コンテクストから始まるプレイドのAI技術戦略 ――AIを最大活用するための技術とエンジニアチーム

「データによって人の価値を最大化する」をミッションに掲げるプレイドは、企業への支援を通じて、そこで生成・解析されるデータを生活者一人ひとりの体験価値に還元していくことを目指し、データと技術を最大限活用したプロダクトやソリューションを日々開発している。

同社はAI専任のチームを立ち上げ、AIを活用した単なる業務効率化ではなく、顧客の「コンテクスト」を深く理解し、新たな顧客価値の創造を支援することを目的としている。

今回はプレイドのAI専任チーム「Data Mind(データマインド⁠⁠」の開発サイドをリードする牧野祐己氏、小林篤史氏、西村優汰氏が「コンテクスト」を中心とした価値創造につなげるAI技術戦略、そして共に未来を創るエンジニア像について語る。

プレイドのAI戦略⁠コンテクストとは何か?

――2025年現在、プレイドが考えるAI戦略の核となるのが「コンテクスト」の概念である。まず牧野氏に、昨今の生成AIブームと比較したプレイドの取り組みとして「コンテクスト」の基本的な考え方、また、その原理について説明してもらった。

牧野:生成AIの急速な進化は、ビジネスにおける業務効率化を大きく進めています。しかし、単に既存業務をAIに代替させるだけでは、差別化を図ることは困難です。顧客から「選ばれる」ためには、独自のデータを活用した価値創造が不可欠だと私たちは考えています。

我々が考えるコンテクストというアプローチは、行動データを含むあらゆるデータに基づく文脈です。一見すると脈絡がないように見える行動であっても、意図、背景、前後関係など何かしらの「コンテクスト」があります。すなわち、一つひとつの行動を断片的に捉えるのではなく、コンテクストに紐付いた一連の流れとして捉え、顧客をより深く理解することで、最適な顧客体験を提供できると考えてきました。

その背景には、プレイドのCX(顧客体験)プラットフォームであるKARTEが解析してきた、膨大な顧客行動データの存在があります。KARTEは10億MAUという規模のデータを扱い、その最大の特徴は、顧客一人ひとりの行動をリアルタイムに、取得と解析ができることです。このデータを基に、顧客理解と顧客体験の向上に取り組んできました。

AIを活用することで、これまでKARTEで解析してきた構造化データだけでなく、商品画像、商品レビュー、アンケートといった非構造化データも扱うことができます。AIはこれら大規模かつ多様な非構造化データを、これまで人間が見つけられなかった新しい意味や解釈を伴って、一括で処理します。

加えて、これらのデータをKARTE独自の行動データと組み合わせることで「コンテクスト」の理解ができ、この「コンテクスト」の理解がデジタル上でも可能となるのです。そして、プレイドのAI技術とデータ解析・処理技術があれば、これまでできなかった「コンテクスト」のデータ化が可能となります。この「コンテクストデータ」は定量的なデータであり、今までよりも精度の高い顧客理解やCXの最適化に活かすことができるのです。

顧客のコンテクストを理解することは、本人さえも自覚していない潜在的なニーズを捉え、顧客体験を向上させることに繋がります。例えば北欧の食器や観葉植物を見る顧客から「ナチュラルな空間でリラックスしたい」という潜在的ニーズを捉え、⁠読書に最適な、座り心地の良いラウンジチェア」のようなライフスタイルに寄り添ったニーズを抽出し、商品検索やレコメンドに反映できます。その結果、顧客は「自分のことをわかってくれている。また利用したい」という気持ちになり、顧客の継続利用に繋がるのです。

これがプレイドのAI戦略の核となる「コンテクスト」の考え方です。

牧野祐己 氏(プレイド 執行役員 CTO)
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コンテクストのアプローチを実現するためのAIエンジニアチーム

――プレイドのAI戦略を推進するエンジニアリングチームについて。通常の開発体制とは独立した組織として成立しているとのことだが、どのような経緯で発足したのだろうか。

牧野:チームが徐々に形になり始めたのが、2024年の4月頃です。夏から秋にかけて正式な組織として本格的にスタートしました。初期のメンバーは、エンジニアサイドとビジネスサイドから2-3名が集まり、チームが発足しました。

インタビュアー:まさに「社内スタートアップ」のような動きですね。小林さんは、どのような経緯でAIチームに参加されたのでしょうか。

小林:私はもともとプロダクトエリアのエンジニアとして、プレイドの基盤開発におけるインサイト可視化技術に携わってきました。その中で、LLMの登場によって、これまでとは全く違うアプローチでユーザー理解ができることに可能性を感じ、AIチームに加わることになりました。

小林篤史 氏(プレイド Engineer Lead of AI)
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インタビュアー:西村さんはいかがでしょうか。

西村:私は学生時代に機械翻訳に関する研究を行い、自然言語の処理などに取り組んできました。プレイドでは、その経験を活かし、基盤開発における時系列データの処理、モデリング開発に携わってきました。AIの発展で行動コンテクストのモデリングが現実的になり、自身の専門性を活かせるこのチームに加わることになりました。

