PyCon US 2026参加レポート

#01PyCon US 2026カンファレンス前半 ―Python開発のさまざまなフェーズで進む高速化に注目

2026年5月13日~19日にアメリカ、カリフォルニアで開催されたPythonの年次国際カンファレンス「PyCon US 2026」に参加してきたので、その様子を2回にわたってレポートします。

PyCon US 2026とは

PyCon USはアメリカで開催されるPythonに関するカンファレンスです。毎年アメリカの各都市で開催され、2026年はカリフォルニア州のロングビーチで開催されました。

PyCon US 2026のイベント概要は以下の通りです。

項目 内容
URL https://us.pycon.org/2026/
日程 チュートリアル: 2026年5月13日(水⁠⁠、14日(木)
カンファレンス: 2026年5月15日(金⁠⁠~17日(日)
スプリント: 2026年5月18日(月⁠⁠、19日(火)
場所 カリフォルニア州ロングビーチ
会場 Long Beach Convention Center
参加費 個人:469 USD、企業:899 USD、学生:139 USD
主催 Python Software Foundation(PSF)
PyCon US 2026 Webサイト
PyCon US 2026 Webサイト

なお、筆者はPyCon USの現地参加は2019、2023、2024、2025に続いて5回目となります。過去のPyCon USの様子については以下のレポートを参照してください。

カンファレンス前日まで

筆者はカンファレンス2日前の5月13日(水)にロサンゼルス国際空港に到着しました。空港から会場のあるロングビーチまでは車で30分ほどです。友人のJason氏がちょうどロサンゼルス市内から会場に向かうとのことで車に同乗させてもらいました(ありがたい⁠⁠。

途中ランチでIn-N-Out Burgerに立ち寄りました。初めて行ったんですが、アメリカのハンバーガーの割には小ぶりでちょうどよいサイズで味もおいしく、値段もそこまで高くなく、また食べに行きたいなと思いました。

In-N-Outのハンバーガー
In-N-Outのハンバーガー

受付

ホテルに到着したら少し休憩したのち、会場に行って受付で名札を受け取ってきました。名札を受け取るとリボンのコーナーに行って、さまざまなリボンでカスタマイズします。

ただ今回はスピーカーでもないので、つけられるリボンの種類が少なくて、個人的にはさみしい感じです。初参加者は「First Time Attendee」のリボンを付けられるので、会話のきっかけになったりしてよいなと思います。

PyCon USの名札
PyCon USの名札
さまざまなリボン
さまざまなリボン

Newcomer Orientation

カンファレンス1日前の5月14日(木)は夕方から「Newcomer Orientation」があります。このセッションでは、PyCon USの初参加者に向けて、カンファレンスの楽しみ方などを説明してくれます。

この会場はキーノートやライトニングトークなどが行われるメインホールです。写真を見ての通り、字幕が表示されるため英語の聞き取りが難しい私のような人にもありがたいです。

パックマンルールの説明をしているところ
パックマンルールの説明をしているところ

写真はパックマンルール[1]という「輪になって話すときに一人分のスペースをあけましょう」ということについて説明しているところです。⁠30歳以下の人はパックマンを知らなかったり、パックマンを遊んだり、見たこともないと思うけど」と、言われてみればそうですね…。

PyCon USでは通常のトーク発表以外にもいろいろな楽しみ方があります。オープンスペースやスポンサーブース、開発スプリントなどさまざまな催しの紹介、楽しみ方を伝えていました。

Opening Reception

Newcomer Orientationが終わるとOpening Receptionです。Opening Receptionは軽食と1ドリンクが提供され、ビールなどを片手にスポンサーブースを回ったり、いろんな人と話したりできるというイベントです。

スポンサーブースの図を見てみると、GitHub(Microsoft⁠⁠、Meta、Bloombergが一番大きいブースのようです。右上の方にはコミュニティブースもあり、PAO(Python Asia Organization)もここにブースを構えています。

