筆者の年代にとってBoston Dynamicsは、長年「胸熱」な企業の1つでしょう。
2025年末、そのBoston DynamicsがCES 2026のHyundaiのプレスカンファレンスに登壇すると知り、大変に興味を惹かれました[1]。
期待は裏切られず、プレスカンファレンスはBoston Dynamicsのことや、CESそのものについて考えさせられる、大変に興味深い内容のものでした。
本稿ではプレスカンファレンスで筆者が感じたいくつかのことを、雑感的にまとめてみます。
プレスカンファレンスはBoston Dynamics一色
プレスカンファレンスは1月5日、つまり一般展示が始まる前のMedia Daysに行われました。
オープニングは犬型ロボット「Spot」のダンスで、それを率いてステージに現れたMerry Frayne氏はHyundaiではなく「Director of Spot Product Management, Boston Dynamics」という肩書きでした(写真1)。
写真1 Spotのダンス
続いてAya Durbin氏とZachary Jackowski氏はBoston Dynamics創業からのマイルストーンを示してくれました(写真2)。
写真2 Boston Dynamicsの道のり
全体にこのとおりで、名前はHyundai Motor Groupプレスカンファレンスとなっていますが、中身はBoston Dynamics一色の印象でした。簡単にまとめてみます。
まず彼らは、ここ何年も継続開発していた人型ロボット(ヒューマノイド)としてAtlas prototypeについて、今回遂にその量産開始を前提とした製品版モデルを発表しました(写真3、4)。
写真3 プレスカンファレンスに登場したAtlas prototype
写真4 Atlas新型モデル(この写真は展示会場のものです)
またHyundai Motor Groupと協力して、この製品版Atlasを年間3万台も製造できる工場を建設中であることが発表されました。
これを前提に、(顧客の導入障壁を下げるために)Robots as a Serviceのサブスクリプションモデルも提供します。
そして AGI(汎用人工知能)の実現のためにGoogle DeepMind Roboticsとの提携を発表し、「世界で最も先進的なロボット基盤モデルを開発する」とアピールしました(写真5)。
写真5 Boston DynamicsとGoogle DeepMindの提携の発表
なお、新型(量産向け) Atlas の製造はすでに開始されており、2026年分の生産能力はすべてHyundai Motor GroupとDeepMindに割り当てられるとのことです。
量産計画からパワフルなパートナーとの連携まで、かなり盛りだくさんな内容でした。
強く感じるのはHyundai本体が、このAIに支えられたロボットの実用化、それも数十台や数百台レベルではない「社会実装」にトライしていることです。スピーチでも「フィジカルAIと実世界の応用を通じて、人類を前進させる価値」といった強いフレーズが出ていました。
今回、「Hyundaiなのに自動車がなく、Boston Dynamics一色だった」という印象を持ちかけてしまいましたが、それはいくらか短絡的だったようです。むしろ「Hyundaiと言えばロボット」と言っても違和感がないくらいになることを想定した、Hyundai本体の事業戦略としての踏み込み、と見るべきなのでしょう。
Marc Raibertの「機械制御」
こうした人型ロボット大盛況な状況を見るにつけ、筆者はこれまでのBoston Dynamicsの「動きの制御」を実現するための苦闘を思い出します。
このところ急激に人型二足歩行ロボットが増え、それらが人間のように歩くのはあまり不思議に思われなくなっているかもしれません。
しかしかつては「二足歩行」はかなり困難なハードルでした。よろめきながら、そして当然のように転倒していた2007年から、ようやくそれなりにちゃんと歩けるようになった2016年まで、長い開発期間が必要でした(写真6)。
写真6 展示会場に並ぶPetman proto/2007(左)とHD Atlas/2016 (右)
2022年にIROSという国際会議が京都であり、筆者はこれに参加して創業者のMarc Raibertの「動きの制御」に関する説明を聞く機会がありました。
その一連のスピーチの中で、Marcは自分たちの動作制御が「MPC(モデル予測制御)型の制御」を含む伝統的な物理シミュレーション的手法であり、「現在、私たちは機械学習も少しずつ始めているが、いま見せたものの大部分は、エンジニアが手作業で作ったものだ」と言っていました[2]。
今年、つまりCES 2026ではそのあたりがどうなったか期待したわけですが、Marcが壇上に現れることはありませんでした。
代わりに、発表では複数のスタッフが頻繁に「学習(learn)」という単語を繰り返し、また機械学習の導入によって動きがスムーズになった(であろう)ロボットたちが現れたわけです。
Marcが長い時間を掛けて追い続けた伝統的手法を「AIがポンと簡単に置き換えた」といった簡単な話ではないのでしょうが[3]、長年 Boston Dynamics を見続けてきた身としては少し寂しさもあります。
CES 2026における人型ロボット
Boston DynamicsのAtlasに限らず、CES 2026では人型ロボットが大盛況で、いたるところで発表・展示されています。
人型ロボット製作キットとそれ用の機械学習キットでも売られているのかと思うくらい、素早く動くものがたくさんありました。超スローなものもたくさんありましたが。
一方で今年は自動車会社、つまりカーメーカがほぼまったく出ていませんでした。
そのことから、「CES はオワコンか」といった言説――規模拡大を続けていたコンベンションだが縮小傾向を辿るのかといった見方――何度も耳にしました。
しかし筆者はCES 2017でNVIDIAが突然自社開発の自動運転車「BB8」を発表したことを思い出します(写真6)。
写真7 CES2017でのNVIDIAの自動運転車「BB8」のデモ走行展示(右)
この翌年から自動運転技術に関する出展が年々増え、2023、4年ごろまでには多くのカーメーカが大規模なブースを並べるようになって、West Hallはさながらカーショーの様相を呈するに至りました。
現在では、もう自動運転車は多くの人に「普通の未来」と認識されているのではないでしょうか。
CESはこのように「現実を先取り」することに成功するケースがそれなりにあります。
もちろん 2017年のBB8 発表当時は「CESが自動運転車の業界では世界最大のコンベンションになる」とは考えてもいませんでした。
だとすれば、あと10年、いや5年もすると、我々は「CESが本格的なロボット・ショーとなるターニングポイントは、あのCES 2026だったな」などと思い出すのでしょうか。
私たちは「時代の変わり目」に立ち会っているのかもしれません。