3DP ジャングル

差動機構の仕組みを理解して差動装置をプリントしよう

前回は傘歯車をAIと協業しつつ作る方法を解説しました。記事の最後では、曲がり傘歯車も作成することができました。そこで今回は差動機構の解説と作成をしてみます。また、少しだけ3DPでベアリングを使う際のコツもお伝えします。

差動機構について

差動機構とは、定義上は「複数の部分に対して振り分ける動力に差をつける装置」のことを言います。具体的には自動車などの左右の車輪などをイメージしてみてください。もっとも単純な仕組みでは左右の車輪はひとつの軸を共有しており、左右どちらも同じ回転スピードで動きます。ですが、以下の図のように、カーブを曲がることを考えてみてください。

車がカーブを曲がる際の概念図

カーブには車道分の厚みがありますので、外側を通る車輪と内側を通る車輪ではカーブを曲がる際に移動しなければいけない距離に明らかに差があるのが図からわかります。その際、内側の車輪と外側の車輪が同じスピードで回転していては、同時にカーブを曲がり切れないのは自明です。

そこで車輪をつなぐ軸の間に差動機構というものをいれると、外側の車輪より内側の車輪が遅く回転していたとしても全体として正しく機能するようになります。差動機構によって、車輪の回転スピード、すなわち移動距離を調節し、スムーズにカーブを曲がれるようにしているわけです。

歯がストレートな傘歯車でも差動機構は作成できるのですが、通常は曲がり傘歯車のほうが高速回転時の性能が良いためそちらを使います。折角作るなら曲がり傘歯車を使いたかったので、前回曲がり傘歯車を3DPで作れた時点でようやく作ってみたという次第です。

ちなみに古代の戦車(ローマ時代の映画などで見るような牛馬で引くタイプのもの。英語でいうchariotなどはこのような機構がなく、カーブを高スピードで曲がるとき車輪は回転差がロックされた状態で横滑りしながら御者の力とバランスで無理やり方向を変えていたと考えられています。そのような状態では横転の可能性がとても高かったはずです。

差動機構の仕組み

今回紹介する機構のポイントは 1) 左右の車輪がそれぞれ別の軸とつながっていること、それと 2) 動力側からの入力を伝える機構と左右の車輪の差動が入れ子になっている、という点です。

まず内側の機構から見ていきます。同一線上に位置する軸が、4つの曲がり傘歯車でつながっています。自動車で言えば、緑の歯車がついている二つの軸の先に車輪がつながります。

差動機構の内側の歯車

このような形で歯車を嚙み合わせた状態で、左軸を固定しつつ右軸を回転させた場合を考えてみてください。軸と連動している右側の歯車が回転すると、あわせて上下の赤い歯車もそれぞれの軸に沿って回転します。ですが、左軸の歯車は固定されているため、二つの赤い歯車は左軸の歯車の上をなぞるように回り、右軸の車輪は自由に回転できます。この構成であれば左右の軸の回転数が違っても問題なく動作します。

この回転の差を吸収・分配するのが差動機構の胆です。ただ、これだけだと動力を伝えて車輪を回すことができません。そこで車輪が回転する方向と垂直になっている赤い歯車を「緑色の歯車の回転軸にそって」回転させると、緑の歯車が回転することに着目します。

そのためには赤い歯車の回転軸そのものを回転させればよいわけです。そこで外側の歯車自体に内側の歯車の軸をつけてしまいます。

外側の歯車

このように、歯車を回転させるだけでなく、歯車の軸そのものを回転させるという発想の転換によって差動機構はなりたっているのです。

あとはこの歯車がエンジンからくる動力で回転するように組めば完成です!

回転パーツにはベアリングを

ベアリング(軸受)とはパーツを回転させるための製品です。今回のように歯車をスムーズに回転させるならベアリングは必須パーツといえます。

3DPを始めた最初のころの私はすべて3Dプリントされたパーツで作ろうとしていました。実際ベアリングも自作したりしていました。

パーツを自分で作るのは楽しいのですが今回の差動機構のようなものでそんなことをしていると時間が溶けてしまいますので、もうこういう場合はすなおに市販のベアリングを購入しましょう。お値段に多少難はありますが、モノタロウなどで買うと楽です。

ベアリングはパーツ番号がいろいろあってよく初めてベアリングを購入する際はどれがいいのかわからないと混乱しがちですが、とりあえず6で始まる番号のものが一般的に用途に合っているかと思います。

今回私は608-2RSと605Zという種類のベアリングを使いました。パーツ番号の最初の数はベアリングの種別を指していて、6は深溝玉軸受と呼ばれる種別です。次の数は内径とベアリングのサイズの比率を指します。基本的には数が小さいほど小さいという認識で問題ありません。今回使うのは2桁目が0なので一番小さい寸法となります。最後の数は1桁の時と2桁の時があり、それぞれ内径(軸穴の直径)を指します。今回の場合はそれぞれ8mmと5mmの軸穴を指しています。

左605Z、右608-2RS

これ以外にも様々なコードがあるのですが、ここでは割愛します。なお、608という大きさはスケートボードなどで使われるベアリングサイズなので、不勉強なのですがかなり広く出回っているもののようです。

ベアリングを3DPで使う場合、ベアリングを入れる穴はぎりぎりジャストフィットサイズでプリントし、万力やトンカチを使って挿入するくらいのサイズ感がおすすめです。よっぽど強い衝撃を与えない限り、そうそう外れてしまうことはありません。

直径7mmのベアリングを挿入する穴はベアリングと同サイズ

また、ベアリングに挿入する軸に関しても用途によっては金属製のものを入れるのがよいと考えますが、私は今のところ本連載14回目で紹介した、軸そのものを分割してプリントする形で作っています。ベアリングの穴にタイトにはまるのでバラバラになってしまう可能性もほぼなく、プリントのレイヤが軸の縦方向に沿うので、強度的にもさほど問題ありません。おもちゃ用途なら必要十分な強度だと考えます。

こうしてベアリングなどを挿入して組み立てれば差動装置のできあがりです。正直歯車さえモデリングできれば特に複雑なところはありません。

完成した差動装置

今回は前回AIで作った曲がり傘歯車を使って、差動機構を作成してみました。ベアリングと歯車が使えると今回のように作れるものの幅がぐっと広がりますので、ぜひ試してみてください。

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