これからのEMの価値を考える
――EMConf JP 2026レポート

2026年3月4日、TOC有明にて、EM(エンジニアリングマネージャー)向けカンファレンス「EMConf JP 2026」が開催されました。2025年の初開催に続く2回目の開催で、参加者は約700人。前回の約400人から大きく増加しており、⁠EM(Engineering Management⁠⁠」への関心の高まりがうかがえるイベントとなりました。

当日、メディアパートナー(gihyo.jp)として参加した筆者が、会場の様子とセッション内容の一部をレポートします。

© 2026 EMConf JP 2026 実行委員会

AI時代のEMのあり方を考える

生成AIの普及によって、コーディングやデザインのハードルは急速に下がりつつあります。その結果、⁠コードを書けること」そのものの価値は相対的に低下し、エンジニアの役割も変わり始めています。

こうした変化は、エンジニアを束ねる立場にあるEMにとっても無関係ではありません。EMConf JP 2026では、AI時代におけるキャリアへの不安や、エンジニアやEMの価値はどこにあるのかといった問いに向き合うセッションが数多く見られました。

AI Coding の先にある⁠Engineering Manager の本当の仕事

キャディ株式会社 藤倉 成太氏、@sigemoto

キャディ株式会社VPoEの藤倉氏は、AIによってEMの仕事がどう変わるのかを、⁠作るもの」「仕事のあり方」の2つの観点から整理しました。

まず藤倉氏は、AIが登場したからといって、ソフトウェアの役割そのものがなくなるわけではないと説明します。蒸気機関や電力といった過去の技術革新でも、登場直後は社会や経済への影響は限定的でした。本当に大きな価値が生まれたのは、生産ラインやサプライチェーン、組織やルールといったしくみが、新しい技術を前提に作りなおされたときだったとのこと。

AIの時代も同様で、単なる作業の自動化ではなく、AIを前提にしたシステムやしくみを設計することで、大きな価値が生まれると語りました。

一方で、エンジニアの仕事の中身は大きく変わる可能性があります。AIエージェントによってコード生成やレビューが自動化され、これまで経験豊富なエンジニアが担ってきた仕事も代替され始めています。そうした中で人間に残る役割は、⁠何を作るべきか」を考え、判断し、その結果に責任を持つことだといいます。AIが作業を担うほど、こうした意思決定こそがエンジニアの中心的な価値になっていく、という見立てです。

その結果、開発チームのあり方も変わる可能性があります。AIを活用することで役割の境界は曖昧あいまいになり、PdMやデザイン、バックエンドなどを横断しながら、2〜3人程度の小規模チームでプロダクトを作る形が増えていくのではないかと藤倉氏は見ています。

こうした変化の中で、EMの役割も変わります。技術的な不確実性が下がることで、プロジェクト管理の重要性は相対的に低下する一方、メンバーの意思決定や責任を支えるピープルマネジメントの重要性は、むしろ高まるといいます。

最後に藤倉氏は、AIによる変化の先にある未来は誰にも正確には予測できないとしつつも、こうした大きな転換期の最前線に立てること自体がおもしろいことだとして、「楽しんでやっていきましょう」と締めくくりました。

(なお、講演はスライドにトークテーマのみを映す形式で行われたため、資料の公開はありません。)

AI時代⁠mentoが考えるマネジメントのサクセスとその実践

株式会社mento 松山 勇輝 氏、@matsumatsu202

© 2026 EMConf JP 2026 実行委員会

株式会社mentoの松山氏の発表は、⁠AIによって生産性が上がったはずなのに、マネージャーの仕事は本当に楽になっているのか?」という問いから始まりました。会場ではほとんど手が挙がらず、「AIの進化にもかかわらず、マネジメントの負荷はむしろ増えている」という現状が示されました。

