Anthropicは2026年10月6日、企業のセキュリティ担当者や研究者などを対象とする「Cyber Verification Program(CVP) 」を拡大した。防御業務や、許可を得た侵入テスト、レッドチーム演習など、作業範囲に応じた3つの利用区分を新設した。審査を通過した利用者は、各区分で認められた業務に合わせてサイバー用途の制限を緩和したClaudeを利用できる。
通常のClaudeでも、コードレビュー、自社のソースコードの脆弱性発見、既知の問題の修正などを行える[1] 。しかしマルウェア解析などでは、安全対策によって処理が中断される場合がある。CVPは、こうした業務に取り組む組織や個人を対象とする[2] 。
これまでのCVPは、OpusとSonnetを対象に、単一の利用区分で提供されていた。一方、Project Glasswing では、重要なソフトウェアを守る一部の組織にClaude Mythosへのアクセスを提供していた。今回、両プログラムを拡大版CVPに統合し、利用対象を広げた。Glasswingの既存参加組織は、新設の「Specialized Access」へ移行する。
Anthropicによると、Project Glasswingの参加組織はClaude Mythosを活用し、4〜7月に少なくとも12万9000件のソフトウェア脆弱性を確認したという[3] 。Claude Mythosを使わなければ、同数の脆弱性の発見に数カ月から数年長くかかっていたとする参加組織の回答も紹介している。
[1] Claude Enterprise向けには、コードの脆弱性を検出し修正案を提示する「Claude Security」も提供されており、8月にスキャン用モデルとしてMythos 5が採用された(関連記事 ) 。
作業範囲に応じた3つの利用区分
CVPの対象モデルはClaude Mythos 5.1、Claude Opus 5.5、Claude Sonnet 5.5で、3区分に共通する。認められる作業範囲と、審査やセキュリティ対策の要件は区分ごとに異なる。
1つ目の「Defense Access」は、防御業務向けの区分で、インシデント対応、マルウェア解析、脆弱性の分析・検証などを対象とする。自社のシステムを守る企業のセキュリティチームのほか、小規模なセキュリティ企業、オープンソースの保守担当者、脆弱性の報告実績がある個人研究者なども参加できる。
2つ目の「Red Team Access」では、防御用途に加え、侵入を試みて弱点を調べるペネトレーションテストや、攻撃者の行動を模したレッドチーム演習を行える。社内のレッドチームや侵入テストを請け負う企業などが対象となる。試験対象は許可を得たシステムに限る。ただし、ランサムウェアの展開や物理システムの破壊に加え、安全確保に関わる高リスクなシステムへの侵入テストも引き続き遮断される。
3つ目の「Specialized Access」は、電力網など、人命や市場に影響し得るシステムの試験を許可された一部の組織を対象とする。サイバー用途で遮断される作業が3区分の中で最も少ない。Anthropicが米国政府と連携して組織ごとに詳しく審査する。
Anthropicは、複数段階の攻撃を再現する評価「CyScenarioBench」で、防御向けの区分では攻撃を遮断し、侵入テスト向けの区分では実行を認める制御を検証した。Claude Opus 5.5で10課題を各5回試したところ、Defense Accessでは50回中46回が遮断された。一方、Red Team Accessでは遮断がなく、50回中34回が成功した。
CyScenarioBenchでのOpus 5.5の課題成功率。Specialized Accessの棒は、安全対策を無効にした場合の成績を示す(Anthropicの発表ブログより)。
申請方法と利用条件
申請はVerification Portal で受け付ける。申請者は、本人や所属組織の情報、セキュリティ業務の内容、希望する区分で求められるセキュリティ対策の実施状況を提出する。ヘルプセンター によると、企業からの申請は組織ごとに1件とし、社員が個別に申請する必要はない。
個人が申請できるのはDefense Accessで、有料プランの利用が条件となる。Red Team AccessとSpecialized Accessは組織のみを対象とする。
Anthropicが申請内容に基づいて利用可能な最上位の区分を判断し、承認後は組織の管理者が利用者を指定する。利用設定はサービスごとに異なり、Claude Console/APIでは管理者がワークスペースへの適用状況と要件 を確認する必要がある。
