Anthropicは2026年9月1日、AIモデル「Claude Fable 5.1」と「Claude Mythos 5.1」を発表した。両者は同じモデルだが、サイバーセキュリティと生命科学の分野に適用するセーフガードの強さが異なる。Fable 5.1は一般提供され、コーディング、専門知識を必要とする業務、長時間にわたる問題解決を主な用途とする。Mythos 5.1は、審査を受けた個人や組織に限定して提供している。
2つのベンチマークでFable 5を上回る
Anthropicの評価によると、エージェント型の科学研究タスクを扱う「Terminal-Bench-Science 0.1」でFable 5.1は52.6%を記録し、Fable 5の24.7%の2倍を超えた。同ベンチマークでは、モデルごとの標準誤差を±3.5〜4.5ポイントとしている。
ターミナル上のエージェント型コーディングを測る「Terminal-Bench 4.0」のスコアは、Fable 5.1が55.8%、Fable 5が42.0%だった。
処理にかける労力の水準を示す「effort」のデフォルトは、Claude CodeではHigh、Claude CoworkとClaude.aiではMediumに設定されている。Anthropicによると、Fable 5.1はeffortをLowまたはMediumに設定しても、複数の評価でFable 5と同等以上の結果をより低いコストで得られたという。
AnthropicはFable 5.1を、複数のアプリケーションにまたがる数時間の作業や、数日に及ぶ自律的なコーディングを想定したモデルと位置付ける。作業を計画して必要なツールを使い、途中の処理に失敗した場合は復旧を試みるほか、進捗を利用者へ伝える。コードベース全体にまたがる機能開発やコードレビュー、性能改善などを用途に挙げている。
科学研究への応用例として、Fable 5.1はNASAのマゼラン探査機によるレーダー画像などから、従来より高解像度で金星の約3分の1をカバーする地形図を作成しており、Anthropicはこれをクリエイティブ・コモンズライセンスで公開している。
キャッシュ読み取り料金を75%引き下げ
Fable 5.1では、処理済みの入力を再利用するキャッシュ読み取りの料金を、Fable 5と比べて75%引き下げた。APIなどでのキャッシュ読み取りは、100万トークン当たり0.25ドルになる。入力と出力の料金はFable 5と同じで、それぞれ100万トークン当たり10ドルと50ドルになる。
Anthropicは、2026年8月の4週間にClaude Enterprise、Claude Code、APIで処理された実際のワークロードを基に、同じ作業をFable 5とFable 5.1で実行した場合の料金を、デフォルトのeffort設定で試算した。一般的な利用ではFable 5より約25%、キャッシュ読み取りの比率が高い複雑なコーディングやエージェント型タスクでは最大約45%安くなると見込んでいる。
Fable 5.1は、ClaudeのPro、Max、Team、Enterpriseユーザーが利用できる。開発者向けには、Claude Platform、対応するマーケットプレイス、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Foundryを通じて提供している。Claude APIでは、モデルIDとしてclaude-fable-5-1を使う。
Anthropicは、Fable 5.1向けのプロンプトガイドと移行ガイドも公開した。Claude Codeでは/claude-api migrateを実行すると、claude-apiスキルがモデルIDの置き換えや設定変更を支援する。
サイバーセキュリティと生物分野のセーフガードを調整
Fable 5.1では、無害な依頼にセーフガードが介入する頻度を抑えた。自動切り替えが有効なClaudeアプリでは、Fable 5.1で遮断された依頼を、独自の安全機構を持つOpusで再実行する。サイバーセキュリティ分野にはOpus 4.8、生物・生命科学分野にはOpus 5を使う。再実行後も、依頼がOpus側で遮断される場合がある。
APIでは自動切り替えがデフォルトで無効になっている。同じ振り分けを有効にするには、Fallback APIの設定が必要になる。Fallback APIを設定せず、Fable 5.1が処理を停止した場合、APIは停止理由を含むHTTP 200レスポンスを返す。