松山氏は、AIによって生産性は向上しているものの、人の意思決定がボトルネックになっていると語ります。依然として、⁠何を作るのか」⁠何を優先するのか」⁠どの方向に進むのか」といった判断は、人間が担う必要があります。

発表の中で特に印象的だったのは、マネージャーは人だけでなく、AIエージェントも管理するようになるという指摘です。さらに興味深かったのは、エンジニアリング領域こそが、AIによる生産性革命の最前線にあるという見方でした。

現在、エンジニアリング現場で起きている変化は、数年後には他の職種へ、さらにその後にはエンタープライズ企業へと波及していく可能性が高いといいます。つまり、今エンジニア組織で起きている問題は、あらゆる職種が将来直面する課題の予告編とも言えるとのこと。

noteにて登壇内容が全文書き起こしされています。


このように、AI時代にEMに求められる価値を考える講演は、聴講者の悩みや関心とも重なっており、その分注目度も高かったようです。AIを活用することはもはや当たり前となっているため、そのうえでどのように価値を発揮するかといった、もう一歩踏み込んだ議論が多かったように思います。

マネージャーとして組織⁠人の課題と向き合う

先述のように、⁠AIによる変化」への注目度が高かった一方で、タイトルに「AI」が入っていないセッションも多くみられました。そうしたセッションでは、⁠組織」「人」といった、技術やツールだけでは解決できないテーマが取り上げられていました。

技術やツールが進歩しても、組織の課題が簡単に解決されるわけではないようです。ここでは、組織の課題についてのセッションを紹介します。

技術的負債の泥沼から組織を救う3つの転換点

株式会社スリーシェイク nwiizo 氏、@nwiizo

© 2026 EMConf JP 2026 実行委員会

nwiizo氏は、「アーキテクチャモダナイゼーションは本当に急務なのか」をテーマに講演。技術的負債は「技術」だけの問題ではないとしたうえで、その解決の糸口として「学ぶ力」⁠語る力」⁠始める力」の3つが解説されました。詳細は参考文献も含めて丁寧に説明されており、ぜひ資料を参照していただきたい内容です。

特に印象的だったのは、次の言葉です。

「生成AIによって、コード生成などの『解決策を作る』ことは劇的に速くなったが、それによって『そもそも何が本当の課題なのか』まで見つかるわけではない。効率化で生まれた余力を、まだ解けていないジョブの発見に振り向けられるかが分水嶺になる」

技術的負債を技術だけで解決できるものととらえるのではなく、組織構造や学習文化を見なおし、変化を阻む要因に丁寧に対処する必要があることが伝わってくる発表でした。

スーパーマンに頼らない“分権型組織”で作る強い開発チーム

株式会社スマートバンク 三谷 昌平 氏、@shohei1913

三谷氏のセッションでは、「人が増えたのに全然楽にならない」という自身の過去の経験と、その課題にどう向き合ったのかが紹介されました。

2024年、スマートバンクでは、従来の短期解散型のプロジェクトチーム体制から「ミッションチーム制度」へと移行し、腰を据えて開発に取り組むスタイルへと変えました。さらにエンジニア採用も強化し、エンジニア数は1.5倍になったといいます。そこで生じたのが、冒頭で語られた「人が増えたのに全然楽にならない」という問題でした。

その解決策として、同社では、⁠委員会制度」という課題ごとに小さなチームを組織し責任と権限を与える体制をとりました。この制度によって、DB負荷への根本対応、危険な長時間バッチ処理を事前に検知する「やばいよやばいよメトリクス⁠⁠、CIの高速化などが実現されたとのことです。

マネージャーがすべてを抱え込むのではなく、現場が自律的に意思決定し、前に進めるための役割を設計する――その重要性を感じさせる、示唆に富んだセッションでした。

エンジニアリング以外の視点を養う

現代は、エンジニア/マネージャー/ビジネス職といった職種の境界が薄れつつあり、エンジニアはエンジニアリングだけを見ていればよいとは言えない時代になっているのではないでしょうか。
EMConfでは、エンジニアに求められるエンジニアリング以外の視点についてもセッションが行われました。