既存のCVPおよびProject Glasswing参加者は再申請が不要で、利用中のモデルはこれまでの条件で使い続けられる。既存のCVP参加者については、Opus 5.5、Sonnet 5.5、Mythos 5.1へのアクセスをAnthropicが自動的に審査する。
CVPでは、悪用の監視のために原則としてデータ保持を求める。Anthropicは、監視用データを対象組織が管理するクラウド環境に保存する仕組み「Enterprise Frontier Safeguards(EFS) 」を今秋後半から段階的に提供する予定。EFS提供までの例外として、Claude Fable 5.1またはClaude Mythos 5.1でゼロデータ保持が認められている組織は、CVPでもAnthropic側にデータを保持しない条件で利用できる。
CVPはClaude.ai、Claude Code、Anthropic APIから利用でき、発表ではGoogle CloudのVertex AIとMicrosoft Foundryも対応基盤として挙げている。Amazon Bedrockでは、EFS提供までの間、Fable 5.1のデータ保持が免除されている組織に利用が限られる。
コラム: GLM-5.3に見る高度な攻撃能力の普及
Anthropicは2026年9月29日、Zhipu AI(Z.ai)のGLM-5.3を分析したブログ「GLM-5.3 and the spread of advanced cyber capabilities 」を公開した。GLM-5.3は、モデルの動作を決める重みが公開されており、誰でもダウンロードして利用・改変できる。同社は、このモデルが脆弱性を悪用する攻撃コードを自律的に作成できると報告している。
ChromeのJavaScriptエンジン「V8」の既知の脆弱性を対象とした評価では、GLM-5.3は410回の試行中50回、動作する攻撃コードの作成に成功した。比較対象のClaude Mythos Previewは、安全対策を無効にした条件で410回中56回成功した。
同社は、攻撃コードの作成能力に加え、悪用を防ぐ安全対策の有効性も検証した。シミュレーションでは、GLM-5.3は明らかに悪意のある攻撃の指示を拒否したが、演習を装った指示には応じる場合があったという[4] 。
指示による回避に加え、モデル自体の改変によって安全対策を弱める実験も行った。GLM-5.3が有害な要求を拒否する仕組みを弱めたところ、拒否率は大幅に下がり、今回評価した科学分野やサイバー分野の能力はおおむね維持されたという。
Anthropicは、高度な攻撃能力を持ち、安全対策を回避したり弱めたりできるモデルを攻撃者も入手できることを問題視する。防御側にも同等以上の能力を持つモデルを提供する必要があるとして、アクセス拡大を急ぐよう訴えている。
コラム: OpenAIもDaybreakで企業の防御業務を支援
OpenAIのGreg Brockman氏は8月17日公開の記事「防御側に開かれた好機 」で、AIは攻撃者による欠陥の発見・悪用を容易にする一方、防御側が欠陥を見つけて修正するためにも使えると指摘した。攻撃者に先んじて対処するため、セキュリティ業務へのAI導入を促している。
またOpenAIは、8月21日公開の開発者向けブログ「Scaling cyber defenders with Daybreak 」で、AIを防御業務に取り入れる方法を紹介した。同社は「OpenAI Daybreak」を通じて、モデルやセキュリティツールの提供と利用承認の仕組みを整え、外部のセキュリティ組織とも連携してセキュリティ担当者を支援する。
具体的には、ChatGPTをログや脆弱性情報の調査に活用できる。Codex向けのエージェントプラグイン「Codex Security」では、コード変更のレビュー、既存の脆弱性報告の検証、修正案の作成などを行える[5] 。修正案はエンジニアが根拠と変更内容を確認して適用を判断し、適用後の効果も検証する。
マルウェア解析やパッチの検証などの防御業務で制限を緩和する「Daybreak Blue」は、企業内のセキュリティチームも承認を受けて利用できる。「 Daybreak Red」は、許可された範囲での高度な脆弱性研究やレッドチーム演習などを対象とし、利用にはBlueとは別の承認と安全対策が必要になる。
10月7日時点の公式利用案内 によると、企業・組織は「Trusted Access for Cyber 」の企業向けフォームから利用を申請し、OpenAIの担当者と調整する。承認後は、指定のワークスペースやAPIプロジェクトで、許可された社内のセキュリティ業務に利用できる[6] 。