サイバーセキュリティ分野では、Fable 5のセーフガードと比べ、Claude Codeの1セッション当たりの介入回数が平均で約60%減るとしている。ソースコードからソフトウェアの脆弱性を見つける用途は認める一方、侵入テスト、エクスプロイト生成、バイナリを使った脆弱性スキャンなどは、引き続きOpusへの振り分け対象に含まれる。
生物分野では、初歩的な生物学や医療に関する無害な質問にセーフガードが作動する割合を、Fable 5の提供開始時と比べて約85%減らした。一方、生命科学の研究開発に関する依頼は、引き続きOpusへの振り分け対象となる。
モデルの推論内容を不正に抽出する蒸留攻撃への対策として、Fable 5.1ではMessages APIの仕様も変更した。新規APIアカウントでは、複数ターンの会話で「thinkingブロック」より前のシステムプロンプト、ツール、メッセージを変更するとエラーになる。既存アカウントは現時点では対象外だが、将来のモデルでは全アカウントに適用する予定としている。
サイバー評価で起きた不正アクセス
Anthropicは、標準のセーフガードを外したサイバー評価で、Opus 4.7、Mythos 5、社内研究用モデルが実在する3組織のシステムへ不正アクセスした事案を公表している。第三者の評価環境ではインターネット接続が誤って有効になっており、同社はその後、評価環境の封じ込めと監視を強化し、外部評価者向けの運用基準を整備した。
30日間のデータ保持と企業向けセーフガード
Anthropicは、Fable 5.1を提供するすべてのプラットフォームで、同モデルへの入力と出力を原則30日間保持すると案内している。個人向けプランは従来から同じ保持方針のため、今回の変更による影響はない。一方、これまでゼロデータ保持(ZDR)を利用してきた企業や組織には、新たな対応が必要になる。
同社はあわせて、企業向けの「Enterprise Frontier Safeguards(EFS) 」を発表した。利用資格を得た企業は、EFSの利用準備が整うまで、Fable 5とFable 5.1を引き続きZDRで利用できる。準備が整った後は、EFSによってZDRと同等のプライバシーを保ちながら不正利用を検知する。EFSの対象外となるZDR利用組織は、Fable 5.1を使うために30日間の保持を有効にする必要がある。
EFSでは、データを顧客が管理するクラウド基盤に保存し、人による確認もデフォルトでは顧客側で行う。Anthropicは2026年秋後半から段階的な提供を始めるとしている。
Mythos 5.1は審査制のプログラムで限定提供
Mythos 5.1はFable 5.1と同じモデルだが、サイバーセキュリティや生命科学の専門家向けにセーフガードを緩和している。利用できるのは、Anthropicの審査制のアクセスプログラムで承認された個人や組織で、発表時点では米国の一部組織に限られる。Anthropicによると、料金は入力が100万トークン当たり10ドルから、出力が100万トークン当たり50ドルからとなる。
防御的なセキュリティ業務を対象とするCyber Verification Programには、今後Mythosクラスのモデルを追加する予定。Life Sciences Verification Programでは、米国政府との協力の下で最初の参加者を受け入れており、対象とする生命科学コミュニティをさらに広げる計画としている。
コラム: Fable 5.1への移行ではプロンプトも見直す
Fable 5.1へ切り替える際は、モデルIDやAPI設定だけでなく、既存のプロンプトも見直しの対象になる。AnthropicのLance Martin氏 は、Claude Codeで使えるclaude-apiスキルに、プロジェクト内のプロンプトやリクエストコードを調べる/claude-api prompt-audit コマンドを追加したと説明している。監査対象には、次のようなパターンが含まれる。
「二重に確認する」などの定型的な再確認や、「 最大限詳しく」といった過剰な強調
固定的な手順、思考過程のひな型、旧モデル向けに調整した例示
互いに矛盾するルールや、旧世代向けのthinking設定
Anthropicは、こうした古い指示によって、新しいモデルが不要なツール呼び出しや冗長な出力を増やしたり、矛盾や旧設定の影響で精度を落としたりする場合があると説明している。prompt-auditは単にプロンプトを短くするのではなく、現行モデルに合わない指示を特定し、業務固有の条件や品質基準を残した修正案を示す。claude-apiスキルはGitHubで公開されており 、Martin氏は、この考え方がFable 5.1以外のフロンティアモデルにも応用できる可能性を指摘している。