写真で2026年のCOMPUTEXを振り返る

先端GPUを支える電力供給と冷却技術(後編)

前編ではおもに冷却関連の展示を紹介しました。本稿では冷却と対をなす電力供給について、COMPUTEX会場の展示とセッションについて、前編同様に写真を中心に見ていきましょう。

200kWラック

NVIDIAのVera Rubin NVL72 ラック(写真1)の消費電力は200kW台と言われています。

写真1 ASUSブースのVera Rubin NVL72液冷ラック

これでも冷却は大変なのですが、NVIDIAのKyberと呼ばれる次世代ラックシステムは600kW台になると発表されています。

600kWのKyberラック

Kyberラックについて紹介します。Kyberラックの構造がよくわかるよう、2026年1月のCES 2026に展示されていたKyberラックシステムを示します。前面にコンピュートブレードが縦に並び、鏡越しに背面にNVLinkスイッチブレードが縦に接続されているのがよくわかりますね(写真2⁠⁠。

写真2 CES2026でのKyberラック展示

ラック中央にはミッドプレーンと呼ばれる基板(写真3)があり、前面から差したコンピュートブレード、背面から差したNVLink スイッチブレードはこれに接続されます。ラック中央にこんな板を立てると一切空気が流れませんから、全ての部品の冷却を液冷に預けることになります。

写真3 ミッドプレーン

コンピュートブレードはこんな形(写真4)で、上側のコネクタ群でラック中央に配置されたミッドプレーンに接続されます。電力や通信などはすべてコネクタ経由で配線作業などはありません。

写真4 コンピュートブレード

Kyber は現在も開発が続けられており、今回のGTCの展示では、スイッチブレードが縦に倍のサイズになり、接続形態が大きく変わったものが出されていました。⁠写真5)

写真5 NVLinkスイッチブレード

また Kyber ラックに搭載するブレードの種類は幾つかあり、今回の展示では最も大規模な構成となる NVL 144 ラック(写真6)が展示されていました。ここではコンピュートブレードも縦に倍のサイズになっています。

写真6 Kyber NVL 144ラックの展示

ところで筆者はネットワーク関連技術が専門なのですが、インターコネクトである Kyber のミッドプレーンの分厚さ(写真7)には驚きました。

写真7 ミッドプレーンの厚み(なお表裏両面にコネクタがある)

すべてのブレードを相互接続するためとは言え、一体この基板は何層ですかと説明の人に質問したら72層だそうで、二度びっくりしました。こんな多層基板は見たことありません(なお最近出た他の記事では78層という説明もあり、また、NVIDIA自体は公表していないと思いますのでその点ご注意ください。まあ72でも78でも普通でないことは間違いないです⁠⁠。

MW Rackと800V給電

Kyberの消費電力は最初の世代でも600kWと言われていますが、その先を見据えて、会場の展示やセッションプログラムでは、1MW級ラックをターゲットにした電力供給の発表がいくつも見られました。

データセンターの電力設備における有力企業であるSchneiderのJim Simonelli氏(SVP and CTO, Data Center Segment)によるセッションのタイトルは、そのまま「Powering the Megawatt Era(メガワット時代の電力供給⁠⁠」でした(写真8⁠⁠。

写真8 Schneiderの電力供給に関するセッション

セッションでは冒頭「新しいGPUは新しい電源アーキテクチャを要求する」と示されました(写真9⁠⁠。NVIDIA自身は新しい世代のGPUに合わせてKyberのような新しいラック構造を開発・提案していますが、半導体の大規模化と実装密度の向上に対応するために電源設計もまた新しくなる、ということです。

写真9 新しいGPUは新しい電源アーキテクチャを要求する

この問題におけるキーワードの1つが800V DC(直流)給電です。実際、展示会場ではこの800V DC給電の展示がいくつもありました。写真10はGIGABYTEブースのNVL72ラック展示で、隣に800VDCラックが置かれています。ここで50V程度の直流に変換して、サーバラックに供給します。

写真10 GIGABYTEブースの800V DCラックの展示

また、会場入り口では800V DCに対応した各社のアナログボードが多数展示されていました(写真11⁠⁠。

写真11 800V DC関連の部品群

一般的なコンピュータは100~200V程度のAC(交流)電源に接続し、筐体内で必要な電圧の直流を取り出しています。各マシンでのAC/DC変換は効率が良くないため、大電力システムではラックに200~400V程度のACを入れ、ラック内で54V DC(48Vの場合もある)に変換してサーバに供給するものが普及しています。

そして近年のさらなる大電力化に対応するために、AC/DC変換をラック内で行わず、直接800V DCをラックに入れるものが出ています。写真10のGIGABYTEラックもその1つですね。

Schneiderのセッションでは800V DCをラックに直接入れるソリューションが2種類紹介されました(写真12⁠⁠。

写真12 800V DC給電ラックの構成

上段の構成は400あるいは800V DCをラックに入れ、ラック内の電力供給ユニットで48Vに降圧してサーバに給電するものです。これで800kWまで対応できるとのことですが、48Vが通るバスバー(金属の棒)は大電流による発熱のために液冷とされていて、あまり簡単な話でないことがわかります。

下段の構成は800Vを直接サーバ筐体に入れて、筐体内で降圧する構成で、これなら2MWまで対応できる、とあります。そのターゲットとしてKyberラックが描かれていますね。

800Vから0.8Vへ

Schneiderは電力施設・設備の企業で、サーバ内で800Vから降圧する部品を作っているわけではありません。ここからは電源用の半導体(パワー半導体)を作っているInfineon TechnologiesとMonolithic Power Systemsのセッションを紹介します。

