AI時代のロボット開発と「やわらかい手」関係 ――第2回関西ロボデックスレポート

2026年の5月13日から15日にかけて、インテックス大阪にて第2回関西ロボデックスが開催されました。

本イベントは「ファクトリーイノベーションWeek」の一部として行われました。筆者はロボット産業の現場感を得るためにロボデックス会場を集中して回り、いくつか興味深い出展を見ることができました。本稿ではそれらを簡単にレポートします。

TETOTE⁠Softrobotics Venturesのロボットハンド

写真1 TETOTE

ブース展示も大盛況で、筆者が最も興味を惹かれたのが、このロボットハンド(アームの先につける把持装置)でした。

写真2 TETOTEブースのロボットハンド

技術的には人工筋肉と呼ばれる種類のもので、アラミド繊維のさやの中に空気を送り込むことで、指のように一定方向に曲げられます。会場では何種類かのユニットで実演されていました。

写真3 TETOTEブースでの実演の様子

3年ほど前から比較的小さな部品を「柔らかな指」でつかむ用途に向けて開発を始め、すでに自動車工場などで実用されているとのことです。会場では大型の6本指ユニットを用いて14Kgもあるトランスミッションケース(ハウジング)を持ち上げるデモが注目を浴びていました。

詳細はこちらのYouTubeも併せてご覧ください。

Softrobotics Venturesはブリヂストンの社内ベンチャーであり、アラミド繊維もゴムコーティングも世界最高レベルの技術的蓄積が得られます。また開発ターゲットかつ導入先として自動車会社と密に協力できるという、普通のスタートアップではなかなか得られないポジションです。今回の展示はそのメリットを活かした大変に説得力のある構成になっていました。

ソフトロボティクス

担当者にいくつか開発経緯などを聞けたのでまとめておきます。

もともと人工筋肉的なものはかなり昔から(1950-60年代)あり、それらは当初防塵などの用途で価値があったが、技術の進歩とともに、そのニーズは薄れていったのだそうです。

それが今また「ソフトロボティクス」の文脈で見いだされ、表舞台に出てきているとのことです。

会場では「協働ロボットとして安全なものができた」点も強調されていました。把持機構として爪のようなものでガッチリ握るタイプはやはり危ないところがあります。ソフトロボティクスの応用ではそうした「精密さより安全性」⁠状況に合わせて柔らかく対応」といった面に価値があります。

この「精密に位置決めする機械」から「その場の状況に適応する柔軟な制御」への転換は、従来的な産業用ロボットが不得意な領域にヒューマノイドが展開していく動きとも重なります。

このTETOTEの柔らかい「手」を見ていると、これがそうした領域に対して、産業用ロボットの市場を拡げる「アダプタ」となる可能性を感じます。

たとえばつい先日Figure AIがデモしていた、十時間を超える連続「仕分け」業務のライブ実況を思い出して欲しいところです。これなどTETOTEをつけたFANUCのアームで代替できる可能性がありそうです。

ソフトウェア

ひとつ気になったことがあります。TETOTEは現在、このハンドユニットをハードウェアとして販売するだけで、ソフトウェア制御は顧客あるいはロボット向けのSI(システムインテグレーション)業者が行うのだそうです。比較的単純な制御で十分とのことですが、現時点ではそれだけでも十分価値が出せているということなのでしょう。

ところで、従来的な産業用ロボットの多くは「精度高く再現性が保証された環境」を前提とする決定論的な制御ベースで発展してきましたが、Figure AIやTeslaがHumanoidで追いかけているのは、環境変動を前提とした「確率モデル的な制御」だと言えます。

そこでは「学習」の重みが非常に大きく、現場での学習量が開発速度に決定的に効きます。TeslaやAmazonのような垂直統合型企業がヒューマノイド開発競争に有利と考えられる大きな理由の1つでしょう。

対して関西ロボデックスの会場では、中小規模のユーザ企業を対象としたSI事業者が、画像処理やロボットティーチングソフトウェアなど各部材を組み合わせてシステムを組む「水平分業型」のシステム展示が多く見られました。

そうした環境の中でTETOTEがハードウェアを提供し、ソフトウェアを自社で扱わないことは合理なのでしょう。しかし、筆者の理解ではソフトロボティクスを含む応用では、その柔らかさが誤差を吸収することで従来的な産業用ロボットが不得意な領域へ展開しやすくなります。ただそれにしても、従来型産業用ロボットにTETOTEを部品として付けただけでカバーできる領域は限られるでしょう。適用範囲がさらに広がれば、その先ではTETOTEを付けた状態での「確率モデル的な制御と学習」が徐々に必要になると想像します。