インタビュアー:プロダクト開発をどのように進めているのでしょうか?開発スタイルやプロセスで工夫されている点があれば教えてください。

牧野:AI領域は技術進化のスピードが非常に速いため、数ヶ月単位で前提が覆ることも珍しくありません。そのため、長い時間をかけて開発を行うというアプローチは馴染まないと考えています。ビジネスサイドと緊密に連携し、短いサイクルで仮説検証を繰り返す開発スタイルのため、技術力に加え、ビジネス視点での価値創造と高速な実行力が求められます。

西村優汰 氏(プレイド Engineer Lead of AI)
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プレイドAIチームが求めるエンジニア像

――技術の進化が早く、ビジネスとの連携が密な「社内スタートアップ」とも言える環境。そんな環境でAIチームは、どのようなスキルセットやマインドセットを持ったエンジニアを求めているのだろうか。

牧野:まずマインドセットとして最も重要なのは、技術の進化を楽しみ、それを「エンドユーザーの体験価値をどう向上させるか」という外向きの視点に転換できることです。技術的な探究心はもちろん大切ですが、我々の目的はあくまで価値創造です。自分たちが開発したものがエンドユーザーに実際に利用されているか、クライアントのビジネスに貢献できているかなど、実際の価値につながっているかを重視しています。新しい技術に触れたときに、⁠この技術を使えば、あのお客様のあの課題を解決できるかもしれない」⁠新しい体験を提供できるのではないか」と、ワクワクしながら考えられる方に加わって頂きたいです。

スキルセットについては、データエンジニアであれば、PythonやGCP、DBTなどを用いたデータパイプラインの構築・運用経験が該当します。MLエンジニア(機械学習エンジニア)であれば、各種AIモデルの知識や、それらを活用した実務経験が必要となります。

西村:プレイドが扱うデータは、顧客の行動ログ、つまりシーケンシャルデータが中心です。そのため、自然言語処理(NLP)のバックグラウンドや、時系列データを扱った経験がある方は、特に親和性が高いと思います。顧客の一連の行動を、あたかも文章の文脈を読み解くように分析していくアプローチは、我々が目指す「コンテクスト理解」の核心部分であり、これまでの知見を大いに活かせる領域だと思います。

小林:先ほど「社内スタートアップ」という話がありましたが、今のAIチームは、プレイドのリソースを潤沢に使える「社内スタートアップ」のような状態です。プレイドの開発組織の醍醐味は、ゼロからのスタートアップとは一線を画す、大きな責任を伴う挑戦ができる点にあります。日本有数の企業にプロダクトを活用いただいており、社会的に大きなインパクトをもたらす開発に携われることは、他ではなかなか経験できないと思います。

マインドセットとしてはスタートアップに飛び込む気持ちのある方に加わって頂きたいです。⁠自分の仕事はここまで」と職務領域に線を引くのではなく、⁠価値を提供するためなら何でもやる」という気概のある方がフィットすると思います。年齢や役職に関係なく、誰もがフラットな立場で価値創造に没頭できるチームです。自分の仕事がAIに奪われる未来さえも「面白い」と捉えられる、変化を楽しめる方と一緒に未来を作っていきたいです。

未来への展望⁠コンテクストが拓く「人が中心」のAI社会

――変化の激しい時代の中で、プレイドは「コンテクスト」という新たな切り口で、どのような未来を描いているのか。最後に、今後のビジョンと、この変化の時代に挑戦するエンジニアへのメッセージについて語る。

牧野:あと5年もすれば、様々なサービスにおいてAIエージェントと対話しながら目的を達成することが、今よりもさらに当たり前の世界になっていると思います。

我々が目指すのは、単にAIによって全てが最適化・画一化された世界ではありません。事業者が顧客のコンテクストを深く理解することで、多様で、人間味のある、面白い体験が次々と生まれていく、そんな「人が中心となったAI社会」を創り出すことが、我々の大きなビジョンです。

小林:数年後の自分やエンジニアという職種の未来は不確かですが、それこそが面白いです。特定のスキルにしがみつくより、目の前の革新的な技術に触れ、できなかったことができるようになる瞬間に立ち会いたいという好奇心こそが、現代のエンジニアにとって最も重要な原動力だと思います。その積み重ねが、きっと想像を超える面白い未来に繋がると信じています。

西村:目の前にある最新の技術を、いかに最速で顧客価値に繋げるか。このサイクルを愚直に、しかし圧倒的なスピードで回し続けることが、我々にできる最善だと考えています。その先に、きっと道は拓けていくはずです。

牧野:プレイドには、KARTEで培ってきた膨大な「データ」と、それを価値に変える「プロダクト開発力」の両輪があります。これは、他の多くの企業には稀有な、我々のユニークな強みです。この変化の激しい時代を、我々と一緒に楽しみながら、新しい価値を創造したいという情熱を持ったエンジニアの方からの挑戦を、心からお待ちしています。

会社情報プレイドは「データによって人の価値を最大化する」をミッションとするテクノロジーカンパニーです。カスタマーデータのリアルタイム解析を強みとするKARTEとCX戦略策定から実行まで担うプロフェッショナルサービスにより、企業の顧客中心経営の実現に貢献します。

https://plaid.co.jp/

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