージョンアップされました。このバージョンアップにあわせて、第95回で紹介したMySQLサーバーのデータをRESTで操作できるMySQL REST ServiceがHeatWaveでも利用できるようになりました。

Amazon RDSからHeatWave MySQLへのマイグレーション

HeatWaveに関連したセミナーとして、Amazon RDS for MySQLからHeatWave MySQLへのマイグレーションをテーマにしたウェビナーが6月11日に開催されました。Amazon RDS for MySQLはMySQLのコミュニティ版をベースとしたクラウド・データベースとされていまが利用されているMySQLのソースコードは公開されないため、開発元のオラクルが提供しているオープンソースのMySQLとの互換性は不明です。実際にはシステム系のテーブルが格納されているmysqlスキーマなどに差異があるため、マイグレーションの際にも考慮が必要です。

このウェビナーでは、MySQLの長年にわたるパートナー企業でもある株式会社スマートスタイルのエンジニアが登壇し、実際にネットワーク設定やデータのコピーなどを行いながらマイグレーション方法を解説していました。講演の模様は、近日中にHeatWaveのオンデマンド・ウェビナーとして配信予定です。

また、以降の手順を整理した無料のAmazon RDS for MySQLからHeatWave MySQLへの移行ガイドもダウンロードできるようになっています。

OCIのAlways FreeサービスでのHeatWave GenAI利用

OCI(Oracle Cloud Infrastructure)では、Oracle Autonomous DatabaseやVM(Compute⁠⁠、ストレージやネットワークを期間無制限で無料で利用できるAlways Freeサービスを提供しています。

HeatWaveもこれまでAlways Freeサービスの一環として利用可能でしたが、6月からHeatWaveの生成AI機能であるHeatWave GenAIも無料で利用可能となりました。これでHeatWaveの全機能がAlways Freeサービスとして無料で利用できる形となっています。無料利用できるスペックやデータ量などは以下の通りです。

  • スタンドアロン構成1インスタンス
  • MySQLサーバー:1ECPU
  • データ用ストレージおよびバックアップ用ストレージ:各50GB
  • HeatWaveノードのメモリサイズ:16GB
  • HeatWave Lakehouse用オブジェクトストレージ:10GB

OCIのAlways Freeサービスで利用できるサービスやリソースの上限などは、マニュアルを参照してください。

Always Freeサービスで利用できるHeatWave GenAIでは、HeatWaveクラスターに内蔵されたLLM(大規模言語モデル)であるIn-Database LLMのみ利用できます。HeatWave 9.3.1ではMetaのllama3.2-3b-instruct-v1とllama3.2-1b-instruct-v1がサポートされています。なおOCIの生成AIサービスはAlways Freeサービスには含まれていないため、無料トライアルとしての利用になります。

MySQL 9.3.1での改良点

コミュニティ版などの提供はありませんが、HeatWaveで利用できるMySQLサーバーとして9.3.1がリリースされています。新しいストアド・プロシージャとしてexecute_prepared_stmt_async()が追加され、時間がかかりそうなSQL文を非同期で実行できるようになりました。これまでは各セッションから実行されたSQL文は終了まで待つ必要がありました。非同期で実行できるようになったことで、セッションは処理の実行指示のみを行います。非同期タスクの状況を確認できるようになっているため、処理の終了を待ち続ける必要が無くなっています。

下記はマニュアルにも記載されている非同期タスクの実行例です。

mysql> CALL mysql_tasks.execute_prepared_stmt_async(
 'CREATE TABLE flight_from_US SELECT * FROM flight WHERE `from` IN (SELECT airport_id FROM airport_geo WHERE country="UNITED STATES")',
 'airportdb',
 'Create table for flight from US',
 '{"country":"US"}',
  @task_id
 );

最初の引数は非同期で実行するSQL文、以降は対象のスキーマ、タスク名、SQLで使用するデータ(この例では利用していない模様⁠⁠、タスクIDを格納するセッション変数となっています。上記の文で非同期タスクが開始され、戻り値としてタスクIDが返されます。また引数でい指定したセッション変数にもタスクIDが格納されます。

HeatWave 9.3.1での改良点

HeatWave GenAIがサポートするIn-Database LLMのリストが更新されています。

  • llama3.2-3b-instruct-v1(デフォルト)
  • llama3.2-1b-instruct-v1
  • llama3.1-8b-instruct-v1
  • mistral-7b-instruct-v3

ベクトル埋め込み用のモデルは9.3.0からmultilingual-e5-smallとなり、日本語をサポートしていますが、いずれの生成用のLLMも日本語は公式にはサポートしていません。日本語のプロンプトや応答についてはエラーにはなりませんが、応答性能や精度は不十分となる可能性があります。