先にTETOTEは従来的な産業用ロボットの「アダプタ」となる可能性を示しましたが、それだけでなく、従来型の産業用ロボットに対してソフトウェア中心・学習主体の開発アプローチの重みを徐々に高めていく際の仲介役となる可能性もありそうです。両者をむすぶ、あるいは境界領域を埋めるようなポジションです。さまざまな意味で興味深いデモ展示でした。

他の展示

これ以降はロボデックスエリアに限らず、当日見た展示のなかで印象に残ったものを幾つか紹介したいと思います。

ロボットSI事業者の例

本稿の前半で、関西ロボデックスでは主に中小規模ユーザを対象としたロボットSI事業者が多いと述べました。その典型例として印象に残ったのがRoboFull社です。

写真4 RoboFull社ブースで行われていた「ばら積みピッキング」デモ

この「ばら積みピッキング」デモでは、雑に積まれたプレートを画像処理で位置決めして取り上げ、隣の棚に整列させていました。ロボットアームはFANUC、3Dカメラと経路計画・制御ソフトと、実際にロボットに命令を出すコントローラ(PC)はMECH Mind社製です。RoboFull 社は機器販売とインテグレーションを行っています。

今回の構成ではMECH Mindのシステムが画像処理から経路計画(腕の各関節をどのように動かして周囲と衝突などせず目的を達するかをシミュレーションする⁠⁠、FANUCのアームに命令を出すところまでカバーしています。

興味深いのは安川など他のロボットにも対応しますが、共通APIやプロトコルなどはなく、MECH Mindがそれぞれ個別に対応していることです。そもそもロボットの関節の数や可動域はモデルごとに異なりますが、それもすべて個別対応していると言います。

このあたりは標準規格や互換性の世界で過ごしてきたコンピュータ屋の筆者からは不思議に思えるのですが、産業領域ではそういったことが多いようです。

たとえば3次元CADであるiCADも同様で、配置する設備のデータなどに幅広く個別対応していることが差別化要因、競争力でもあるという説明でした。

写真5 iCADのブース

メータ読み取り

会場にはメータ読み取りロボットがいくつかあったので紹介します。

ASmart

ASmartはメータに直接とりつける、IoT的なソリューションを展示していました。

写真6 ASmartの展示

4G/LTEのSIMを入れてクラウドにデータを間欠的に送る運用形態で、二酸化マンガンリチウム電池を入れた状態で月に1回の送信、つまり検針のような使い方では5~8年程度もちます。これが毎日になれば5年程度、毎時間では3~5ヵ月程度になるとのことでした。

6年目で社員15名程度、ソフトだけでなくハードも深圳の工場と交渉しながら自社で作る、典型的なスタートアップです。

ugo

もう1つ、ugoは読み取りをする機能を付けたロボットを展示していました。

写真7 ugoブースに展示されていたメータ読み取りロボット

2024年のロボット大賞優秀賞を受賞しており (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000089.000034305.html) 、遠隔操作だけでなく自律走行も可能で、警備を兼ねたモデルもあります。

工場でメータが多数並んでいるようなところへは導入しやすそうです。

ミリ波無線

加賀電子グループが無線中継装置SwiftWaveを展示していました。

写真8 無線中継装置SwiftWave

60GHzのミリ波帯を用いて500Mの距離を1Gbpsで接続可能です。カバーの下で見えませんが、フェイズドアレイアンテナを用いたビームフォーミングによる一対多接続が可能です。

この周波数帯の規格としては802.11adやその後継の802.11ayがありますが、この製品がどちらに対応しているかは明示されていませんでした。

いずれにしても免許・許可申請などが不要であることと、その高速・低遅延な性質から高速PLC制御などが提案されていました。

おわりに

今回は主にロボット関連の展示を見ましたが、他にも多くおもしろいものがありました。

たとえば液体レンズによるオートフォーカス・カメラ(株式会社プラックスでのデモ、レンズはコーニング社製)がありました。液体レンズで筆者が真っ先に思い出したのはオートフォーカスのメガネ、 VIXIONです。こうしたおもしろい応用が増えていくことを期待します。

写真9 株式会社ブラックスのオートフォーカス・カメラSwiftWave

他にもプラズマ加工のエリアでは目の前でプラズマの加工機が(おそらく)600度の炎を上げていて驚きました。IT系の技術展示会では見ないというか、異なる領域の展示会は勉強になることが多いですね。今回も見て回った甲斐がありました。

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