2026年のWebアクセシビリティ

あけましておめでとうございます。株式会社ミツエーリンクスの中村直樹です。昨年と同じく、2025年のWebアクセシビリティに関連する出来事を振り返りつつ、2026年のWebアクセシビリティの展望について俯瞰していきたいと思います。

WCAG 2.2と関連文書

Webアクセシビリティの国際規格であるISO/IEC 40500について、WCAG 2.0であったISO/IEC 40500:2012から実に13年ぶりに、WCAG 2.2と同等の内容となるISO/IEC 40500:2025に改訂されたというのが昨年のWebアクセシビリティに関する大きなトピックでした。

WCAG 2.2のエラッタ

細かい話になるのですが、ISO/IEC 40500:2025のベースとなったのは、2023年版のWCAG 2.2であり、その後エラッタ(正誤表)の内容を反映して発行された2024年版のWCAG 2.2ではありません。これに関して、W3CのWCAG 2 Overviewでは、2024年版のWCAG 2.2でもって、ISO/IEC 40500を再度改訂する予定である旨が記載されています。

また、WCAG 2.2には、エラッタが昨年の6月と10月に記録されています。WCAG 2.2のエラッタは、ここからさらに追加されることがあるかもしれません。いずれにせよ、2024年版のWCAG 2.2にISO/IEC 40500が改訂されたとしても、それらのエラッタはISO/IEC 40500に反映されるわけではありません。しかしながら、いずれのエラッタも編集上の誤りという位置付けであり、規格そのものに大きな影響は与えないものとなっています。

WCAG 2.2関連文書の日本語訳

昨年のWAICの翻訳作業部会では、Understanding WCAG 2.2の翻訳となるWCAG 2.2解説書の全部と、Techniques for WCAG 2.2の翻訳となるWCAG 2.2テクニック集の一部の翻訳を公開しました。テクニック集は、以前は「達成方法集」と呼んでいたものです。これは「達成方法」という訳語が「達成基準」(success criteria)と紛らわしく、誤解を招く恐れがあるために変更されたものです。テクニック集の翻訳については、Techniques for WCAG 2.1と比較してTechniques for WCAG 2.2で新たに追加された文書のみを提供している状況であり、今年はTechniques for WCAG 2.1相当の文書について翻訳の拡充を図っていくことになります。

改正JISの動向

ISO/IEC 40500:2025が発行されたことから、JIS改正に向けた動きが本格的になっています。具体的には昨年10月にJIS X 8341-3改正原案作成委員会が発足し、その中で改正の議論を開始しています。順調にいけば、今年中にも改正JISが発行される見込みです。

ISO/IEC 40500:2025は、前述したようにWCAG 2.2相当の内容であり、ISO/IEC 40500:2012は、WCAG 2.0の内容です。そして、JIS X 8341-3:2016はISO/IEC 40500:2012との国際一致規格です。このことを踏まえて改正JISは、JIS X 8341-3:2016と同様に、ISO/IEC 40500:2025との国際一致規格とすることを基本として考えています。よって改正JISは、基本的にはWCAG 2.0からWCAG 2.1とWCAG 2.2で追加された内容(達成基準)をJIS X 8341-3:2016に追加することになります。

規格本体

規格本体となるWCAG 2.2については、既にWAICサイトに公開しているWCAG 2.2の日本語訳に対して、全面的な翻訳の見直しを進めているところです。中間的な見直しの成果としては、達成基準の名称の変更があります。現在の達成基準の名称が妥当かについて、WAIC内部で議論を進めた結果、現在公開しているWCAG 2.2の日本語訳に対して30を越える名称の変更の提案がされています。まだ案の段階ですので確定はしていないのですが、その一部を紹介しますと、

  • 達成基準1.3.3「感覚的な特徴」「感覚による特性」
  • 達成基準1.4.1「色の使用」「色の用途」
  • 達成基準2.2.3「タイミング非依存」「期限なし」
  • 達成基準2.4.1「ブロックスキップ」「ブロックのバイパス」
  • 達成基準3.3.1「エラーの特定」「誤りの特定」

といったものが挙げられます。日本語訳については、改正までに引き続きWAIC内部で議論を行っていきます。

また、改正JISで前述のWCAG 2.2のエラッタをどこまで取り込むことができるのかというのが改正原案作成委員会の中で話題として挙がっています。仮に改正JISでWCAG 2.2のエラッタをISO/IEC 40500に先行して取り込むならば、一致規格として認められる「最小限の編集上の変更」となるようにする必要があることが確認されています。

附属書JA/JB

附属書JAおよびJBについても見直しを進めています。JIS X 8341-3:2016の附属書JAは、PDCAサイクルをプロセスの例に挙げていましたが、これをPDCAに依存しない構成とする見込みです。また、公的機関だけでなく、民間の利用も想定して内容の整理を進めています。

附属書JBに関しては、基本的な構成は変えることなく、例えば試験を実施する際に注意が必要な項目の補足や、⁠ウェブページ一式を代表するウェブページ」の説明・例示の整理などを行っていきます。また、WAICのガイドラインやFAQを参照するなどして、連携の強化を図っていく予定です。

WCAG 3

WCAG 3については、昨年は9月に一度更新されましたが、これといった特筆すべき話題もなかったというのが筆者の印象です。W3Cの年に一度の技術会議であるTPAC 2025でのAccessibility Updateというセッションでは、WCAG 3に限らずW3Cでのアクセシビリティに関する活動全般について触れられていますが、このセッションの中でWCAG 3の詳細な話が出てこないあたり、WCAG 3の足元での進捗は芳しくないのではないかと個人的に捉えています。

