GitLabが解説:プラットフォームエンジニアリングを読み解く

プラットフォームエンジニアリングとは何か? 基本概念と背景

AIがソフトウェア開発を大きく変革しつつある一方で、多くの組織は新たな課題にも直面しています。それは、本来であればソフトウェア開発者が戦略的かつ革新的な業務に割くべき時間が、かえって単調で付加価値の低い作業に費やされてしまっているという点です。この課題解決に向けて注目を集めているのが「プラットフォームエンジニアリング」です。本連載では、その中核概念を明らかにし、関連する開発手法との関連性を探るとともに、組織がプラットフォームエンジニアリングを採用することで得られるビジネス価値について解説します。

近年は、IT技術の発展や消費者ニーズの多様化などを背景として将来の予測が難しい「不確実性の時代」が続いています。こうした状況のなか、ソフトウェア開発の領域では「プラットフォームエンジニアリング」と呼ばれる開発者の生産性を向上させるアプローチが注目されています。AI時代の複雑化するビジネスニーズに対応するための新しいエンジニアリング手法として、ガートナーも積極的に提唱しています。

しかし、プラットフォームエンジニアリングについて明確に理解できていない人も少なくありません。そこで本連載では、プラットフォームエンジニアリングの意義や特徴、導入メリットなどを解説します。第1回となる本稿では、プラットフォームエンジニアリングの定義と、注目されている背景にある、ソフトウェア開発現場が抱える課題について解説します。

プラットフォームエンジニアリングとは

プラットフォームエンジニアリングとは、企業内の開発者に対して適切なプラットフォーム「Internal Developer Platform(以下 IDP⁠⁠」を整備し、ソフトウェア開発の効率化や生産性向上を実現するアプローチのことです。

IDPとは、企業内の開発者が開発プロセスにおいて必要な機能やリソースを自ら取得して利用できるプラットフォームのことで、プラットフォームエンジニアリングの導入における重要な技術基盤にあたります。IDPを通じてチームで共通して利用できるツールやリソースを開発者に提供し、迅速なソフトウェアの構築やデプロイを実現できます。IDPの構築においては、自社の課題や目的に応じてツールや技術を組み合わせて行いますが、単一のプラットフォームで開発プロセスにおける多くの作業を効率化できるサービスもあります。

プラットフォームエンジニアリングが注目される背景

ではなぜ、ソフトウェア開発の領域でプラットフォームエンジニアリングが注目されているのでしょうか。その背景として、以下の要素が挙げられます。

1. 開発環境の複雑化

プラットフォームエンジニアリングの必要性が高まっている背景の一つとして挙げられるのが、開発環境の複雑化による開発者の認知負荷の増大です。ソフトウェア開発における開発手法や技術は年々進化し続けており、クラウドや生成AI、マイクロサービス、APIなどさまざまな技術が広く使われるようになっています。これらの技術活用によって柔軟なソフトウェア開発を実現できますが、その一方で管理すべきツールの種類が増え、かつ多様な技術を習得しなければならないという課題が発生します。それにより、開発者は重要な開発作業や取り組み以外に自らのリソースを割く必要があり、その結果、チーム全体の生産性低下も招くことになります。

たとえば、GitLabが実施したグローバル調査The Intelligent Software Development Era ⁠インテリジェントソフトウェア開発の時代)でも、ソフトウェア開発で5種類以上の開発用ツールを用いているDevSecOpsチームが約6割、AIツールを5種類以上使っている組織が約5割に上るという結果が出ています。その結果、複雑で断片化されたツールチェーンが生じ、開発者の認知負荷を高めているのです。

つまり、ソフトウェア開発において効果的に最新技術を取り入れていくためには、開発者が本質的な業務に集中できる環境を構築しなければなりません。

2. ビジネス競争の激化

市場が常に変化する中で、社会や消費者にとって必要とされる価値あるソフトウェアを開発して競合との差別化を図るためには、多様な技術を活用したスケーラブルな開発が求められます。

また、自社の競争力を高めていくためには、アジャイル開発のようなスピード感のある開発手法を積極的に採用していく姿勢も大切です。開発者がセルフサービスで利用できるプラットフォームの提供は、柔軟かつ迅速なソフトウェア開発を実現する手段として有効なアプローチと言えます。

3. IT人材の不足

ソフトウェア開発の領域では、慢性的な人手不足が課題となっています。クラウドやAIなど高度な最新技術が次々と登場する一方で、それらを扱える専門知識を持った人材が業界全体で不足しているのです。

みずほ情報総研(現 みずほリサーチ&テクノロジーズ)が実施したIT人材需給に関する調査によると、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。また、先述したGitLabの調査では、DevSecOpsの専門家の83%が、今後5年以内にAIが自身の役割を大きく変えると回答しました。

このような背景の中で適切にソフトウェア開発を進めていくためには、プラットフォームエンジニアリングの導入を通じて開発者の負担削減や生産性向上を実現し、自社のリソースを上手に活用していく姿勢や工夫が求められると言えます。


次回は、プラットフォームエンジニアリングがDevSecOpsおよびサイト信頼性エンジニアリング(Site Reliability Engineering)とどのように関連しているか、また組織内でプラットフォームエンジニアリングを効果的に実装する方法について詳しく見ていきます。

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