本書は、2010年に初版発行された『プログラマのための文字コード技術入門』の改訂版です。初版は幸いにも多くのご支持をいただき、6回の増刷を重ね、発行された年の東京の大型書店で発表された年間ランキングのコンピュータ書部門で第4位に入りました。
この改訂版では、初版の骨格はそのままに、この9年間の変化を反映して古くなった記述を改め、規格や文字政策、プログラミング言語・API等の最新版に追随するよう全面的に加筆修正しています。
この前書きに目を通している方には、初版を読み終えていて、改訂版を読むべきかを思案中の方もいるでしょう。文字コードの適用、仕様、原理原則の3つに分けて考えると、この9年間で、適用をめぐってはプログラミング言語など変更がありましたが、文字コードの仕様の基本的な部分には大きな修正はありません。原理原則はまったく変わりません。したがって、文字コードというものの概要を知ることが目的の場合は、初版の知識だけでも大体のところは問題ないでしょう。一方、新たに追加された仕様など、知識を最新版へとアップデートしたい方にはこの改訂版が役立つでしょう。
文字コードはしばしば論争の種となるテーマですが、本書は特定のコード系の使用を推奨したり否定したりするものではありません。代わりに、各コード系の特徴や適した用途等を、言語表記の記号としての文字を符号化する観点から根拠に基づいて説明しています。
本書初版に寄せられた感想で予想外に嬉しかったことは、「おもしろい」という感想が多かったことです。本書は技術書ですから第一義的には技術的に役に立つことが求められますし、実際、役に立ったという感想も少なからずいただきました。一方、おもしろいということには、物事への興味を引き出し、より深い理解へ導く力があると筆者は考えます。本書がおもしろいという評価をいただいているのが、文字の符号化という営みの本質的な側面を本書が彫り出し得たためであるならば、著者として望外の喜びです。この改訂版がより多くの方にお楽しみいただけることを期待します。
2018年12月 矢野 啓介