年末年始のような長期休みを利用して、データサイエンスを体系的に学び直したいと考えている方も多いのではないでしょうか。
「データサイエンスの核となる知識は何か?」と聞かれたら、多くの方は統計学(statistics)と答えると思います。一方で、
- 統計の本は読んだが、実務でどう使えばいいかわからない
- 数式や理論は理解したつもりだが、応用のイメージが湧かない
と感じた経験がある方も少なくないはずです。
このような統計の知識を実務に結びつける応用先としておすすめなのが、異常検知(anomaly detection)です。こちらの記事でも紹介したように、異常検知は製造業・セキュリティ・金融・医療などの幅広い分野で活用されており、統計的な考え方を実践的に学ぶ題材としても非常に適しています。
筆者が2025年10月に刊行した『まるごと学べる 異常検知の実践知』も、このような統計理論を「理解する」だけでなく、「実務でどう使うか」という観点から、異常検知を軸にまとめた一冊です。
本記事では、統計の基礎からはじめて、異常検知を通じた実践的な知識を身につけ、さらに他分野へも応用できる力を養うための学習ステップとおすすめ書籍を紹介します。
ステップ1:統計の基礎知識を学ぶ
統計を学ぶ最初の一冊には、理論と実践のバランスが取れた、平易に書かれた本が最適です。『Pythonで学ぶあたらしい統計学の教科書』(馬場, 2022)はまさに、基礎的な統計理論とコードによる実践方法を平易に解説しており、入門にぴったりの書籍です。また実装にPythonを用いているため、すでにPythonを使ってAI・機械学習などに取り組んでいる方であれば、自然に読み進められるでしょう。
統計分析の実装には、PythonだけでなくRもよく使われます。両者には得意分野の違いがあるため、次のように使い分けるのがおすすめです。
- Python:Web・DB・クラウド連携など、分析結果をシステム実装までつなげたい方
- R:高度な統計分析や可視化、レポーティングを重視したい方
Rで統計を学びたい方には、『Rによるやさしい統計学』(山田, 2008)も良い入門書です。統計理論をRによる実装と併せて学ぶことができ、効率的に理解を深められます。
さらに、理論をしっかりと理解して未知の課題への応用力を高めたい方には、『統計学入門』(東京大学教養学部, 1991)がおすすめです。確率分布・仮説検定・回帰分析など、実践でよく用いられる概念の理論的背景を、数式を交えて丁寧に解説しています。同シリーズの『自然科学の統計学』(東京大学教養学部, 1992)、『人文・社会科学の統計学』(東京大学教養学部, 1994)も併せて読めば、実務家として非常に強力な統計基礎力を身につけられるでしょう。
ステップ2:統計モデリングを学ぶ
統計の基礎を学んだ次のステップとして重要なのが、現象を統計的なモデルとして表現する統計モデリング(statistical model)です。実務での様々な課題に対応するには、背景にある現象をデータに基づきモデル化することで、統計による定量的な分析や対処が可能となります。
統計モデリングの最初の一冊としては、データ解析のための統計モデリング入門(久保, 2012)が定番です。豊富な実例と平易な解説を通じて、統計モデリングの考え方と基礎理論を体系的に学ぶことができます。
統計モデリングの中心となるパラメータの推定方法は、大きく次の2つに分けられます。
- 最尤推定(maximum likelihood estimation, MLE)
- ベイズ推定(Bayesian estimation)
これらはそれぞれに強みがあるため、可能であれば両方を学ぶことをおすすめします。
最尤推定によるモデリングは、前述の『データ解析のための統計モデリング入門』でもRによる実装方法が解説されています。一方で、Pythonで最尤推定に基づく統計モデリングを体系的に学べる日本語書籍は多くありません。筆者の書籍『まるごと学べる 異常検知の実践知』では、statsmodelsライブラリを用いてPythonで最尤推定による統計モデリングを実装する方法を解説しており、Pythonユーザーにとって学びやすい入門書となることを目指しています。
