「AI博覧会 名古屋」レポート

「データサイエンティストの役割は⁠分析から価値創造へ」
――JAL⁠マイナビ⁠データサイエンティスト協会が語る⁠生成AI時代のデータ人材の現在地

2026年6月16日、名古屋コンベンションホールで開催された「AI博覧会 Nagoya 2026」において、⁠AIと共に拓くデータサイエンティスト -分析から価値創造へ-」と題したセッションが行われた。登壇したのは、日本航空株式会社 マーケティング戦略部 顧客データ戦略室の森口 翼氏、株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室の羽田野 佑奈氏、一般社団法人データサイエンティスト協会 事務局長・スキル定義委員会副委員長の佐伯 諭氏の3氏。
本レポートでは、同セッションとその後の取材をもとに、生成AIによって広がりつつあるデータサイエンティストの役割と、事業・経営にインパクトを生むために求められるスキルを整理する。

日本航空株式会社 森口氏
左からマイナビ 羽田野氏、データサイエンティスト 佐伯氏

「最もセクシーな職業」から十数年⁠環境は大きく変わった

データサイエンティストは2010年代、⁠21世紀で最もセクシーな職業」と呼ばれた。ビッグデータの活用が広がるなか、データを読み解き、モデルを作り、意思決定につなげる人材への期待の高まりを象徴する言葉だった。

それから十数年の間に、データサイエンティストを取り巻く環境は大きく変わった。生成AIの普及により、分析コードの作成、データ加工、レポートの下書きといった作業は、以前より速く進められるようになった。エンジニアのコーディングがAIによって変化したのと同様に、データサイエンスの現場でも、専門的な作業とされてきた領域の一部が自動化されつつある。

「かつては、分析加工や特徴量設計が業務の8割を占めると言われていました。今はそこがすぐに終わる世界になっています」⁠森口氏⁠⁠。

こうした変化を受け、データサイエンティスト協会は2025年11月25日、⁠協会12thシンポジウム」において、生成AIやAIエージェントの台頭を踏まえてスキル定義の指標を全面的に見直したデータサイエンティスト スキルチェックリスト ver.6を発表した。2023年公開の第5版から約2年ぶりの改訂となる。あわせて2025年12月には、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が定める「ITSS+」「データサイエンス領域」におけるタスクリスト ver.5も更新された。セッションでは、この改訂を軸にデータサイエンティストの役割の変化が語られた。

「3つの力」から「5つのスキル」

データサイエンティスト協会はこれまで、データサイエンティストを「データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル」と定義し、⁠ビジネス力」⁠データサイエンス力」⁠データエンジニアリング力」の3つを必須スキルセットとしてきた。ver.6ではこの構成そのものが刷新され、5つのスキルへと再編されている。

1つ目は、従来の「ビジネス力」を再定義した「価値創造力」だ。協会の説明によれば、課題の再定義、意味設計、社会実装、ガバナンス、スケール展開までを体系化したスキルとされる。分析の入口でビジネス課題を整理するだけでなく、実装後にどう組織へ定着させ、成果を広げていくかまでを含む点が従来との違いだという。

2つ目は新設された「融合スキル群」である。データサイエンス(DS)とデータエンジニアリング(DE)の境界をまたぐAI実装スキルを、独立したレイヤーとして再編したもので、生成AI、AIエージェント、マルチモーダル、IoT、AI・データガバナンスといった横断領域を束ねている。

3つ目は新設の「基盤スキル」だ。論理思考、行動基盤、システム・データ理解、AI基礎理解といった、データプロフェッショナルに共通する土台となる力を統合・整理したものとされる。

これに従来からの「データサイエンス力」⁠データエンジニアリング力」を加えた5つが、ver.6のスキル構成となる。スキル項目数も、旧版の650項目から845項目へと195項目増えた。

佐伯氏は、この再編の背景を次のように語った。⁠⁠企業の事業成功には、モデルの精度だけではなく、価値創造・組織変革が一層必要です。LLMやAIエージェントの開発においても、何を解くべきかという課題の再設計や、ガバナンスが成果の中心になっている。データサイエンティストも分析ができるだけでは、事業貢献に繋がらない時代です⁠」⁠。