スポンサーブースの地図
スポンサーブースの地図

各ブースではさまざまなデモやグッズの配布などを行っています。とりわけ人気なのがKrakenのぬいぐるみです。以前PyCon JPのスポンサーブースで指人形サイズのKrakenぬいぐるみをもらったことがありますが、今回は高さ20cm弱の小ぶりのぬいぐるみになっていました。私もおみやげ用にゲットしました。

Krakenぬいぐるみ
Krakenぬいぐるみ

Long Beach Beer Lab

この日はLong Beech Beer Labに飲みに行きました。ビールの名前が「This is the Way IPA」⁠BREW of the FATES」⁠May The Shcwartz Be With You」⁠Darth Malt」のようにスターウォーズをもじった名前で私好みです。お店の方に聞いたところ、スターウォーズの日(5月4日)にはイベントが行われるそうです。ただ、缶のラベルが寄せすぎているので、ディズニーに怒られないかが心配です。

This is the Way IPA
This is the Way IPA

カンファレンス1日目

WelcomeとPSF Welcome

カンファレンスのオープニングはPyCon US 2026のChairであるElaine Wong氏によるWelcomeメッセージです。最初に関係者、スポンサーなどへの感謝が述べられました。

Elaine Wong氏によるWelcomeメッセージ
Elaine Wong氏によるWelcomeメッセージ

最初の方で「まわりの会ったことない人と会話してみましょう」というアイスブレイクがありました。筆者は、前に座っていたMark Shannon氏とあいさつをしました。Mark氏はPyCon JP 2022のキーノート[2]だった方で「私が日本から来たこと、Mark氏が日本でキーノートをしたこと、日本にぜひ来てください」といった話をしました(2022のキーノートはリモート発表でした⁠⁠。

ボランティアの募集、会場の説明、PyLadies Auctionの紹介、スプリントなどのイベントの説明がありました。その中でPyCon US 2026での初めての取り組みとして以下が紹介されました。

  • AIトラック(カンファレンス1日目)
  • セキュリティトラック(カンファレンス2日目)
  • Pablo氏によるスペイン語のキーノート(カンファレンス2日目の朝、同時通訳付き)

PyCon USで英語以外のキーノートを行うというのは、挑戦的だと思いました。なお、Pablo氏は英語でも早口なので、母国語のスペイン語だとどんなスピードになってしまうんだろう。通訳は間に合うんだろうか?という感想を持ちました。

Welcomeの後はトップレベルのスポンサーによるショートトークがありました。NVIDIA、Bloomberg、MetaがそれぞれCUDA、Memray、Pyrefly、Lazy imports、Free-threaded Pythonなど、Pythonエコシステムへの貢献について紹介していました。

続いてDeb Nicholson氏によるPSF Welcomeです。Deb氏はPSFのExecutive Directorです。PSF(Python Software Foundation)はPythonの権利を管理する団体です。

Deb Nicholson氏
Deb Nicholson氏

Deb氏からは「魚を与えるだけでなく、釣り方を教えよ」ということわざを引用し、お互いに教えあうことがPythonコミュニティの強みである、と語られました。

PEP 750 - T-strings: safer and smarter string processing

本トークではブラジルからやってきたVinícius氏から、Python 3.14で導入されたt-stringsについて紹介されました。t-stringsについては以下の公式ドキュメントやgihyo.jpの記事を参照してください。

t-stringsでは文字列ではなくTemplateオブジェクトが生成されること、stringsinterpolationといった基本的な構造が説明されました。

トークの後半では具体的なユースケースとしてセキュリティ対策(XSSやSQLインジェクション等⁠⁠、Jinjaなどの代わりとなるテンプレート、ログ出力処理についてあげられていました。ログ出力については、1つのテンプレート文字列から人が読みやすいテキスト形式のログと、コンピューターが読みやすいJSON形式のログをそれぞれ出力するという例を、サンプルコードを交えて解説していました。

