SUSECON2026レポート

SUSEが掲げる「Open Future」とは何か⁠SUSECON 2026で見えたオープン戦略の本質

2026年4月20日から23日にかけて、SUSEはチェコ・プラハで年次カンファレンス「SUSECON 2026」を開催した。

クロージングキーノートでは、SUSE Chief Marketing OfficerのMargaret Dawson氏が登壇し、SUSEが現在のIT市場をどのように捉え、どのような方向へ顧客企業を導こうとしているのかが示された。キーメッセージとして繰り返されたのは、⁠Open Future」という概念である。

SUSE Chief Marketing Officer Margaret Dawson氏

SUSEが「Open Future」を掲げる理由

SUSEは創業当初から、Linuxをはじめとするオープンソースを中核事業としてきた企業である。しかしSUSEが語る「オープン」とは、単なるオープンソースソフトウェアの採用や提供を意味していない。むしろ、ITインフラ、クラウド、AI、組織運営に至るまで、特定ベンダへの依存を避け、顧客側が主導権を維持できる状態を構築するための包括的な戦略概念として位置づけている。

この背景には、近年のIT市場において顕在化している構造の変化がある。とくに強く影響しているのが、BroadcomによるVMware買収後に加速した仮想化市場の再編や、Red HatによるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)のソースコード公開方針の変更によって互換OSの開発が難しくなったことだ。また、生成AIを巡って新たなプラットフォーム競争が始まっていることにも注意する必要がある。

Dawson氏はこれを、クローズドなエコシステムへの過度な依存が、企業の自由度を奪っている構造的な問題だと指摘した上で、その対抗軸として「オープン」を提示した。SUSEが示す「Open Future」とは、顧客企業がこのようなロックインの状態を抜け出し、将来の選択肢を維持できるようにするための経営戦略なのだ。

SUSEが定義する「オープン」の3つの柱

Dawson氏は、SUSEの「オープン」が3つの要素によって構成されると語った。それが「Open Standards(オープン標準⁠⁠、⁠Open Architecture(オープンアーキテクチャ⁠⁠、⁠Open Culture(オープンカルチャー⁠⁠」だ。

「オープン」を構成する3つの要素

標準化を「顧客主導権」の問題として捉える

第一の柱はオープン標準だ。標準化とは、単に共通規格を作るということではなく、顧客主導権の問題として捉えなければならないとDawson氏は言う。ベンダがクローズドな規格を採用する理由は、競合他社を排除して市場での支配力を維持したいからだ。しかしSUSEでは、最終的に市場はオープン標準へ収束すると見ている。Adobe FlashがHTML 5へ置き換わったように、ユーザは長期的には相互運用性を求めるという考え方だ。

この議論はAI分野にもつながっている。Dawson氏はMCP(Model Context Protocol)のような標準化の動きを評価しつつも、総合的に見ればAI市場は新たなロックイン競争が始まる兆しを示しており、再びブラックボックス化が進む可能性があると指摘する。生成AIの普及は、特定ベンダのAPIやAIモデルへの依存を生んでおり、それが将来的にクラウド市場と同様の支配構造に発展するかもしれない。

SUSEはこれを強く警戒しており、AI時代においても顧客が主導権を維持できるよう、オープン戦略を推し進めていく方針を示した。

組み立て可能なインフラへの移行

第二の柱であるオープンアーキテクチャは、SUSEが現在のインフラ市場で最も重視している領域の一つだ。ここで繰り返し使われたキーワードが「コンポーザブルエンタープライズ(Composable Enterprise⁠⁠」で、これはビジネスの機能やシステムをモジュール単位で構成し、市場や環境の変化に合わせて柔軟かつ迅速に再構成できるようにするという考え方を指す。SUSEが目指しているのは、単一ベンダによる統合スタックではなく、モジュール化されたコンポーネント群を柔軟に組み合わせられる構造というわけだ。

この思想は、LinuxやKubernetes、オープンAPI、クラウドネイティブアーキテクチャなどと非常に親和性が高い。各コンポーネントを疎結合化し、必要に応じて交換可能にすることで、顧客は特定ベンダへの固定化を避けられる。そのメリットとしては、イノベーション速度向上、保守コスト削減、開発生産性向上、市場変化への迅速対応などを挙げることができる。

オープンアーキテクチャのメリット

さらに重要なのは、導入コストよりも移行コストの方が遥かに高くつくという点だ。VMware移行問題に当てはめれば、導入当初の判断は合理的な判断だったはずだが、長年にわたる統合と依存の結果、現在は多くの企業が移行コストの高騰に悩まされている。SUSEはこの状況に対し、⁠組み立て可能(コンポーザブル)なオープンアーキテクチャこそが将来の自由度を確保する」のだと強調している。

オープンソースを組織モデルとして捉える

第三の柱であるオープンカルチャーは、SUSEの戦略を技術論から組織論へ拡張する要素だといえる。Dawson氏は、オープンソースコミュニティの運営モデルそのものを、現代企業の組織モデルとして評価できると語る。すなわち、情報共有を前提としている、自律的な参加を促進している、多様な視点を受け入れているといった文化が、AI時代における企業の競争力強化に直結するということだ。