HeatWave Lakehouseの改良では、Parquetファイル内で同じ値が繰り返し現れる場合などに効率的な表現が可能となっており、そのようなエンコードが行われているファイルのロードも可能となりました。また、SQL文の実行結果を改行区切りJSONファイル(ND-JSON / Newline Delimited JSON)としてオブジェクト・ストレージにエクスポートできるようになりました。

[PostgreSQL]2025年6月の主な出来事

前々回にお知らせをしたPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムの成果発表会で発表された調査・検証結果についてお知らせします。開催は5月末でした。

PostgreSQLエンタープライズ⁠コンソーシアムの成果報告セミナー

国内の有力企業が集まって共同でPostgreSQLの普及・啓蒙活動や技術検証活動を行っているPostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)は、年度ごとに活動成果をまとめて発表してきました。今年も、前期2024年度活動成果の報告会が、5月30日(金)にオンラインにて開催されました。

セミナーでは、技術部会の3つのワーキンググループ(WG)とコミュニティリレーション(CR)部会から報告がありました。今回も密度の高い硬派系の発表でした。その分、他では聞けない貴重な知見もありました。

バージョン間の性能比較(WG1)や、異種DBMSとの違い(WG2)は、PGEConsが継続的に積み上げてきた重要なテーマです。そして今回は、Amazon Aurora Limitless Databaseの検証(WG3)が、注目度の高い目玉の発表ではなかったかと思います。

このセミナーは開催済みで見逃し配信はありませんが、発表されたスライド資料はセミナーのWebページで公開されています。また、技術部会の各WGでは、セミナーには納められなかった内容も含めた成果報告書をまとめていますが、この成果報告書の公開には少々時間を要することが通例です。気長に待っていただければと思います。

以下に、各々の発表の概要と気になったポイントを紹介します。

新技術検証ワーキンググループ(WG1)バージョン間性能比較
毎年恒例となっているPostgreSQLの新旧バージョンの性能測定を実施しています。今回の発表では、PostgreSQL 16と17のメニーコアCPUにおける性能検証の結果が報告されました。
性能検証は、どの様な環境で、どの様なデータを載せ、どの様な処理でどの程度の負荷を掛けたのかで結果が変わるのは当然です。これら諸条件の詳細は資料を参照いただくとして、要約すると、AWS上で仮想CPU数32個(物理CPU数16個)のDBサーバを用意し、約30GBのテスト用データを作成、参照処理と更新処理をそれぞれ同時接続数を増やしながら秒間トランザクション(TPS)を計測しています。参照と更新や負荷状況によってわずかに差が見られるケースはあるものの、比較したバージョン16(16.6)とバージョン17(17.2)では、かなり似た性能特性だったようです(高負荷の更新処理でバージョン17が約5%高い性能値を示していたのが最も大きい性能差でした⁠⁠。報告された測定結果グラフの1枚を図に示します。
バージョン16とバージョン17の性能検証結果の一部
バージョン16とバージョン17の性能検証結果の一部
移行ワーキンググループ (WG2)PostgreSQLロールによる権限管理入門
PGEConsでは、2012年からPostgreSQLへのデータベース移行について調査・検証を進めてきました。異種DBMS間でデータベースを移行する際に、もっとも気になるものの一つがアプリケーションが発行するSQLの互換性でしょう。これについては過去の活動で成果として報告してきました。
今回はこれまでの活動であまり触れられていなかったロールや権限に着目して、PostgreSQLのロールの基本的な考え方や権限、定義済みロールなどについて、商用DBMSとの差異などが紹介されました。
報告では、まずロールやオブジェクト権限について基礎知識が整理されました。コンパクトにまとまっていて、入門者の学習用にも適しているでしょう。そして、PostgreSQLとOracleとでどこに差異があるのかを表形式で比較しています。細かな点も含めると、差異は数も種類も様々あるという印象でした。報告の中からテーブルに対する権限の差異を示した表を引用させてもらいました。SELECTについての権限は、PostgreSQLとOracleのどちらにも当然ありますが、細かな部分で差異があることが示されています。
PostgreSQLとOracleのテーブルに対する権限の比較
PostgreSQLとOracleのテーブルに対する権限の比較
課題検討ワーキンググループ (WG3)Amazon Aurora Limitless Database検証
PostgreSQLに限りませんが、クラウド環境でマネージドサービスとして提供されるDBMS(DBaaS)では、新規サービスや既存サービスの改良の発表が目白押しです。
今回の発表では、2024年11月に一般提供が開始されたAmazon Aurora Limitless Databaseについての机上・実機検証の結果が報告されました。
まず、Amazon Aurora PostgreSQLと、Limitless Databaseを含むAuroraのオプションについて整理されています。Limitless Databaseは、書き込み処理での自動スケールアウト/スケールインを実現しているものです。これは、分散DB化(シャーディング)により実現していますが、分散されたシャードテーブルは、テーブル内のシャードキーと呼ばれる指定された列によって分割され、テーブル設計時にはそのことを意識する必要があります。これらのLimitless Databaseの基礎が簡潔にまとめられています。
Amazon Aurora Limitless Databaseでのテーブル設計
Amazon Aurora Limitless Databaseでのテーブル設計
机上検証(調査)の報告では⁠上記の様な解説に加えて⁠非機能面での特徴(可用性⁠拡張性⁠運用⁠保守⁠セキュリティなど)について整理されています⁠
実機検証では⁠Limitless DatabaseではないAmazon Aurora PostgreSQLと⁠Limitless Databaseで性能差があるかどうかを確かめようと⁠実際に性能測定にチャレンジしています⁠その中で⁠単純に載せ替えただけで性能が向上するわけでは無く⁠高い性能を実現するにはチューニングポイントなどを抑えた設定が必要になることなどが示唆されています⁠
CR(Community Relations)部会⁠2024年度活動報告
CR部会は、エンタープライズ領域でのPostgreSQL適用拡大のため、PostgreSQL開発コミュニティへの技術的課題のフィードバックを目的に活動しています。この発表では、PGECons 設立当初に参加企業から寄せられた「基幹領域への適用におけるPostgreSQLの抱える課題」について、課題の解決状況や具体的な我々のフィードバック活動について報告がありました。
発表では、CR部会が、PGEConsメンバ企業とPostgreSQL開発コミュニティの間に立って、フィードバックや課題解決の仲介役をすることが示されています。また、具体的にどのような課題や議論に関わってきたのかについても示されました。
CR部会の概要
CR部会の概要