ログ出力の出し分けは、なかなか実用的だなと感じました。今後どこかで使用するかもしれません。

What's so hard about writing a type checker? A tour of ty

本トークではAstral社のエンジニアであるCarl Meyer氏から、Pythonの静的型チェッカーtyの内部構造について解説がされました。tyは高速な型チェッカーであり、高速に動作するためのアーキテクチャーやさまざまな工夫について語られました。

ty公式ドキュメント
https://docs.astral.sh/ty/
Carl Meyer氏
Carl Meyer氏

tyの設計上の目標は高速に動作することであり、そのためにlaziness(怠惰)の原則に基づいて開発されています。ここでいうlazinessは「不要なことはせずに、必要なときに行う(遅延処理する⁠⁠」ということです。

tyではコードの依存関係グラフを持っています。そしてtyの実行時に変更された箇所を検知し、その箇所に依存しているコードのみを型チェックの対象とします。

また内部ではRustのSalsaを使用して自動的に情報のキャッシュが行われ、同じ入力を与えた場合にはSalsaは再計算を行わずにキャッシュから結果を返します。また、依存グラフもSalsa内にあるため、必要な場合にはキャッシュを自動的に無効化します。

tyを高速に動作させるためにはただ単にRustを使っているというだけでなく、いろいろと内部のアーキテクチャでも工夫をしているということが感じられるトークでした。Astral社のツールはRuffuvも高速に動作しますが、それぞれのさまざまな工夫を知ることができました。

ランチ

ランチはビュッフェ形式です。生野菜のサラダ、野菜のロースト、パスタ、チキン、デザートなどがメニューとして用意されています。アメリカ滞在中はなかなか生野菜を食べる機会がないので、とてもありがたいです。

ランチはビュッフェスタイル
ランチはビュッフェスタイル

ランチのあとは企業ブースを回りました。Metaのブースではコーヒーを提供していたので、その列に並びました。列で待っている間にクイズに答えると、おまけでクッキーがもらえます。クッキーには静的型チェッカーPyreflyロゴが印刷されてました。

Metaブースのコーヒー(左)とPyreflyクッキー(右)
Metaブースのコーヒー(左)とPyreflyクッキー(右)

The Bakery: How PEP810 sped up my bread operations business

Python 3.15で導入されるlazy importを使用して、サンプルのCLIプログラムが速くなることを確認し、どのようにlazy importを導入するとよいかという話がされました。lazy importについては以下の公式ドキュメントを確認してください。

Jacob Coffee氏
Jacob Coffee氏

サンプルプログラムのbreadctlというCLIを使用してトークが進められます。コードは以下のGitHubにあります。

まず問題点とPythonの起動が遅いということが述べられました。--helpオプションを指定してヘルプを表示するだけで234ミリ秒がかかっています。これは起動時に全てのモジュールをimportしているために発生しています。

PEP 810で提案されたlazy importはPython 3.15から追加されます。以下のように書くとそのモジュールにアクセスしたときに、初めてimportされます。

normal.py
# 起動時にすべてロードされる
from breadctl import bake
from breadctl import deliver
from breadctl import inventory

# それぞれ以下のモジュールが中でimportされている
# bake: collections、itertools
# deliver: httpx
# inventory: sqlite3
lazy.py
# アクセス時にロードされる
lazy import breadctl.bake as bake
lazy import breadctl.deliver as deliver
lazy import breadctl.inventory as inventory

lazy importはどのように動作しているのでしょうか。まず解析フェーズではLazyModuleプロキシを作成します。この段階ではモジュールは読み込まれていません。

httpxをlazy importする
lazy import httpx

そして、実際にhttpxモジュールを使用するときに、はじめてモジュールが読み込まれます。

httpxが読み込まれる
response = httpx.get(url)  # httpxがここで読み込まれる

最初の--helpオプションのlazy import版を実行すると、234ミリ秒から164ミリ秒と、70%の起動時間になりました。

lazy importの活用する場所としてテスト実行の高速化、サーバーレスでの起動、CLIアプリケーションへの活用などがあげられました。

大量のテストコードがある場合には確かに有効そうです。Python 3.15に移行したあとにlazy importを試してみたいと思いました。

Free-threaded Python: past, present and future

本トークではPythonからGILを取り除くフリースレッドの状況について共有されました。スピーカーのThomas Wouters氏は3.12と3.13のリリースマネージャーであり、Python Steering CouncilのメンバーでもあるというPython開発の中心人物の一人です。Thomas氏はMetaに勤務しており、業務としてフリースレッドに取り組んでいるそうです。