一直線から循環へ――AI利活用タスクリストの刷新

スキルチェックリストと対をなす「AI利活用タスクリスト」も、大きく姿を変えた。従来は「構想・設計・構築・運用」といった直線的な工程で整理されていたが、ver.5では「構想・探索」⁠設計」⁠構築・運用」⁠適用・進化」という循環型のプロセスへと移行したという。

森口氏によれば、価値創造は一度のプロジェクトで完結するものではなく、実装後も現場に適用しながら改善を回し続けるものだという。森口氏自身もこの「適用・進化」に挑戦してきた一人。2021年、コロナ禍で航空業界が大きな打撃を受けていた時期に入社し、当時所属していたマイレージ事業部で、新規サービスとなるアプリの企画を提案し、事業化まで推進した経験を持つ。

「既存のビジネスモデルから脱却し、新しいモデルを作るというスキルには、今も挑戦し続けています」⁠森口氏⁠⁠。

価値の中心は「分析の前後」

生成AIの普及により、従来の分析業務は自動化・コモディティ化が進みつつある。だからこそ、データサイエンティストの価値は、分析そのものだけでなく、その前後にある課題設定や業務理解へと広がっている。そこで重要になるものとして語られたのが「ドメイン知識」だ。

森口氏は、その例として、航空機整備のように、高度な専門知識を持つ現場のプロフェッショナルの同僚の存在を挙げた。こうした現場で培われた経験やノウハウは、汎用的なAIだけでは十分に補えない。今後は、現場の知識とAIをどう組み合わせるかが、価値を生み出すうえで重要になるという。

そのため、データサイエンティストには、データを扱う力だけでなく、⁠事業に詳しいプロフェッショナル」と深く協働する力も求められる。

AI時代に重要になるドメイン知識

AIによって多くの作業が支援されるようになっても、簡単には代替できないものがドメイン知識だ。

業界特有の商習慣、現場の機材の癖、顧客との関係性、社内に蓄積された暗黙知、公開情報には出てこない企業固有の事情。こうした知識は、インターネット上の情報を学習したLLMだけでは補えない。

佐伯氏は取材のなかで、今後AIやロボットが入り込んでいく領域の例として第一次産業を挙げた。センサーデータなど特定のドメイン知識を持った人材が、その領域でこそ立ち向かえるという。

世代ごとに異なる⁠AIとの向き合い方

セッションでは、AI時代におけるデータ人材の役割を、世代や立場ごとにどう捉えるかについても話題にあがった。

データサイエンティスト協会の立ち上げから関わってきた佐伯氏は、すべての人が同じようにリスキリングや転職を急ぐ必要はないとしたうえで、それぞれの経験や役割に応じたAIとの向き合い方があると語った。

「若い世代には、生成AIやAIエージェントといった新しい技術を積極的に試し、実務に適用していく役割が期待される。既存の業務や産業構造を変えていく推進力を担う立場といえる。
中堅層は、現場と経営、技術と事業、若手とベテランをつなぐ立場にある。さまざまな役割が集中する難しさはあるが、組織の中でAI活用を前に進める要として価値を発揮しやすい立場でもある。
経験を積んできた人には、無理に新しい技術へ飛びつくことよりも、長年培ってきたドメイン知識を活かす役割が期待される。現場の知識や業務の勘所を若い世代に共有し、AI活用を進めるうえでの倫理やガバナンスにも目を配る役割だ」⁠佐伯氏⁠⁠。

若い世代のデータサイエンティストという立場から登壇した森口氏と羽田野氏は、データ加工や分析作業の効率化を日々実感しているからこそ、⁠いかに事業に価値を返すか」へと関心が移っていると語った。

また、羽田野氏は、AIの普及を踏まえた若手の仕事観の変化についても触れた。⁠AIにできる業務を、今から習得する気にはならない。自分だからできる業務に注力していきたいというのが本音です⁠⁠。だからこそ、企業が採用時に見るポイントも変わりつつあるという。⁠物が作れるという知識を前提としつつも、新しい技術をどんどんキャッチアップできる吸収力や探求心を、より重視する場面が増えていると感じます」⁠羽田野氏⁠⁠。

まとめ

生成AIによって分析作業の一部が自動化される一方、課題の再定義や価値の設計、AI・データの現場への定着、リスクやガバナンスへの目配りといった、より上流の役割が求められるようになっているという。

2025年11月のスキルチェックリスト改訂と、同年12月のタスクリスト改訂は、こうした役割の変化を反映したものとされている。

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