2025年7月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

オープンソースカンファレンス 2025 Hokkaido / Kyoto

日程 〔Hokkaido〕2025年7月5日(土)10:00~18:00
〔Kyoto〕2025年8月3日(日)10:00~18:00予定
場所 〔Hokkaido〕札幌市産業振興センター 産業振興棟(札幌市白石区)
〔Kyoto〕 京都リサーチパーク 4号館(京都市下京区)
内容 オープンソースカンファレンス(OSC)は、オープンソースの今を伝えるイベントです。東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで、年間を通じて全国各地で開催しています。オープンソース関連のコミュニティや協賛企業・後援団体による、セミナーやプロダクトの展示などを入場・参加料が無料でご覧いただけるイベントです。現在は会場でのオフライン開催が多くなっていますが、オンライン開催の回もあります。今回ご案内するHokkaidoはプログラムが公開されています。Kyotoは7月上旬にプログラムが公開されるでしょう。なお、今年のKyotoは日曜日(8月3日)の開催です。ご注意ください。また、本文でもお知らせしましたが、OSSコンソーシアムでは8月3日のKyotoに協賛出展してセミナーを開催予定です。その他のOSSデータベース関連の発表については、公開されるプログラム詳細をご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

PostgreSQL Conference Japan 2025

日程 2025年11月21日(金)10:00~18:10
(9月8日まで講演発表の募集中)
場所 AP日本橋(東京都)6F(東京駅より徒歩5分)
内容 毎年秋に開催されている日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)主催のPostgreSQL Conference Japan 2025が案内されました。午前に2講演、午後は4トラックで多数の講演が予定されています。午後からの16セッションの内、通常セッション(50分)6 枠と展示会場小セッション(25分)4枠の講演が一般募集されています。講演募集の締め切りは2025年9月8日です。本イベントの実行委員や当日スタッフも募集しています。参加にはチケットの購入が必要です。一般参加チケットは9月21日から発売予定になっています。
主催 日本PostgreSQLユーザ会

db tech showcase 2025 Tokyo

日程 2025年7月10日(木)10:00~7月11日(金)17:45
(アーカイブ配信:2024年8月中旬~)
場所 TKP市ヶ谷カンファレンスセンター}
内容 国内で開催されるデータベース関連の主要なカンファレンスのひとつです。OSSデータベース専門のセミナーではありませんが、MySQLやPostgreSQLをはじめさまざまなOSSデータベースについての多数のセッションが毎年設けられています。
主催 株式会社インサイトテクノロジー

おすすめ記事

記事・ニュース一覧