ITエンジニアのやさしい法律Q&A 著作権・開発契約・労働関係・契約書で揉めないための勘どころ
- 河瀬季 著
- 定価
- 2,508円(本体2,280円+税10%)
- 発売日
- 2020.11.9
- 判型
- A5
- 頁数
- 208ページ
- ISBN
- 978-4-297-11682-8 978-4-297-11683-5
概要
ソースコードの無断転載、協力してくれない発注者、偽装請負化したSES契約……。
「ITエンジニアに法律なんて関係ないよね?」と油断していると、思わぬ法的トラブルに巻き込まれてしまう恐れがあります。
とはいっても日々進化する技術についていくだけで大変、一から法律を学習する余裕なんてないというのも実情でしょう。
そこで本書では元ITエンジニアの弁護士がトピックを厳選し、Q&A形式で最低限押さえておくべきポイントを解説しました。
「著作権」「開発契約」「労働関係」そして「契約書のチェックポイント」、転ばぬ先の法律知識をコンパクトに一冊で知ることができます。
こんな方にオススメ
- ITエンジニアになったばかりの方
- 法律の落とし穴にハマることを予防したいITエンジニアの方
目次
第1章 著作権の落とし穴
- Q1-1 エンジニアに著作権って関係ないよね?
- <コラム>法令用語の難しさ よく出てくる接続詞のルール
- Q1-2 ネットにあがっているコードを使いたいんだけど……
- Q 1-3 ネットにあがっているアルゴリズムを盗用するとまずい?
- Q1-4 他のアプリケーションのUIを参考にしても問題ない?
- <コラム>特定電子メール法とは?
- Q1-5 オープンソースなら流用も改造も自由だよね?
- Q1-6 ボタンやアイコンにフリー素材を使う場合の注意点は?
- <コラム>ロイヤリティフリーとライツマネージドとは?
- Q1-7 コピーレフトと書いてある場合は著作権を主張していないの?
- <コラム>「使用規約」と呼ばれないワケ 「利用」と「使用」の違い
- Q1-8 GPLのライセンスはどう読めばいいの?
- <コラム>「コンプガチャ」は違法ってホント?
- Q1-9 画像や文章を引用する場合に気を付けるべき点は?
- Q1-10 フリー素材だと勘違いしていた……法的責任はある?
- Q1-11 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスって何?
- <コラム>写真に写りこんでいる人はどうすればよい?
- Q1-12 前の会社で開発したプログラムをそのまま使いたいんだけれど……
- <コラム>営業秘密のアルゴリズムを持ち出すと罰せられることがある?
- Q1-13 前の会社で開発したプログラムに似てきた……大丈夫?
- <コラム>リバースエンジニアリングの法的問題
- Q1-14 業務委託で作成したプログラムを次の案件に使い回すのはまずい?
- Q1-15 私のコードが勝手にブログで紹介されている……
第2章 開発契約の落とし穴
- Q2-1 ITエンジニアに関係のある開発契約とは?
- <コラム>契約自由の原則とは?
- Q2-2 契約書がないと契約は無効ですか?
- <コラム>契約書のタイトルの付け方に決まりはある?
- Q2-3 どうして多段階契約が推奨されるの?
- Q2-4 システム開発の受注者が負う法的な義務とは?
- Q2-5 発注者が開発に協力してくれない場合はどうすればよい?
- <コラム>みなし検収条項の効力 発注者が納品を受け付けてくれないときは……
- Q2-6 頻繁な仕様変更……法的観点から上手く対応する方法は?
- Q2-7 納期に間に合わず委託元から要求が来た……どうなる?
- Q2-8 作ったシステムの不具合が指摘された! 責任は誰がとる?
- <コラム>契約不適合責任と提携約款 改正民法2つのキーポイント
- Q2-9 途中で契約を解除することはできるの?
- Q2-10 発注者の一方的な理由で開発の中止を告げられた……
- <コラム>法外な違約金を要求された場合は?
- Q2-11 納品したのに報酬を払ってくれない……
- Q2-12 プロジェクト進行にあたり、文書で記録を残す必要があるのはなぜ?
- Q2-13 発注者に謝罪を要求された……謝ったら既成事実になってしまうの?
- Q2-14 元請けと下請けの違いは何? 下請けに出すときの注意点ってある?
第3章 労働関係の落とし穴
- Q3-1 私の働き方、労働基準法に違反していない?
- Q3-2 SESなのに常駐先から指示を受けた……これって偽装請負?
- Q3-3 プログラマーなのに裁量労働制っておかしくない?
- Q3-4 副業に当たって気を付けるべきことは?
- Q3-5 入社時にサインした契約書に同業種への転職禁止って書いてあるんだけど……
- Q3-6 退職時に求められた合意書にサインする必要はある?
- Q3-7 弁護士ってどうやって探すの?
- Q3-8 争わずにお互い譲歩して解決したい……
第4章 契約書の要チェックポイント
- Q4-1 法的文書のチェックはデバッグに似ている?