また同社は、AIが普及したとしても、競争力の中心は依然として「人」にあると見ている。オープンソースコミュニティが優秀な人材を生み出し続けていることに異論の余地はない。SUSEが掲げるオープンカルチャーとは、単なる理想論ではなく、優秀な人材を惹きつけて継続的なイノベーションを実現するための組織戦略なのである。

コミュニティ⁠選択肢⁠そして次世代育成へのこだわり

Dawson氏のキーノートを通して見えてくるのは、SUSEの競争軸はもはや特定のプロダクトやディストリビューションではなく、ロックインやブラックボックス化といった、企業の選択肢を阻害するさまざまな要素だという点だ。これらの要素を取り除くためにSUSEが提示しているのが「Open Future」というわけだ。

もっとも、このようなSUSEのオープン戦略を、VMware問題などに対抗するための単なる製品戦略や市場ポジショニングの話として理解すると、本質を見誤るかもしれない。実際には、その根底にSUSEが長年培ってきたオープンソース企業としての文化や価値観が存在している。その点をより具体的に理解するため、本稿ではSUSE Linux部門GMのMiguel Pérez氏へのインタビュー内容も併せて紹介したい。

同氏は、オープンソースとの向き合い方、コミュニティとの関係、さらにはエンジニアにとってのオープンソースの魅力までを、SUSEの技術責任者の視点から率直に語ってくれた。

SUSE GM for Linux Miguel Pérez氏

Q: SUSEのオープンソースへの姿勢は競合他社とどのように異なるのでしょうか⁠

Pérez氏:SUSEの素晴らしいところは、まず私たちが自分たちの仕事を愛しているということです。私の祖父は常に、⁠自分の仕事に情熱を注いでいる人と競争するな。なぜなら、彼は君を打ち負かすだろうから」と言っていました。私たちは自分たちの仕事に情熱を注いでおり、その情熱が製品の品質に浸透しているのだと思います。

また、私たちは企業文化として「オープンであること」を非常に大切にしています。コードは常に公開し、可能な限りオープンな形で開発を進めています。もし何かを作るならばオープンな場で行う、というのがSUSEの基本的な考え方です。SUSEには20年以上在籍している経験豊富なエンジニアも多く、そうした人たちが、SUSEらしさを守り続けています。単にビジネス上の都合で方針を変えるのではなく、オープンソースの原点に忠実であり続けることを重視しているのです。

Q: SUSEにとって⁠オープンソースコミュニティとはどのような存在なのでしょうか⁠

Pérez氏:私たちは、コミュニティには大きな知恵があると考えています。コミュニティは、まるで「より大きな脳」のような存在です。多くの人が議論し、試行錯誤を重ねることで、技術は自然に磨かれていきます。SUSEは、その流れを無理にコントロールしようとは考えていません。コミュニティは意思決定において非常に賢明であり、その判断を尊重することが重要です。SUSEは、自分たちの影響力をコミュニティに無理やり押し付けるのではなく、コミュニティに参加し、貢献しながら成長を見守る姿勢を取っています。

SUSE Linux Enterprise Server 16(SLES 16)でも、コミュニティで広く利用されているコンポーネントを積極的に採用することで、より多くのユーザが違和感なく使える環境を作れるよう意識しました。ポスト量子暗号のような新技術も、まずはコミュニティ側での進化をサポートし、その成果を取り込んでエンタープライズ品質として提供しています。

つまりSUSEは、オープンソースコミュニティを単なる社外の開発者集団とは考えておらず、製品進化の中心的な存在として捉えているのです。

Q: エンジニアにとって⁠オープンソースの魅力はどんなところにあると思いますか⁠

Pérez氏:あくまでも個人的な意見ですが、オープンソースの最大の魅力は誰でも学べる点にあると思います。私は今でもときどき大学へ行って学生たちと話をするのが好きなのですが、彼らにはLinuxカーネルのソースコードを見るよう勧めています。最初は「なぜそんなことを?」という反応をされますが、実際にコードを読んで、自分でビルドし、自分のカーネルを動かせた瞬間、彼らは大きな自信を得たように感じます。

素晴らしいのは、わずか100ユーロ程度の中古ノートパソコンがあれば、誰でもこのようなことができるということです。この民主性と可能性の広さこそが、オープンソースの美しさであり、SUSEがこれを支持する理由です。オープンソースは単なる技術ではありません。知識へのアクセスを開放し、人を成長させる仕組みです。だからこそ、次世代のエンジニアにその価値を知ってほしいのです。

学生たちから話を聞くことは、私自身にとっても大きな刺激になります。若い世代は新しい発想を持っていて、⁠そんな使い方をするのか」と驚かされることも多いです。ですからSUSEのビジネスにおいては、私たちがやっていることがオープンで、誰でも利用でき、誰でもそこから学ぶことができるという事実が、非常に重要なことなのです。

私たちは、⁠オープン」というのは単にコードを公開することではなく、人々の知識や経験を共有しながら、一緒に成長していく姿勢そのものだと考えています。

おわりに

SUSECON 2026で語られた「Open Future」は、単なる理想論ではない。それは、顧客に選択肢を残し、コミュニティと共に技術を育て、人材育成まで含めてオープン性を維持していくという、SUSEの長年の企業文化そのものだ。

オープンソースをビジネスの核として成長してきたSUSEは今、改めて「オープン」を競争力として打ち出し始めている。今回のSUSECONは、その方向性を強く印象づけるイベントだった。

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