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CES 2026 Lenovoキーノートで見た⁠Sphere“イマーシブ演出”進化

Las Vegasと言えばまず「巨大なホテル群」でしょうが、2023年8月に新しいシンボルとして巨大な球体アリーナ「Sphere」が加わりました写真1⁠。直径150mほどの球状で、内部はプラネタリウムのような全天映像が見られる大アリーナ(1万7,600席)です。映像は特殊なLEDアレイによるものですが、内壁だけでなく外側に向けてもLEDが並べられており、昼夜を問わず何かしらの広告映像が流れています。

写真1 巨大な球体Sphere(右手の建物はCES会場の1つThe Venetian Expo)

CESでは2025年にDeltaが、そして今年はLenovoがこのSphereでキーノートスピーチを行いました。

本稿では、Lenovoの発表内容はあまり追わず、このSphereを使った「イマーシブな(没入感のある)スピーチ」の体験レポートとしてまとめました。もとよりVR/ARの体験などは写真と文章で伝えきれるものではないのですが、その実現技術や昨年との比較などを織り込みつつ、1つの「技術的挑戦」としてお読みいただければと思います。

キーノートの内容

簡単にこのキーノートスピーチの内容を出しておきます。

全編の動画がすでに出ています。

https://www.youtube.com/watch?v=tRR7k5qXcdA

キーノートでは毎度、CESの運営団体であるCTAのGary Spapiro氏(Vice Chair & CEO)がオープニングのスピーチを行います。その後にLenovoのYuanqing Yang氏(Chairman & CEO)がステージに上がりました写真2⁠。

写真2 ステージに現れた Yang 氏(この「CES」ロゴの倍くらいの高さが天井の位置です)

講演はYang氏のリードで、Lenovoのさまざまな事業について成果発表が行われ、また多くの提携企業のキーパーソンをゲストとして壇上に招くという構成で行われました。ゲストはNVIDIA のJensen Huang氏(Founder & CEO⁠⁠、IntelのLip-Bu Tan氏(CEO⁠⁠、AMDのLisa Su氏(Chair & CEO⁠⁠、QualcommのCristiano Amon氏(President & CEO)という業界の「スター」のような人たちと、Lenovoが技術パートナーとなっているワールドカップのFIFAからGianni Infantino氏(President)という豪華さです。

この並びで CES 参加者なら誰でも無料で参加可能ですから、そのチケット配布と座席予約の受付けは大盛況で写真3⁠、ものすごく長い行列ができていました写真4⁠。

写真3 チケット配布・座席予約カウンター
写真4 予約カウンターまで続く長い列

配布は何日かに分けて複数箇所で行われたのですが、筆者は配布初日に並んで、106という1階の真ん中前方のエリア図1が割り当てられました。コンサートでのチケット価格を調べると2、3階席(200、300番台)が最も高額で、むしろ1階席は安いところでした。

しかし、Sphereに3回入った筆者の経験(後述)からは、2、3階席よりここの方が没入感が得られたように思います。

図1 Sphereの座席配置(ライブ演奏の場合・tickets-center.com から引用)

また、1階のこの位置からだとスピーカーの姿が豆粒状態にならずに楽しめるのも良かったです写真5⁠。

写真5 プログラム最後に登壇者が並んだところ(Jensenは居ませんが)

イマーシブなプレゼン⁠コンテンツ

Sphereが完成したのは2023年の8月ですが、筆者のSphere体験は今回が3回目になります。

1回目は完成から数ヵ月後であるCES 2024に行ったついでに、当時上映していた『POSTCARD FROM EARTH』というコンテンツです写真6⁠。

写真6 2024年に観たコンテンツ(上映終了後の背景的映像)

Sphere完成からそれほど経っていないためか、このコンテンツはほぼ試験映像的というか、技術デモに近いな、という印象を持ちました。地球上のさまざまなところを撮影し、それを全天に映し出す、という内容です。

16K×16K=約2.56億画素のインパクトをストレートに感じさせるためのコンテンツと思えばわからないではないのですが、それ以上の何もなく、個人的には物足りなさを感じました。

2回目は翌年のCES 2025でのDeltaキーノートです。2階席か3階席だったと思います。このときは冒頭に3D CGによる立体感あふれる映像が出てきてYouTubeはこちら⁠、筆者は「そうそう、これだよ」と思いました写真7⁠。

写真7 冒頭に飛行機が近づいてきて大写しになり、グーンと右に回頭するところ

しかし、立体感のあるCG映像はそこと何ヵ所かだけで、キーノートのほとんどは背景に幾らかの情報が提示され、その横にスピーカの抜き出しが出ているだけ、といった状態でした写真8⁠。

写真8 CES 2025のDeltaキーノート(下のステージに豆粒ほどの2人の姿が見えます)

そして、3回目である今回のLenovoキーノートでは、講演全体を通して、大部分のシーンで全天に動画として映像が展開されていました。素晴らしかったです。たとえばIntelのLip-Bu Tan氏が招かれたときは写真9こんな映像が提示されました。この青と赤の光は脈打つような感じで変化しており、それは全天を巡っています。