Thomas Wouters氏
Thomas Wouters氏

Pythonで並行処理を行う方法としてマルチプロセス、サブインタープリター、asyncioなどがあるが、フリースレッドにもメリットがあるということが語られました。マルチプロセスは各プロセスが独立して動きますが、プロセス起動やプロセス間のデータ受け渡しにコストがかかります。サブインタープリターではインタープリターが独立するためGILの制限を受けませんが、別のインタープリターであるためデータの受け渡しコストがかかります。asyncioはスレッドやプロセスを作成するオーバーヘッドがなく軽量ですが、シングルスレッドで動作しているため、CPU負荷が高い処理は同時に実行できません。

フリースレッドは複数のスレッドでPythonが同時に動作し、メモリも直接共有するためデータ受け渡しのコストは低いです。ただし、フリースレッドに対応していないモジュールは使用できないという問題があります。

また、Pythonがフリースレッドに対応するまでの長い道のりが紹介されました。2013年のPyParallel、2015年のGilectomyを経て、Sam Gross氏が2021年にPython 3.9からGILを取り除いたPoC(概念実証)を作成しました。この経験を元にPEP 703でCPythonでGILをオプションにする提案を行い、Python 3.13からフリースレッドが利用できるようになりました。

なお、Sam Gross氏がNoGILについて発表しているEuroPython 2022のキーノートを筆者が以前レポートしています。4年前の発表から現在のPythonまで地続きになっていることが感じられます。

ライトニングトーク

カンファレンス1日目の終わりはライトニングトークです。以下の様なトークがありました。

  • PyCon USに来ていろんな人とセルフィーを撮って友達を作るという話。LinkedInSnapというWebアプリも紹介
  • 求職活動でAIを使って嘘の情報を出す人が増えている話。PyCon USに参加しているときに写真などの証拠を残そう
  • PyCon USで字幕を付けている人のトーク。特殊なキーボードを使用して高速に入力しているとのこと
  • CUMBUCA DEV:ブラジルのマイノリティの開発コミュニティ。ポルトガル語のgithubの本を出したり。CUMBUCAはBOWLのこと
  • たくさんのAIエージェントだと結局混乱する話
  • ハロウィンの動く装飾をRaspberry Pi ZeroとPythonで作成している話(参考:Aspiring Roboticist's Profile | Hackaday.io
  • 韓国のSeongsoo Cho氏が、PyCon Koreaのスプリントの経験から自身がはじめた、オープンソースのメンターを育てる活動
特殊なキーボード(写真右の字幕は他の字幕スタッフが入力している)
特殊なキーボード
Seongsoo Cho氏
Seongsoo Cho氏

パーティーへ

カンファレンス終了後は企業主催のパーティーに参加しました。カンファレンス中はいくつかのスポンサー企業が主催したパーティーが開かれています。私はCapital Oneのパーティーに参加しました。知らない人に声をかけられたと思ったら、アジアのどこかのPyConで一緒に飲んだことがある方でした(髪が短くなっていてわからなかった⁠⁠。

パーティーの様子
パーティーの様子

パーティーにはあんまりいいビールがなかったので、アジアメンバーを中心に声をかけてISM Brewingに飲みに行きました。日本、韓国、香港、アメリカと多国籍な感じで楽しくビールを飲みました(いつものこと⁠⁠。

ISM Brewingでビールパーティー
ISM Brewingでビールパーティー

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