- Q4-2 利用規約を作る場合の注意点は?
- Q4-3 プライバシーポリシーの作り方とは?
- Q4-4 請負契約書を渡された場合の要チェックポイントは?
- <コラム>引き抜きって違法になるの?
- Q4-5 準委任契約書を渡された場合の要チェックポイントは?
- Q4-6 秘密保持契約書の要チェックポイントとは?
- Q4-7 共同事業契約書の要チェックポイントとは?
- Q4-8 雇用契約書を渡された場合の要チェックポイントは?
プロフィール
河瀬季
10代よりITエンジニア等として事業を営んだ後、東京大学法科大学院に進学し司法試験合格。ITに専門性を有する弁護士法人モノリス法律事務所(東京・大手町)の代表弁護士として、IT企業を中心に約100社の顧問弁護士(監査役、執行役員等)を務める。システム開発をはじめとする、IT企業の日常的業務の中で生じる法律問題や、著作権・特許といった知的財産権分野、ベンチャー企業において特徴的に発生する法律問題などが主な業務分野である。著書に、『MENSA弁護士に挑戦! もっと頭がよくなる 大人の「超難問パズル」』(ロングセラーズ)、『デジタル・タトゥー── インターネット誹謗中傷・風評被害事件ファイル』(自由国民社)、『相手の「絶対に譲れない!」を「OK!」に変える説得の極意』(大和書房)など。
著者の一言
本書の執筆中、不利な条件での契約書にサインしてしまったために、システム開発の受託で貰えるはずだった数百万円の報酬の支払を受けられず、かえって数千万円の損害賠償請求を受けてしまった、という個人エンジニアからの相談を受けました。
エンジニアにとって法律は、なかなか「身近」に感じられるものではないかもしれません。しかし、会社に所属している場合でも、自分が関わるシステム開発は、契約や要件定義の段階から開発途中、納品や検収といったプロセスまでが「請負」「準委任」といった法律によって規律されているものですし、その中で登場するアルゴリズムやソースコード、ライブラリや画像素材などは、「著作権法」といった法律や「GPL」「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」といったライセンスシステムが深く関わる代物です。
また、従業員と会社の関係は、いわゆる労働法に規律されるものであり、特にITは、SESや副業、フリーランスなど、変則的な働き方が導入されやすい業界でもあります。エンジニアとして働いていく場合、とりわけ、いずれ上流工程にも関わりたいと思う場合や、フリーランスや副業などの形で個人としても働きたいと思う場合、法律に関する一定の知識は、自分の身を守るという意味でも必要不可欠となってくるのです。
このようなエンジニアと法律の関係について、私は次のようにも考えています。エンジニアは法律を理解するための素養を持っている方が実は多いのではないか、ということです。なぜならば、法律とは現実世界で発生する様々な事象について、「こうした場合はこのような効果が発生する」というようなアルゴリズムを規律するものであり、例えば契約書とは、自然言語で記載されたプログラムに他ならないからです。アルゴリズムを理解し、ソースコードを読み解き、想定外動作の発生し得る行を書き換える、という作業は、正にエンジニアが日々行っている業務であるはずです。法律も、一度基本的な考え方や言語仕様を理解すれば、例えば「この契約書のこの条項は非常に危ないかもしれない」といった勘所が分かるようになってくるはずです。
実際私は、20代をITエンジニア等として過ごした後、20代後半にゼロから法律を勉強し弁護士になりましたが、その際に感じていたのは、正に上記のような、プログラミングと法律の類似性でした。本書では、「プログラム」というものに日常的に触れているエンジニアの皆様が、エンジニアとして活動していくにあたって知っておくべき法律について、そのアルゴリズムや言語仕様などを理解しやすいよう、解説します。
民法や著作権法、特許法など、ITエンジニア自身が知っておくべき法律は多くあります。たとえば、ソースコードやソフトウェアを取り扱う際には、著作権の問題が出てきます。また、エンジニアとして働く前提として、契約形態や労働形態について知っておく必要があります。当然、システム開発などをする上で、エンジニアがどういった義務やリスクを負う可能性があるのかという点も重要でしょう。
こうした法律に関することを知らないまま仕事を進めていると、知らないうちに法律違反をしていたり、不利な契約を結んでしまったりと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれないのです。
そういった事態に陥ることを避けるには、何よりもまず、ITエンジニアにとって身近なトラブルや起こり得る法律問題について知るということが必要です。本書では、その取っ掛かりとなるよう、法律トラブルを回避するためにエンジニアが最低限知っておくべき法律知識について、取り扱っていきます。
冒頭で紹介した事例ですが、不利な条件での契約書にサインをしてしまうと、事後的に弁護士による交渉等によって挽回できる範囲には、どうしても限界があります。法律に関する知識は、トラブルになった後ではなく、トラブルになる前、例えば、受託の話がクライアントと平和的に進んでいる時にこそ、必要なのです。
本書が、将来のトラブル予防の一助となれば幸いです。