Agentic AI Foundation(AAIF)は9月9日、オープンソースのAIゲートウェイ「Agent Router」( 旧称:Envoy AI Gateway)の参加を発表した。BloombergとTetrateが共同開発を進めてきたプロジェクトで、9月10日付で改称し、EnvoyのサブプロジェクトからAAIFの独立プロジェクトへ移ることになった。AIエージェントからモデルや外部ツールへの呼び出しを仲介する。発表時点で11組織が採用を公表し、安定版1.x系も公開されている。
Envoyを基盤に、 モデル接続の負担を減らす
Agent Routerは、エージェントに対してモデル呼び出し用のOpenAI互換APIと、外部ツールへのアクセスに使うMCPの接続口を提供する。モデル提供元に応じたAPI形式への変換や認証、通信の振り分け、使用量の制限などをまとめて扱い、エージェント開発者が個別に実装する負担を減らす。
通信処理の基盤となる「Envoy」は、アプリケーション間の通信を仲介するプロキシソフトウェア。Agent Routerが管理者の指定した接続先や認証情報、制限などをEnvoy向けの設定に変換し、Envoyがその設定に従って通信を処理する。
Envoyは、配車サービスを運営するLyftが開発し、2016年にOSSとして公開 した。その開発プロジェクトは2017年に、クラウドネイティブ技術のOSS開発を支えるCloud Native Computing Foundation(CNCF)に受け入れられた 。
このEnvoyを基盤に開発されたのが、Agent Routerの前身「Envoy AI Gateway」 。開発のきっかけは、2024年にBloombergのエンジニアが直面したモデル接続の課題だった。OpenAIやAnthropic、Googleなどのモデル提供元では、リクエストの形式や認証方法がそれぞれ異なる。この課題に対応するため、BloombergとTetrateがEnvoyのサブプロジェクトとして共同開発を進めた。
11組織が採用、 AAIFで他プロジェクトとの連携へ
発表時点で、採用を公表している組織はBloomberg、Tetrate、Tencent Cloud、Nutanix、LINEヤフー、National Research Platformなど11組織。開発には21組織が貢献。保守を担当するメンテナーの9席はBloomberg、Nutanix、AMD、Tetrate、Netflixの5社で分担している。
Agent Routerはこれまでに安定版を15回リリースしている。2026年6月にバージョン1.0、8月に1.1を公開し、1.x系では互換性を維持する方針を示している。
移行先のAAIFは、AIエージェント向けのオープンな技術や標準の共同開発を支える、Linux Foundation傘下の団体。2025年12月に設立 され、MCPなどのプロジェクトを受け入れている。
AAIFの参加発表ブログでは、移行によってエージェント関連のコミュニティとのつながりが深まり、他のプロジェクトとの共同開発の機会が広がると説明している。Envoyとの関係も続き、通信処理そのものの改善はEnvoyで進める。Agent Routerでは、エージェント開発者にとっての使いやすさを高め、周辺技術との連携にも取り組む。
9月10日、11日に東京で開催されているAGNTCon + MCPCon Japan 2026 でも、AAIFのExecutive Directorを務めるMazin Gilbert氏がキーノート内でAgent Routerの参加を紹介した。
MCP、goose、AGENTS.md、agentgateway、A2A、Agent Routerを掲載したAAIFのプロジェクト紹介スライド(Mazin Gilbert氏の講演より)
コラム: Agent Routerに任せられる接続処理
AAIFが公開した技術解説 では、エージェント側で実装する接続処理を、ゲートウェイの設定へ移す方法を紹介している。
モデルへの接続では、Agent RouterがOpenAI互換APIのリクエストを提供元に合う形式へ変換し、APIキーなどの認証情報も管理する。管理者が必要なモデルを設定しておけば、エージェント側はモデル名を変えて接続先を切り替えられる。失敗時には、設定した別の提供元へ切り替えて再試行する。
MCPツールへの接続では、Agent Routerが複数のMCPサーバーから選んだツールを1つのカタログにまとめ、呼び出し元に応じて利用できるものを絞り込む。ツールの一覧取得時と呼び出し時の両方でアクセスを制御する。
使用量は、リクエスト件数に加え、モデルが処理する入力・出力の量を表すトークン数でも制限できる。モデルやツールの呼び出し状況は、ログやトレースに記録する。手元で試す手順はスタンドアロン版のガイド で確認できる。
コラム: MCPの本番運用を支える次の取り組み 〜AGNTCon + MCPCon Japan 2026より
AGNTCon + MCPCon Japan 2026の9月10日のキーノートには、AnthropicのDavid Soria Parra氏も登壇した。同氏は、AIと外部のツールやデータを接続するModel Context Protocol(MCP)の共同開発者。このコラムでは、MCPの今後の方向性を語った講演の内容を紹介する。
講演では、モデルがより長時間のタスクを扱えるようになる見通しを示した。
長時間タスクへの対応能力の推移と将来予測を示した「Long-Horizon Tasks」のスライド(David Soria Parra氏の講演より)
Parra氏は、2025年をコーディングエージェントが実用化した年と振り返り、2026年は知識労働や科学研究などへ本番利用が広がる年と位置付けた。財務や会計などの業務では、Microsoft 365やGoogle Workspace、社内システムへの接続が欠かせない。モデルの能力が向上するほど、外部システムとの接続が重要になると説明した。
2024年のデモから2025年のコーディングエージェント、2026年の知識労働と科学、2027年のOperationsへと利用範囲が広がる見通しを示すスライド(David Soria Parra氏の講演より)
普及状況については、Claude上でのMCPツール呼び出しが10億回を超えたと紹介した。また、Tier 1のMCP SDKの月間ダウンロード数は約5億回に上るとしている。
講演では、MCPの通信方式の見直しにも触れた。公式の2026年7月28日版の仕様 では、プロトコルの中核を、接続ごとのセッション状態をサーバーが保持しない「ステートレス」な方式へ変更している。リクエストを複数のサーバーへ振り分けやすくし、大規模な運用を支えるための変更で、ツール一覧などの取得結果をキャッシュする仕組みも加わった。
Parra氏は今後の重点の1つとして、非同期処理を扱う「MCP Tasks」の強化を挙げた。その場で応答を返す通常のツール呼び出しに加え、数分から数週間、さらに長期間にわたる作業の管理を重視している。Tasksはすでに拡張機能として提供されており、公開ロードマップ にも改善方針が示されている。
また、ツールや指示をまとめたスキルを配信・管理する拡張機能「Skills over MCP」の構想を紹介した。企業内のMCPサーバーでスキルを一元管理し、エージェントに提供する使い方を想定している。このほか、必要に応じてツールやリソースを段階的に見つける仕組みや、ツール呼び出しの結果形式の整理も開発課題に挙げた。
認可とアイデンティティも重点分野に挙げた。自律的に動くエージェントを識別し、誰の代理として、どの権限で動いているかを確かめられることが重要になる。
Parra氏は、日本の開発者にも、MCPサーバーの開発に加え、ツール呼び出し以外の機能にも対応したクライアントの開発を呼びかけた。また、本番運用で直面した問題をコミュニティで共有し、ワーキンググループでの議論や仕様の改善にも参加してほしいと述べた。