また、このセッションの中では、WCAG 3を策定しているAccessibility Guidelines Working GroupのCharter(憲章)についても触れています。現在のCharterは今年4月まで延長されていますが、その後の期間については新たなCharterを作成するとのことです。そして、新たなCharterのもとで2028年後半にCandidate Recommendation(勧告候補)のステータスを目指すとのことですが、楽観的なスケジュールであるという印象を受けます。

ATAG

前述のAccessibility Updateのセッションでは、ATAG (Authoring Tool Accessibility Guidelines)のアップデートの検討が行われることに触れています。ATAGの対象とするオーサリングツールというのは、ATAG 2.0の用語集オーサリングツール (authoring tool)に定義されていますが、Web上のツールで最初に思い浮かぶのはBlogでしょうか。BlogのインターフェイスがATAGの対象になると思えばわかりやすいかと思います。

そんなATAGですが、現時点での最新バージョンがATAG 2.0であり、これはWCAG 2.0を参照するものです。ATAG 2.0は当然、WCAG 2.1やWCAG 2.2で追加されている達成基準に触れないものですから、アップデートが必要になるといえるでしょう。WCAG 3の付属文書であるExplainer for WCAG 3.0のIntroductionではATAG 2.0をWCAG 3に取り込んでいくことが示唆されているものの、遅々としてWCAG 3の策定が進まない状況が、この流れを後押ししているものと推測します。

ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブック

デジタル庁が公開しているWebアクセシビリティの資料として、ウェブアクセシビリティ導入ガイドブックが知られていますが、これが昨年10月16日付けで更新されました。同時に、ウェブアクセシビリティ広報向けガイドブックという文書が公開されました。

この広報向けガイドブックの位置付けとしては、次のように述べられています。

ウェブアクセシビリティ導入ガイドブックが、ウェブアクセシビリティの基礎や確保する上で達成すべきことなど、ウェブアクセシビリティ導入の契機となることを記しているのに対し、本広報向けガイドブックは、ウェブサイト構築後に作成・追加されるコンテンツのアクセシビリティをどのように確保すべきかに焦点を当てました。特に、動画やSNSを活用したコンテンツ作成において、行政の広報担当者が心掛ける点や満たすべきポイントを記載しています。

動画については、⁠映像コンテンツ・動画配信におけるアクセシビリティ」という章が設けられています。その中では、⁠キャプション(字幕⁠⁠手話」⁠音声ガイド(音声解説⁠⁠書き起こしテキスト」と動画のアクセシビリティ確保に必要な一通りのものについて取り上げています。この広報向けガイドブックは、日本語で動画に関するWebアクセシビリティの入門的で信頼できるまとまった情報として画期的なものではないかと思われます。より発展的な内容としては、W3CのMaking Audio and Video Media Accessibleというリソースが存在しますが、この広報向けガイドブックであらかじめ俯瞰しておけば、内容の理解が深まるのではないかと考えます。

SNSについては、⁠画像の代替テキスト」⁠動画のキャプション(字幕⁠⁠」について言及されており、各種SNSプラットフォームで提供されているWebアクセシビリティの機能を活用するよう促しているのが印象的でした。

ところで個人的に目を引いたのは、⁠2.4.4 PDF、スライド等の資料は、適切なフォーマットになっているか確認する」というセクションで、PDFについても言及されている点です。その中で「まずはHTMLページとして作成・公開できないかを確認してください。」としつつも、⁠PDF、スライド等の体裁が望ましいと判断された場合であっても、各フォーマット、各アプリケーションが有するアクセシビリティ機能・設定を可能な限り整えた状態にしてください。」としています。これは例えば、PowerPointでPDFのスライドを作るときに、画像に代替テキストを付けたり、適切な読み上げ順を設定するなどして、適切なタグ付きPDFを出力させることにほかなりません。このガイドブックを契機にMicrosoft Officeのアクセシビリティ機能がより広く知られるようになるとよいと思います。

生成AIとWebアクセシビリティ

ChatGPTに代表されるような生成AIについて、さまざまなシーンで活用されつつある昨今ですが、Webアクセシビリティも例外ではないといえます。筆者の目に付いた範囲で簡単に記事を取り上げてみます。

いずれも生成AIで全部解決できるということはなく、あくまで補助的に活用できるという状況だと認識しています。月並みですが、うまく生成AIと付き合っていくことが求められるでしょう。

デジタルアクセシビリティ法の私案

さえら氏によるデジタルアクセシビリティ法 私案というnoteを見かけました。その記事では、次のことが述べられています。

日本では建築や公共交通のUDはバリアフリー法によって進んだが、情報機器やサービスなどのデジタルアクセシビリティを進める法は無いに等しい。欧米、インドなど世界各国では、全てのデジタル環境をUDに限るという法律が制定されている。建築も車も書籍もデジタル化が進む今、機器、サービス、コンテンツなど、あらゆるデジタル環境をUD前提とするために、日本では未だ存在しない「デジタルアクセシビリティ法」の私案を提案する。

障害者差別解消法では、Webアクセシビリティは「環境の整備」であり、これは努力義務にしか過ぎません。また、2022年に障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が成立しましたが、とりわけWebアクセシビリティに関しては実効性が薄いといわざるを得ません。Webアクセシビリティを推進するにあたって、WCAG 2を強制するような法律が必要であると筆者は考えていますが、私案ではWCAG 2を含むJIS X 8341シリーズを名指しするような内容が提案されています。こういった法律の必要性を地道に訴え続けていきたいというところで、本稿の締めとしたいと思います。

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