写真9 IntelのLip-Bu Tan氏を招いたときの映像(動画の 38:07 あたり)

上の写真9や1つ前の写真8でもわかるように、Sphereはあまりにも大きすぎるため、話者が小さくなり過ぎます。そのため常に話者のズームアップ映像が提示されるのですが、それも「ただ出しただけ」の 2025年とは大きく違って、すばらしくうまく演出として溶け込んでいました。写真10

写真10 筆者席から左を見上げた様子。話者アップはもちろん動画ですが、周囲の映像もすべて動いています。

次の4枚の連続写真はLenovoの液冷サーバNeptuneを紹介したときのものです。壁一面にサーバが積まれた映像がまず提示され(a⁠⁠、その状態で視線を上にするとこんな状態になっていました(b⁠⁠。そして次の瞬間、上から(カンパニーカラーの)赤い光が降ってきて新しい場面に連続的に移行します(c⁠⁠。その時真上を見ると、まさに「天から」降りそそぐ光を見上げているようになっています(d⁠⁠。

写真11 全天に映し出されて紹介されたNeptune

終始この感じで、変化する映像提示がプレゼンを盛り上げていました。Sphereの能力をしっかり使っていたと思います。

以下の動画は筆者がスマートフォンで撮影したものです。

Sphere Studios

これだけのコンテンツを一度限りのLenovoのキーノートのために作るのですから、きっとSphereができて時間が経ち、コンテンツ制作システムの完成度が上がったのだな、などと考えていたらSphere Studiosの紹介がありました写真12⁠。

写真12 Sphere Studiosの入り口(社屋は完全に見切れていますが、ドーム型です)

Sphere StudiosはSphereの映像コンテンツを制作するために作られた会社で、映像スタジオがひしめくハリウッド、バーバンク空港のすぐ脇にあります。そこで機材の開発からコンテンツ制作システムそのものを開発、運用しています。

たとえばカメラシステムについて紹介されました。Sphere の天井の解像度が16K×16Kあるのに対し、big skyと名付けられたカメラ写真13は18K×18Kの60fps非圧縮でデータを取得し、それをLenovoのサーバで処理していると説明されています。

写真13 レンズを外した状態で巨大な撮像素子が見える

調べてみると、この撮像素子は9.92×8.31センチもあるとのこと。ここから見るとカメラ自体も相当に大きいのですが、その前には大きな魚眼レンズがついています写真14

写真14 撮影台に乗せたカメラ

筆者の1つの興味は撮影だけでなく編集というかオーサライズ・システムでした。つまりあの全天映像を「体感しながら編集する」方法についてです。すると見てのとおり、ヘッドマウントディスプレイを付けて周囲を見渡しながら確認して制作している姿が示されました写真15⁠。

写真15 ヘッドマウントディスプレイを付けて編集するスタッフ(参考資料映像より抜粋)

2年前の試験映像的なものにしても、big skyのカメラシステムで撮影したものと思います。その威力はわかりますが、実写主体のワークフローから作られる映像では、どうしても昨年の平板なDeltaキーノートにならざるを得ないのもよくわかります。

今回のLenovoキーノートではふんだんにCGを使い、極めて効果的に全天での表示を利用したものができていました。スピーチと一体化して、1つの「ショー」を構成することができていたと思います。

おわりに

本稿ではSphere Studiosの「イマーシブなコンテンツ制作」への挑戦について、筆者がSphereで体験した映像の変遷などを軸にまとめてみました。科学技術大好きな子どもだった筆者にとって、この挑戦と進歩に立ち会えて幸せな時間を過ごしました。

その彼らの最新作とも言えるのが、原稿執筆中の今も上映されている『Wizard of Oz』です。キーノートでも少しその映像が紹介されました写真16写真17:画面が広すぎて撮れないので写真が2つになっていますが、数秒差です。脳内でつないでみてください。。

写真16 『Wizard of Oz』の紹介映像
写真17 『Wizard of Oz』の紹介映像

ドロシーが黄色いレンガの道をたどる有名な場面をSphere的に再現したものと思うのですが、いや、これは正直「やられ」ました。言葉がないです。凄い。

Las Vegasに来る前に、今、Sphereは何を上映しているんだろう、と思って調べたら『Wizard of Oz』でした。⁠うーん、あの映画を大スクリーンに映してどうするんだろう」と、CES 2025のDeltaキーノートのイメージしか頭になかった筆者は「これは観に行ってもなあ」と思ってそれ以上調べませんでした。

しかし、この予告映像を見て「これは滞在中に見に行くべきでは?」と思ってしまいました。なにしろ過去2回、そして今回のLenovoキーノートの視聴を通じて、Sphereが単なる大スクリーンのシアターではなく、世界でただ1つの新しい映像表現の場になったことを体感したわけですから。

と思いつつも時間的余裕がなさ過ぎて諦めたのですが……。やっぱり行くべきだったかなあ……

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