Linux Daily Topics

Linus⁠「AIツールはただのツール」あらためて強調

AIツールによるコーディング支援がひろく普及したことで、LinuxカーネルコミュニティでもAIツールが生成したコードをどう扱うべきかについての議論が続いている。これに関し、Linus Torvaldsは一貫して「AIツールも単なるツールのひとつ」という態度を崩していない。

しかしAIツールが生成したコードがパッチなどに多く含まれるようになると、メンテナーやレビュアーが混乱するケースも容易に想像できる。そうした混乱をできるだけ回避するための策として、x86アーキテクチャのメンテナーを務めるDave Hansen(Intel所属)が中心となり、⁠ツール生成コンテンツに関するカーネルガイドライン(Kernel Guidelines for Tool-Generated Content⁠⁠」の作成が進められてきた。1月6日、Hansenはその第3版を公開し、レビュアーに対して新しいドキュメントの追加を依頼している。

このガイドライン第3版の冒頭では「目的(Purpose⁠⁠」として、以下のように記述されている。

カーネル貢献者は長年に渡り、ツールを使用して貢献を生み出してきた。これらのツールは貢献の量を増やすことにつながっているが、同時にレビュー担当者とメンテナーのリソースは限られている。したがって、貢献のどの部分が人間によるもので、どの部分がツールによるものなのかを理解することは、これらの限られたリソースを維持し、カーネル開発を健全に保つために役に立つ。ここ(ガイドライン)でのゴールはツールに関するコミュニティの期待を明確にすることである。これにより、誰もが生産性をより高めつつ、提出者とレビュー担当者の間の高い信頼性を維持することができる。

見ての通り、この部分には「AIツール」⁠LLM」といった用語は含まれておらず、Linusやカーネルメンテナーの多くが「AIツールはツールのひとつに過ぎない」という認識を共有していることがうかがえる。しかし、⁠LLMは単なるツールではなくまったく新しいツールだ。その部分に関する言及がないことはおかしい」と反論したのがメモリマネジメント分野のメンテナー Lorenzo Stoakes(Oracle所属)だ。Stoakesは「LinusがAIツールを数あるツールのひとつと位置づけていることは知っているが、LLMによるAIスロップ(低品質な生成AIコンテンツ)がエンドツーエンドで大量に送信されるなんてことはこれまでできなかった。こうしたスロップがパッチとして送られてきたら、議論することなく却下できると明確にドキュメントで表明するべきだ」と主張した。

この後、Hansenらとの議論においてStoakesは「LLMを⁠単なるツール⁠とすることは、カーネルはLLMの問題にまったく影響を受けないと言っているようなもので、私には愚かなポジションに見える」と発言、これに対し1月7日、議論を静観していたLinusが反論を表明した。

いや、愚かなのはきみのポジションのほうだから。

AIスロップについて議論することにはまったく意味がない。それこそ本当に愚かなことだ。なんでかって? AIスロップを作って送ってくるような連中は、自分のパッチをこんなふうにドキュメント化しようなんて思わないからだ。こんなこと自明の理のはずなのに、どうしてみんなAIスロップについて話したがるのか、僕にはまったく理解できないよ。

だから、この愚かな行為(AIスロップについての言及)はもうやめるんだ。ドキュメント作成という行為は善良な人々のためのものであり、それ以外を対象にするのは無意味なものなんだよ。前に一度、プライベートな場で言ったことがあるんだけど、僕はカーネル開発に関連するいかなるドキュメントであっても、それらがAIに関する声明のようなものになってしまうことを決して望まない。⁠AIに関しては)⁠空が落ちてくる」という主張と「ソフトウェアエンジニアリングに革命を起こす」という主張があって、それぞれに賛同する人々は十分にいる。僕はカーネル開発ドキュメントがそのいずれに立場にもとることを望まない。

だからこそ僕はこれ(AIツール)「単なるツール(just a tool⁠⁠」という表現に留めておきたいんだ。

あと、AIスロップの問題はドキュメント化によって解決するはずもないことなんだよ。そんなことを信じている人がいるなら、単に世間知らずか、自分の意見を「主張したい」だけの人かのどちらかだろう。そしてどちらもドキュメント化の正当な理由にはならない。

AIスロップはドキュメントで明文化したところで制御できない、カーネル開発のドキュメントにAIに関する声明を載せることは好ましくない ーこの投稿はLinusのAIに対する考えを端的にあらわしている。Stoakesのように「生成AI/LLMはこれまでの開発ツールとは異なる→パッチにもAIスロップが増える」ことに危機感をもつメンテナーもいるが、少なくとも当面はカーネル開発におけるAIツールは⁠単なるツール以上でも以下でもないもの⁠として位置づけられることになりそうだ。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