まえがき 使える道具を増やす

本書は、macOSのコマンドを知り、活用していくための解説書です。コマンドによる操作に興味を持ち、使ってみたいと思っている方、あるいは何らかの必要に迫られてコマンドを使いこなせるようになりたいという方を対象としています。

コンピュータの操作をキーボードからの文字入力によって操作する、そのときに使うのがコマンドです。macOSはほとんどのことがGUIGraphical User Interface画面上のアイコン等で操作するインターフェイス)で行えるようになっていますが、たまに「これはコマンドじゃないとできない」という操作があったり、⁠これはGUIでやるよりコマンドで行う方がずっと速くて正確だ」という操作があったりします。コマンドを日常的に使用する人は「コマンドでないとできないこと」に加えて、⁠コマンドの方が楽にできること」をコマンド操作で行っています。

もちろん、GUIの方が楽な作業もたくさんあります。コマンドでできることはすべてコマンドでやらないといけない、ということはありません。その都度、使いやすい方を選べば良いのです。この「両方使える」というのがポイントです。使える道具が増えるのです。コマンドによる操作という今までと異なる道具を手にすることで、コマンドならではの操作ができるようになるだけではなく、新しい発想が生まれて「macOSでできること」がさらに増えることでしょう。

本書の執筆にあたり、新居雅行氏に多くのご助言をいただきました。幅広くかつ深い知識と、歴史を知る方からの言葉を頂戴できるのは大変心強いことでした。ここに感謝の意を記させていただきます。

本書では、初学者向けに動作内容がわかりやすいコマンドを中心に取り上げる一方で、コマンド実行に必要なOS関連の基礎知識、マニュアルの読み方やコマンドの調べ方など、応用力の元となる知識の解説に力を入れました。また、今回の新版ではmacOS Catalina(10.15)からデフォルトシェルとなったzshと、それまでのデフォルトシェルで広くUnix系OSで定番のbashに対応しました。巻末附録にコマンドラインの活用例として、Python環境の構築(Homebrewとpyenv)やRaspberry Piのセットアップ(SSHとVNC経由の操作環境まで)を紹介しています。

本書を通じて、macOSの、さらにはコンピュータの新たな世界が少しでも広がればと思っています。コマンドラインを知ることで見えてくる世界を感じていただければ幸いです。

2020年3月 西村 めぐみ

西村めぐみ(にしむらめぐみ)

千葉県出身。MIDIシーケンサーを作ることを夢見て勉強しはじめたプログラミングにはまりプログラマに。DOS生まれLinux育ちでコマンドラインが好き。主な著書は図解でわかるLinuxのすべて(日本実業出版社),シェルの基本テクニック(IDGジャパン),はじめてでもわかるSQLとデータ設計(ディーアート)など。