「事業目線」の正体 〜3つのフェーズのCTO経験から見えてきた⁠EMが持つべき視点

Almoha LLC CEO/CTO sotarok 氏、@sotarok

sotarok氏は「事業目線」を、⁠自分の立場(エンジニアリング)から、事業全体の構造へ接続できている状態」と定義しました。AIがどれだけ速くコードを書けるようになっても、⁠なぜその機能が必要なのか」⁠他部署のオペレーションにどう影響するのか」といった、隣接組織や顧客への解像度がなければ、正しい課題設定はできないと語りました。

数字を知り、顧客と隣接組織を理解し、それを戦略へ反映していく。このプロセスは、AI時代のEMが「何を作るべきか」を判断し、事業の成功にコミットするための必須条件になっていくとのこと。

「事業目線を持って」と言われたことのあるエンジニアは少なくないはず。そういった方にむけて、そのためにはどのようなアクションを取ればいいかが具体的に示されたセッションでした。

マネージャー版 "提案のレベル" を上げる

株式会社Kyash こにふぁー氏、@konifar

こにふぁー氏は、より高度な判断が求められるようになるほど、それを周囲と合意形成していく「提案」の難易度も一気に上がると語りました。発表では、マネージャーになると関わる範囲が他部署や経営へと広がり、時間軸も選択肢も増えるため、提案が難しくなる構造が整理されていました。

不確実性が高く、正解のない状況で意思決定を進めるには、自分一人で完璧な提案(こにふぁー氏の資料でいうレベル3の「これでいいですか⁠⁠)を作ろうとするのではなく、組織の意思決定プロセスを理解し、軌道修正を前提とした提案の引き出しを増やすことが重要だといいます。

AIが実装を担うようになるほど、人間はより曖昧で答えのない問いに向き合うことになります。そのとき、正解に近づき続ける「覚悟」を持って提案し、やり切る力こそが、EMにとって重要な価値になることを示す内容でした。

これからの時代「EM」に求められること

AIの進化によって環境が目まぐるしく変わる中で開催された今回のEMConfでしたが、繰り返し語られていたのは、AIによる変化そのものよりも、その変化の中で人が何を担うのか、そしてEMがどこに価値を発揮するのかという問いでした。

実装や作業の一部をAIが担うようになったとしても、何を作るのかを見極め、組織として前に進むための意思決定を支え、人とチームの力を引き出す役割までは、簡単に置き換えられません。本イベントを通じて見えてきたのは、AI時代だからこそ、EMには「判断と責任」を引き受ける存在としての価値が、これまで以上に求められているということでした。

イベントを支えた運営チーム

最後に、本イベントを支えた運営のみなさんの活躍についても触れたいと思います。

本イベントは、運営のみなさんの尽力による参加者体験の良さも印象に残りました。

会場には、EMの⁠あるある⁠をパネルにまとめた「EMのそういうところ展」や、当日にテーマを決めて話すアンカンファレンスなど、参加者同士の交流や議論を促すさまざまな企画が用意されていました。

EMの“あるある”をパネルにまとめた「EMのそういうところ展」
アンカンファレンスの様子

また、今回からDE&I(Diversity, Equity, and Inclusion)ポリシーを掲げ、目標としていた「参加者の女性比率20%」も達成しました。

運営コアメンバーのさとだい氏@dskst9によると、前回チケットがすぐに完売したことを受け、今回は約2倍のキャパシティを持つ会場を確保するため、前年の6月ごろから準備を始めていたとのこと。

こうした運営チームの丁寧な準備と工夫に支えられ、EMConf JP 2026は多くの参加者にとって学びの多い一日になっていたように思います。本記事の締めくくりとして、イベントを支えた運営のみなさんに感謝を申し上げます。

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