もう一方のベイズ推定を学ぶには、『RとStanではじめる ベイズ統計モデリングによるデータ分析入門』(馬場, 2019)が良い入門書です。MCMCと呼ばれる数値計算を用いたベイズ推定を、多くの図表とともに丁寧に解説しています。また、Pythonでベイズ推定による統計モデリングを行いたい方には、『Pythonではじめるベイズ機械学習入門』(森賀, 2022)も参考になります。
ステップ3:異常検知での実践方法を学ぶ
ステップ1・2で学んだ統計・統計モデリングの知識を実務へ活かすうえで、異常検知は非常に良い題材です。特に重要なのは、統計理論と異常検知手法とのつながりを理解することです。
『入門 機械学習による異常検知』(井手, 2015)は、各種異常検知手法の背景にある統計理論を丁寧に解説した良書です。数式解説も省略が少なく、本質的な理解を促す内容となっています。またRによる実装例も豊富で、学んだ理論をコードで確認しながら理解を深めることができます。
さらに、筆者の書籍『まるごと学べる 異常検知の実践知』を併せて活用することで、次のようなポイントまで踏み込んで学ぶことができます。
- 実務で起こりやすい課題と解決策:異常データが少ない、誤検知が頻発する、データが時間とともに変化する(モデルドリフト)など、現場で直面しやすい問題を例とともに解説しています
- Pythonによる実装:異常検知モデルを「作って終わり」にせず、システムへ組み込んで運用する視点まで扱っています
- 統計・機械学習の多様な手法を異常検知という共通テーマで整理:教師あり/教師なし学習、計数データのモデリング、最尤推定、ベイズ推定など、幅広い統計・機械学習手法の理論と、それが異常検知でどのように役立つのかを解説しています
- Pythonの主要ライブラリを横断的に学べる:Sckit-learn(教師あり/教師なし学習)、SciPy(確率分布モデル)、statsmodels(最尤推定による統計モデリング)、PyMC(ベイズ推定による統計モデリング)等のプログラミング法を、豊富な実装例とともに解説しています
異常検知という一つのテーマを軸に、統計・機械学習・実装の知識を有機的につなげて学べる点が大きな特徴です。
ステップ4:未知の課題にも対応できる、ビジネスドリブンな実践能力を身につける
ステップ1〜3を通じて、統計の基礎から統計モデリング、そして異常検知での実践方法まで、一連の流れを学んできました。ここまでくると、実務でデータ分析に取り組むための強固な土台がすでにできています。
最後のステップでは、この土台を生かし、新たなビジネス課題を適切に定式化し、解決へ導く力を磨いていきます。
『ビジネス課題を解決する技術』(森下, 2025)では、ビジネス課題をデータサイエンスで解ける問題に変換するための手順を、フレームワークとしてわかりやすく紹介しています。初めて取り組む課題でも、どこから手を付ければよいかを明確にしてくれる一冊です。
『AI・データ分析プロジェクトのすべて』(大城, 2020)は、データ分析プロジェクトの進め方を、組織調整・マネジメント・出口戦略まで含めて解説しています。技術だけでなく、現場のリアルな制約条件の中で成果を出すための視点が得られます。
『実践的データ基盤への処方箋』(ゆずたそ, 2021)は、「そもそも統計分析に用いるデータの取得環境が整備されていない」という、現場でよくある課題に向き合うための一冊です。データ基盤整備の重要性や、その進め方について学ぶことができます。
このステップで、「分析そのもの」だけでなく、「分析を取り巻く環境」も理解できるようになることが目標です。
このように、統計の基礎から統計モデリング、そして異常検知での実践までを段階的に学ぶことで、知識を“使える力“へと着実に育てていくことができます。本記事が、皆さんの次の一冊を選ぶ際の道しるべとなれば幸いです。