本書を手に取られた方の中には、本書のタイトルにある「コマンド」(command)って何のことだろうと思っている方もいらっしゃるでしょう。一般的な意味での「命令」かと言うと、間違いではないのですが、パソコンのある種の使い方を総称して「コマンド」と呼ぶのが一般的です。コマンドを利用してパソコンを操作できることを知らない方が相対的には増えているようにも思います。
現在のスマホ(smartphone)が登場して十余年、スマホを持っているのが当たり前となる一方、一般の人たちの中でのパソコンの立ち位置は大きく変化しました。昔は家庭にパソコンがあったものの、最近だとオフィスや会社にはあるが持っていないという方も増えてきています。スマホのコンテンツ制作やシステム開発などを支えているのはパソコンなので、なくなることはあり得ないのですが、パソコンが身近だった時代は遠い昔になってしまった感があります。
MacやAppleのファンは今でもたくさんいますし、実用的な意味でMacを使っている人もたくさんいます。多くの方は、使い勝手の良い点やデザイン性からMacを選択するのが傾向です。もちろん、それでほぼ100%のことができてしまいます。しかしながら、Macでは「コマンド」を使って操作するという世界があるのです。本書を読むことで、そういう世界をまったく知らない方でも、コマンドがどんなもので、どんな用途に使えるのかを理解していただけるでしょう。
操作そのものや、具体的な個別の機能は本書を読んでいただくとして、コマンドがどのような場面で使われていて、学習すると何が得られるのかについてここでは説明しましょう。まず、コマンドを知っている人としては、プログラム開発やネットワークなどのエンジニアということになります。彼らは一般人と差別化するためだけにコマンドを習得しているわけではなく、コマンドだと早く作業を進められることや、通常の利用方法では大変なことやできないようなシステムの深い部分の作業ができること、そしてまとめて作業ができることが使っている大きな理由です。
しかしながら、エンジニアしか利用価値がない、あるいは習得できないというわけではありません。もちろん、エンジニアと同じモチベーションで学習することは非常に良いことです。
一方で、コンピュータを少しでも深く理解するきっかけがほしい方にとっては、コマンドはとても良い題材になります。通常の利用環境は、美しいグラフィックスで必要なものしか見えなくすることで使い勝手を高めています。一方、コマンドの世界は素のコンピュータが垣間見れるという意味では、今まで見たことないようなファイルがあって、それがMac全体の動作に関係していることなど、いろいろな発見があるはずです。ただし、あまりに素なので、最初は取り掛かるのが大変かもしれません。はじめて使うとまず何をすればいいか、まったくわからないと思いますが、それが普通です。はじめて取り組む方が何をすればいいのかをお伝えするのが本書の立ち位置であると思ってみてください。少しずつ、簡単なところから、習得しましょう。Macにこんな側面があったのかと思われると思いますが、複雑なコンピュータの裏側を垣間見ることができるとすれば、興味を持っていただけるのではないかと思います。
コマンドを知れば、サーバで使われているようなLinuxはもちろんのこと、Windowsの使い方に関しても新たな知見が得られるでしょう。macOSとLinuxは本書でも紹介されていますが、コマンドはよく似ています。Windowsのコマンドは以前は独特でありそれは今でもありますが、Linuxなどに近いコマンドで作業する動作も最近では可能になっています。このように、コマンドはMacを取り巻く世界だけのしくみではなく、コンピュータ一般の世界での一つの体系でもあります。
本書でコマンドの世界に興味を持っていただき、Macをより効果的に活用できるようになることを願っています。
2020年3月 新居 雅行
「Mac」と「macOS」について
Appleは「Mac」と総称される製品を製造/販売する唯一の会社です。過去に他社から販売された経緯がありますが、ここ20年以上は単独一社の製品です。発売当初はMacintoshだったのですが、その頃から愛称として使われていたMacが現在では商品名になっています。一方、Macで稼働する基本ソフトウェア(稼働するための必須の基盤となるソフトウェア)の名称が現在はmacOSとなっていますが、90年代中頃にMac OS、21世紀になる頃にMac OS Xと呼ばれていました。
このあたりから「Mac」は何を指すのかはかなり曖昧になってきているのですが、これもハードとソフトが一体化した製品であることを暗に印象づけるAppleのマーケティングの巧妙さが見え隠れする部分でもあります。かくして、Macはプラットフォーム全般からハードウェア、あるいはファンそのものを指すなど極めてコンテキスト依存な単語となりました。