写真13はInfineon社によるセッションで、Adam White氏(Division President Power and Sensor Systems)が、やはり2028年にはMW級ラックが現実になる、とアピールしていました。

写真13 Infenionによる1MWラックの予測

ラックの消費電力が上がるにつれて、それに対応した設計、またそのためのチップが登場し、より高い電圧の直流がサーバマシンの近くまで直接届けられることが示されました(写真14⁠⁠。

写真14 世代ごとの電力供給技術の変化

写真15は大電力ラック実現の主要技術である、800V DCから、より低い電圧へ降圧するモジュールです。

写真15 大電力ラックシステム向けの2種類の電源モジュール

上段は50VクラスのDC電源から12V DCを取り出す2.5 kWの電源モジュールで、GB300世代あたりのシステムが使うものです。下段は次世代システム向けの800Vモジュールで、10kWを直接6V DCに変換します。10kWを6Vとなると、10,000W/6V=1,667A(アンペア)となり、ものすごい電流を扱うことになります。

出力密度1.6 W/mm²から逆算して実装面積は約6,250 mm²、写真から8cm×10cm程度と思われるこのモジュールで極めて大きな電力を処理するのです。

現在のCPUやGPUの動作電圧は1Vを切っていますから、この6Vから0.8V程度に更に降圧します。これまでそれはCPUやGPUのすぐ脇に配置された電圧レギュレータモジュール(VRM)で行っていました。

たとえばASRockブースで展示されていたRubin NVL8のCPUボード(写真16)では、Vera CPUのすぐ脇(左右)にVRMを構成する小さな各種部品が並んでいます。

写真16 NVL8のCPU基板

Infineonのセッションに戻ります。そこでは垂直給電(VPD - Vertical Power Delivery)と呼ばれる手法のためのチップが紹介されていました(写真17⁠⁠。

写真17 垂直給電のためのチップ

1Vに降圧するVRMをGPUの「すぐ脇」に配置するのは、GPUコアまでの距離を短くしたいからです。仮にGPUの電力を1kW、動作電圧を1V とすると電流は1kAに達し、配線距離による抵抗が無視できません。ところが最近のGPUではコアに隣接してHBMを配置しており、GPUパッケージの「横」から水平方向に電力を届けるのでは GPUコアまでの距離が遠くなりがちです。そこでGPUを載せた基板の「裏」に電源モジュールを配置し、配線距離を詰める垂直給電が進められています。

VRMは発熱が大きいため、基板裏側にも液冷プレートが必要になります。そのためInfineonは3mm以下と背が低いことをアピールしていました。また電流密度が2.5 A/mm²ですから、20mm×20mm = 400mm²で1kAとなり、チップ(裏側の)面積と合わせて考えると、kWクラスの大型GPUをターゲットとした製品であることがわかります。

10kWチップを目指して

以上、次世代とも言える1MWラックシステムのための話題をいくつか紹介しました。しかしチップの大規模化は止まりません。ここで先進的な電源モジュールを作るMonolithic Power SystemsのJinghai Zhou氏(SVP, Cloud Computing)のセッションを紹介します。タイトルはそのものずばり、⁠Path Towards 10kW xPU Power Delivery ⁠10kW xPU 電力供給への道⁠⁠」です。チップあたり10kWです。

Zhou氏は「2029年までに、単体GPUの電力消費は10kWに達する」と言います(写真18⁠⁠。

写真18 2029年までにGPUは10kWに達する

それへの対応として、800V DCに最適化したMIVR(モジュール統合型電圧レギュレータ)を発表しました。⁠写真19)

写真19 今回発表したMIVR

MIVRという概念自体は以前からありますが、これはとくに800V DCラックと6Vの中間電圧に最適化したものです。6Vから直接0.6あるいは0.8Vを生成し、パワーデバイス、コンデンサ、インダクタなどが高さ2mmに収められています。その上で電流密度は4A/mm²もあり、GPU裏面への垂直給電が目的です。講演ではその実装方法として断面図が示されました(写真20⁠⁠。

写真20 MIVRを埋め込んだ基板の断面図

一番上がGPUパッケージで、緑がマザーボードです。MIVRはその間にあり、GPUパッケージ側に端子を接しています。反対側は基板に埋め込まれた銅ブロック(黄色)に接触しており、MIVRから下部のコールドプレート(水色)へと熱を逃がす構造です。

写真21はこのMIVRを使って800Vで動作する20kWのコンピュート・トレイの構造図です。

写真21 20kW 800VのCompute Tray

10kWの ASIC(CPUやGPU)二基それぞれと、緑の基板(銅が埋め込まれている)の間に複数の MIVR が挟み込まれ、それら全体が上下からコールドプレートで挟まれていることが分かります。また、基板の横に800V を6Vに降圧するPDB(Power Distribution Board)があり、ラック内に800V DCを直接入れる次世代のメガワット級AIラックの高効率な実装例となっています。

おわりに

本稿ではCOMPUTEXの展示とセッションを中心に、高電力AIシステムへの電力供給の関連技術をざっとまとめました。AIの急速な発展はGPUそのものだけで実現しているのではなく、こうした電源・冷却・実装の技術開発が重要な支えとなっていることを感じます。来年のCOMPUTEXでこうした技術がどのような発展を遂げるか、楽しみにしたいと思います。

このあたりの電気(とくに強電)や物性の専門性の高い領域は、いずれも筆者の専門外なのですが、それでもセッションの内容や展示での担当者との議論はどれも興味深いものでした。専門外の技術を見るのは楽しいものですね。

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