一般社団法人日本ブロックチェーン協会
JBAの開催報告でも、本ハッカソンは次世代のブロックチェーンエンジニアの育成とコミュニティ形成を目的とし、実社会での活用を見据えたプロダクト開発に取り組む場として位置づけられています
第1部 ハッカソン本選――若手開発者が示したステーブルコインの社会実装
Demo Day当日は、発表チームによる予選ピッチを経て、本選が実施されました。会場では、JBA理事であり株式会社ガイアックスChief Web3 Officerの峯荒夢氏が司会進行を務め、イベントの趣旨やルール、審査基準を説明しました。本稿では、最終ピッチとして行われた本選の内容を中心に、各チームの発表と審査員からのコメントを紹介します。
本選の冒頭では、主催者であるJBAの紹介に続き、スポンサー・
審査員は、Digital Platformer株式会社の五十嵐太清氏、JPYC株式会社の岡部典孝氏、株式会社シーエーシーの薮下智弘氏の3名。本選では、各チームが10分間のプレゼンテーションとデモを行い、その後5分間の質疑応答に臨みました。評価基準は、課題の強さ、独自の価値・
Node Stay――遊休マシンをトレード可能な計算資産へ
最初に登壇したのは、
発表者Moose氏は、ネットカフェやeスポーツ施設にある高性能PC、特に稼働していない時間帯のGPUや計算資源に着目しました。
ネットカフェの市場縮小が進む一方で、施設内には一定の性能を持つPCが存在します。そこで、これらの遊休マシンを
プロダクトでは、店舗がマシンと利用可能時間を登録し、その利用権をユーザーがJPYCで購入します。ユーザーは購入した利用権を自分で使うだけでなく、マーケットに再出品することも可能です。利用開始時にはQRコードを読み込み、実際の使用時間に応じて決済する設計が示されました。
発表では、Gmailログインを起点にウォレットアドレスを生成し、ユーザーが暗号資産ウォレットの操作や手数料の支払いを意識せずに利用できるUXも紹介されました。ブロックチェーンを使ったサービスでは、取引内容をブロックチェーン上に記録する際に、通常はネットワーク手数料が発生します。また、ユーザー自身がウォレットを用意し、取引内容を確認して承認する操作が必要になることもあります。暗号資産に慣れたユーザーにとっては一般的な手順でも、ブロックチェーンを意識せずに使いたい一般ユーザーにとっては、大きな利用ハードルになり得ます。
Node Stayでは、こうした手数料の支払いや取引承認の負担をできるだけサービス側で吸収し、ユーザーが通常のWebサービスにログインする感覚で使える設計を目指していました。ブロックチェーン上に記録される権利や決済の仕組みを裏側に置きつつ、利用者にはできるだけ複雑さを見せない点が特徴です。
質疑では、ネットカフェを初期市場に選んだ理由、計算資源を借りるユーザー像、現実世界の利用実績をどうオンチェーン上の権利と対応させるかが問われました。ここでいう
審査員からは、現実世界の利用時間や権利消化をどう検証するか、GPUスペックのばらつきをどう標準化するかといった指摘がありました。一方で、遊休資産をブロックチェーン上で流通させるという発想は評価され、同プロダクトはシーエーシー賞を受賞しました
GovWatch――政治資金透明化プロダクト:透明性とプライバシーの両立
2番目の発表は、政治資金の透明化とプライバシー保護を両立させるプロダクト
提案された仕組みでは、政治資金の移動をステーブルコインで行い、ブロックチェーン上に記録します。一方で、寄付者の氏名や住所などの情報はそのまま公開せず、Verifiable Credentials
このプロダクトの特徴は、単に
もっとも、政治資金というテーマでは、技術的に実現できることと、実際に制度として導入できることの間には大きな距離があります。質疑では、JPYCで政治献金を行う場合の現行制度上の位置づけ、VCの発行主体を誰が担うのか、証明書の失効や更新をどう管理するのかが論点となりました。
特に、政治資金の透明化は、既存の政治資金規正法や総務省の運用、寄付者情報の公表義務、政党・
また、秘匿された情報を不正調査時に開示する仕組みを設ける場合、誰が復号権限を持つのか、その権限者をどう信頼するのかも重要です。運営主体がVCを発行する場合、その主体がどのように公的信頼を得るのか、地方公共団体や公的機関との連携が必要になるのか、制度改正を伴うのかといった実装面のハードルも大きいと考えられます。
審査員からは、技術的な作り込みを評価する声があった一方、社会実装には制度面・
TraceRelief――透明な寄付で、届く支援を
3番目に登壇したのは、
現在の寄付の課題として、寄付金の使い道がわかりにくいこと、銀行送金では時間や手数料がかかること、寄付した事実を後から証明しにくいことを挙げました。これに対して、JPYCなどのステーブルコインを使えば、即時送金が可能になり、寄付履歴をブロックチェーン上で検証できます。さらに、寄付証明をNFTとして発行することで、寄付者にとっての証明やインセンティブにもなると説明しました。
本選のデモでは、支援先プロジェクトを選び、寄付額と用途タグを指定し、代表的な暗号資産ウォレットであるMetaMaskで承認・
