DSXが示すNVIDIAの未来⁠垂直統合と水平分散のハイブリッド戦略~NVIDIA GTC Taipei 2026⁠Jensen Huangキーノートから

NVIDIAのCEOであるJensen Huang氏(以降Jensen)と言えば、もはや COMPUTEX TAIPEIの「顔」とも言える IT業界のスターです。今年もCOMPUTEX一般公開前の 6月1日にJensenはGTCのキーノートに登壇し、たっぷり2時間、多くのことについて語りました。

目立つ話題としては、たとえばWindows PC向けのプラットフォームとしてRTX Sparkが発表されました。MediaTekと共同開発したSoCは、20コア構成のCPUとBlackwell RTX GPUを NVLink C2Cで接続し、最大128Gバイトのユニファイドメモリとするなど、かなりパワフルなものです。

写真1 新発表のRTX Spark

また、Jensenはキーノートの翌朝に行われたメディア向けQ&Aセッションの冒頭にMediaTekのCEOであるRick Tsai氏を招いてチップ共同開発の経緯を披露したりと、RTX Sparkへの力の入れようが感じられました。

写真2 MediaTek CEO、Rick Tsai氏(右)

他にも注目を集めそうな話題があるのですが、本稿では筆者が最も関心を持ったDSXと呼ばれるデータセンター設計のプラットフォームに絞ってレポートします。

DSXは今回初めて発表されたものではありませんし、RTXからDGX、NVL72へと展開してきたNVIDIAとしては自然な流れですが、垂直統合型のアプローチとしてなかなか興味深い面があるからです。

DSX――AIインフラのリファレンスアーキテクチャ

スピーチではVera Rubin(NVIDIAが開発を進めるAIプラットフォーム)が、遂に本格量産に入ったことがアピールされましたが、実に今、NVIDIAはAIインフラのフルスタック・カンパニーとなっています。

写真3 主要なコンポーネントはすべてNVIDIAの機器で固められている

この状況をJensenはこう説明しています。

「かつて、NVIDIAはGPU企業でした。しかし現在はシステム企業です。そして最終的には、顧客はコンピュータを買いたいのではありません。AI Factoryを作りたいのです。だからNVIDIAは再び変化しています⁠⁠。

現在のAIインフラ構築はチップ、ラック、ネットワーク、電力、冷却などすべてを一体として、かつ効率良く設計しなければならない難しい仕事です。そこでNVIDIAは、DSXと呼ぶAI Factoryのブループリント(設計図・設計例)を提供します。

DSXは「最大効率と最大利益を実現するためのリファレンスアーキテクチャ」です。まず、DSX SimによってOmniverse(デジタルツイン)上でAI Factoryを構築してレイアウトや冷却、ネットワークなどを検証します。その後、実際の運用に入るとDSX OSが構成管理や監視を行います。

写真4 DSXの全体構成

キーノートではDSX Max LPSは同じ電力(正確には電力予算)でより多くのGPUを動かし、数百億ドル規模の利益を生み出すと説明されました。

写真5 DSX Max LPSによるモニタリング

Jensenは「これらによって小規模企業でも世界クラスのAIクラウドを構築できる」と言い、いくつかの事例を紹介しました。

写真6 NSCALEによるDSX AI Factoryの例

DSXが示すNVIDIAの方向性

垂直統合アプローチの巨大企業といえばAppleはその典型例の1つでしょう。筆者はNVIDIAがDGXを出したとき、 Appleのような垂直統合を目指すのかと考えました。しかし彼らはDGXの思想をOEM/ODMが量産できる形でHGXとして展開し、多くのサーバベンダが互換機を作るようになりました。

Jensenもキーノートの冒頭でパートナー各社のキーパーソンたちを「スーパースター・チーム」として紹介しましたし、スピーチの端々で台湾ベンダに触れるたびに強調し、オール台湾体制をアピールしていました。

写真7 フィギュアを使って紹介された「パートナー各社とのスーパースター・チーム」

HGXの後に登場したラックシステムであるNVL72についても、今、複数の互換機ベンダがMGXアーキテクチャに合わせたラック製品や冷却パーツを市場に出しています。

写真8 COMPUTEX会場入り口に展示されたMGX製品群

NVIDIAの垂直統合アプローチは、多くの企業が共通規格の中で分業・競争する、いわゆる水平分散型の「エコシステム」と共存しているのがおもしろいところです。ただHGXの主要コンポーネントはNVIDIAが供給しており、結果的にOEM各社は差別化要素、独自性などを付加価値として打ち出しにくい商材となりました。MGXでも同様です。

つまり、NVIDIAはGPU(チップ⁠⁠→HGX(サーバ⁠⁠→MGX(ラック)と規定する領域を広げ、垂直統合型アプローチを進めていますが、Appleとは異なり水平分散型のエコシステムを拡げる形をとっています。ただしシステム価値の多くをNVIDIAのコンポーネントが占め、全体価格への影響力も大きい。そういう形の垂直統合ですね。

DSXも同じ構造にあるように思えます。DSXではOEM各社やコンストラクタは「AIシステムを設計する」のではなく「Omniverse上でNVIDIAの推奨構成を最適化」するような状態になるかもしれません。

これは筆者の推測に過ぎませんが、NVIDIAは「アーキテクチャと標準を掌握することで、業界全体を事実上垂直統合する」ことを、そして自社がその中心にいることを指向しているように思えます。そして同社が今後この方向性を推し進めていくことを感じさせるキーノート・スピーチでした。

歴史は繰り返す

なお、筆者はNVIDIAのアプローチを支持あるいは批判したいわけではありません。コンピュータ業界で繰り返されてきたこの種のダイナミズムの1つとして捉えたいのです。この業界は垂直統合と水平分散の間を、ゆるやかに往復します。

古くはIBM System/360互換機の時代から、またPCのコモディティ化が進んだWintel時代などを思い出します。今後、AIの発展を軸にどのような変化が起きるのか、注目したいと思います。

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