このUIのわかりやすさは、最終的にJPYC賞を受賞するうえで重要な評価ポイントになったと考えられます。TraceReliefのチームには、株式会社シーエーシーの若手社員も参加していました。同社は後日公開した記事で、TraceReliefについて
質疑では、NGO側の権限管理、寄付金の使用用途を誰が記録するのか、NFTを譲渡可能にする必要があるのか、SBTの方が寄付証明として適切ではないかといった点が議論されました。
SBTは
発表者からは、ブロックチェーンに詳しくない立場だからこそ、一般ユーザーにとってわかりやすいUIを重視したとの回答がありました。一方で、NGO側の管理権限や、寄付金の使用実績を誰がどのように記録するのかについては、今後の開発課題として整理する必要があるという受け止めでした。
つまり、TraceReliefは、寄付金の最終用途を完全に保証する仕組みまで完成していたわけではありません。むしろ、ハッカソン段階では、寄付者がステーブルコインで寄付し、その履歴をわかりやすく確認できる体験を短期間で実装した点が大きな成果でした。透明性を高めるための入口となるUXを示しつつ、NGO側の権限管理や使用用途の記録、NFTの規格選定などは今後の改善テーマとして残された形です。
こうした課題はありながらも、ステーブルコインの即時性と寄付の透明化というテーマの相性がわかりやすく、初心者にも使いやすいUIが評価され、TraceReliefはJPYC賞を受賞しました
AI Vending Machine――AIが人間の顧客になる時代
4番目の発表は、
デモでは、AIが管理する棚にビールが1本しか残っていない状況を想定し、AIが
このプロダクトは、アプリ単体で見れば、まだ改善の余地が多い試作品、という印象を受けました。現実の自販機補充や小売流通のオペレーションをそのまま置き換えるには、在庫確認の精度、不正防止、作業者の本人確認、報酬の法的性質、商品の仕入れ方法など、多くの課題があります。アプリの動作だけを確認すると、率直に
それでも、この発表が興味深かったのは、地方や離島などで生活インフラの維持に人手がかかるという課題を、AIとステーブルコインを組み合わせて解こうとした点です。発表者は、自販機や無人店舗の補充に限らず、太陽光パネルの点検、災害時の現地情報収集、地域住民の隙間時間を活用したインフラ保守などへの展開可能性を示しました。
審査員からも、プロダクトとしての完成度だけでなく、地方の人手不足やインフラ維持の負担という課題意識に対して前向きなコメントがありました。例えば、離島や地方では一人が複数の仕事を担うケースもあり、細かな作業を地域住民に依頼できる仕組みには実証の余地があるという指摘がありました。また、少額報酬を即時に支払うマイクロペイメントや、AIによるクラウドソーシングとの接続可能性も示唆されました。
AI Vending Machineは、完成された商用アプリというより、AIが現実世界の作業を検知し、人間に依頼し、報酬を支払うという流れを最小構成で示したプロトタイプ、といえそうです。アプリ自体には改善の余地が多く残るものの、地方インフラ維持や人手不足という現実的な課題に対して、ステーブルコインの即時決済性を組み合わせようとした点が評価され、Digital Platformer賞を受賞しました
SENQ――日本ローカル予測市場:集合知をJPYCで可視化する
最後に登壇したのは、日本ローカルの予測市場を構想するチーム。発表者
ただし、日本で予測市場を展開するには、法規制上の大きなハードルがあります。特に、将来の出来事の結果に応じて金銭や換金可能な価値を得る仕組みは、賭博規制や金融規制との関係が問題になり得ます。そのため、海外の予測市場をそのまま日本向けに展開するのではなく、参加方法や報酬設計、対象テーマ、結果判定の仕組みを慎重に設計する必要があります。
提案されたプロダクトでは、JPYCを使って日本円建てで参加できる予測市場を構築します。特徴は、単に金額の大小で予測を重みづけするのではなく、居住地や専門性、属性情報に基づいてベットに重みを付ける点。たとえば、宮城県の地方選挙に関する予測であれば、当該地域の居住者や関係者の予測をより重く扱う、といった設計が考えられます。
一方で、審査員からは賭博該当性や金融規制への対応が最大の課題として指摘されました。発表者は、金銭を直接賭ける形ではなく、電子ポイントを用いた段階的な導入や、KYC、シーズン成績に応じた報酬設計など、法規制を意識したアプローチを検討していると説明しました。
もっとも、電子ポイントを使えば直ちに法的な問題がなくなる、というわけではありません。ポイントの取得方法、換金性、景品や報酬との関係、参加者が負担する対価の有無などによって、法的評価は変わり得ます。そのため、実際に事業化するには、賭博規制、景品表示法、資金決済法、金融商品取引法などとの関係を含め、専門家による法務整理が欠かせません。
同チームは受賞には至らなかったものの、ステーブルコインを
第2部 ステーブルコインとAIの開発動向――「人間の決済」から「機械の決済」へ
今回のハッカソンを取材して印象的だったのは、ステーブルコインが単なる送金手段としてではなく、権利、証明、報酬、寄付、予測、AIエージェントの行動基盤として扱われていた点です。これは、国内外のステーブルコイン開発動向とも重なります。
国内動向――円建てステーブルコインの実装が進むJPYC
日本では、2025年以降、円建てステーブルコインの社会実装が大きく進んでいます。本ハッカソンで審査員を務めた岡部典孝氏が代表取締役を務めるJPYC株式会社は2025年8月、資金決済法に基づく資金移動業者として登録され、日本円と1対1で連動する電子決済手段を発行可能な国内初の資金移動業者になったと発表しました
その後もJPYCの利用基盤は拡大しており、2026年6月には、JPYC EXの累計口座開設数が1万9,000件、累計発行額が30億円を突破したことが公表されました。発行上限ルールの緩和や、LINE上で利用可能なweb3ウォレット
JPYCの特徴は、日本円と1対1で価値が連動し、ブロックチェーン上で送付・
海外動向――AIエージェント決済を支えるx402、L402、AP2
一方、海外では、ステーブルコインがAIエージェント時代の決済基盤として注目され始めています。代表例が、Coinbaseが2025年5月に発表したx402です。x402は、HTTPの
このx402は、突然現れたわけではありません。先行する発想として、BitcoinのLightning Networkを用いたL402も存在します。L402は、HTTP 402とLightning Networkの少額決済を組み合わせ、APIやデジタルリソースへのアクセスに対して、ユーザーやAIエージェントが都度支払えるようにする仕組みです。x402がステーブルコインをHTTP決済に組み込もうとする動きだとすれば、L402はBitcoinとLightning Networkを使って、同様にインターネット上のAPIやサービス利用に支払いを結びつける試みといえます
さらにGoogle Cloudは2025年9月、AIエージェントと加盟店の間で安全かつコンプライアンスに適合した取引を行うための共通プロトコル
また、当メディアgihyo.
こうした動向を見ると、AIエージェントが決済を行う未来は、ステーブルコインだけでなく、既存のカード決済、銀行送金、トークン化預金など、複数の決済手段が競合・
ハッカソンで示されたプロトタイプの意義
この流れを踏まえると、JBA Blockchain Hackathon 2026で発表されたAI Vending Machineのような
同様に、TraceReliefは、ステーブルコインの即時性とブロックチェーンの透明性を寄付に応用した例です。Node Stayは、遊休計算資源の利用権をオンチェーン化することで、エッジコンピューティングや遊休資産活用の文脈とつながります。政治資金透明化プロダクトは、資金移動の透明性とプライバシー保護を両立する公共インフラの実験であり、日本ローカル予測市場は、ステーブルコインを集合知のインセンティブ設計に用いる試みです。
もちろん、これらのプロダクトには課題も多くあります。寄付や政治資金では、資金の最終用途を誰がどう記録・
ステーブルコイン万能論への懐疑――本命は「配管」か
もっとも、ステーブルコインがあらゆる決済の主役になるという見方には、慎重な声もあります。フィンテック企業 Suby
一方で同氏によれば、ステーブルコインが本当に強いのは、銀行システムが遅く高コストな領域――国境をまたぐ送金、企業間
そのうえで同氏は、ステーブルコインが置き換えるのは店頭のカード決済ではなく、
似た見立ては金融メディアにも見られます。
Reuters Open Interestに寄稿したBrookfieldのAnuj Ranjan氏は、2026年6月の記事
ここでいう配管とは、ステーブルコインの発行プラットフォーム、決済処理、デジタルウォレット、カストディ
ステーブルコインが現に浸透しつつある用途としては、クロスボーダー決済、企業のトレジャリー
この
トークン化預金とは、銀行預金そのものをブロックチェーン上のトークンとして表現する仕組みです。ステーブルコインと異なり、信用リスクや規制・
同報道では、この構想は、暗号資産企業が銀行業の中核領域へ踏み込んでくることに対する大手銀行側の対抗策と位置づけられています
これらの議論や動きを重ね合わせると、今後の決済インフラが
まとめ――ハッカソンの意義
ここまで見てきたように、ハッカソンで発表された各プロダクトは制度面・
JBA公式の開催報告では、今回のハッカソンを通じて、参加者が短期間の開発プロセスの中でアイデアを形にしていく姿から、次世代のブロックチェーン人材の創造性と実装力を実感する機会となったと総括しています
ステーブルコインは、今後、決済インフラとしての普及だけでなく、AI、IoT、デジタルID、ゼロ知識証明、クラウドファンディング、公共サービスなど、さまざまな技術領域と結びついていく可能性があります。JBA Blockchain Hackathon 2026は、その未来を大規模な完成品としてではなく、若手開発者による粗削りですが具体的なプロトタイプとして見せたイベントでした。
本選で発表された5つのプロダクトは、それぞれ完成度や事業性に差はあるものの、共通していたのは