『良いFAQの書き方──ユーザーの「わからない」を解決するための文章術』より転載
本書は、良いFAQの書き方をやさしく解説した本です。
「よくある質問」という言葉は、たいていの人が見知っていると思います。一般企業や自治体、学校(以下、総称して企業と呼びます)のWebサイトには必ずと言ってよいほど「よくある質問」を集めたサイトがあるからです。「よくある質問」のことをFAQと呼び、それを集めたサイトがFAQサイトです。
本書を手に取ったみなさんは、きっとこれまでにFAQサイトにアクセスしたことがあるか、またはFAQサイト制作にかかわったことがあるはずです。その際にきちんと目的は果たせたでしょうか。FAQで問題は解決できたでしょうか。あるいはユーザーに役立つFAQは作れたでしょうか。
統計によると、FAQでユーザーが問題を解決できている割合はだいたい3人に1人以下とたいへん低いことが知られています。みなさんの実体験でも同じようなイメージだと思います。
FAQがあまり役に立っていない状態は、企業にとっては喫緊の課題です。FAQが役に立たないので、コールセンターを利用するユーザーはあいかわらず多いようです。コールセンターのコストはもちろんのこと、FAQサイトへの最新システム導入にも莫大な経費がかかっています。にもかかわらずユーザーの問題自己解決率はあまり増えていません。ユーザー側からしても、役に立たないFAQは迷惑です。せっかく探し回ったのに問題を解決できず、結局コールセンターに電話することになれば、貴重な時間を無駄にした気分になります。
本書では、FAQがユーザーに解決をもたらさない原因であるFAQそのもの、つまりFAQの文の質に特に注目しています。
インターネット・Webサイト・FAQシステムは、ユーザーにとってはツールにすぎません。ユーザーが求めるものはFAQです。もしそのFAQの文が稚拙でわかりにくく、誤解しそうで信じられなくて、文字が多くて、言葉が難しくて読むのも嫌になるようなものなら、ユーザーが役に立たないと思うのは当然です。
質の低いFAQの典型が次のようなものです。
- Q:ログインできない。
- A:パスワードを忘れた人はこちらでお手続きください。
だれでも目にするこのFAQはなぜ質が低いのか、どう書きなおせばよいかは、本文を読めばはっきりわかります。
ごく普通に書いてしまいそうで実はあまり役に立たないFAQが、ほとんどの企業のFAQサイトで見られます。本書を読みそれに気付いた企業の担当者は、すぐに書きなおしたくなるでしょう。質の低いFAQは、ユーザーの問題も企業の課題の解決もできないだけではありません。企業のイメージをおとしめている可能性もあるのです。
本書は、ほかのFAQに関する書籍があまりページを割かなかったFAQの文についてクローズアップします。FAQの質とはなにか、質の低いFAQを質の高いFAQに改善する方法、質が高いことで生まれるWebサイトやFAQシステムへのメリット、そして経営メリットなどを述べます。豊富なサンプルや改善例も提示しながら、具体的に理解できるようにしています。読むだけでも理解できますが、本書のサンプルをまねしながらすぐにでもFAQの改善を実践できます。
本書で述べるFAQの書き方は、現在カスタマーサポートに携わっている方々のみならず、システム担当者・エンジニア・一般職の方々も無理なく習得できます。システムやAI(Artificial Intelligence、人工知能)を改良するような時間やお金はかかりません。本書を読みながらすぐに始められます。企業とお客さまの利益を追求する立場の経営層や管理者にも読んでほしい内容になっています。
なお、本書はFAQを特に取り上げていますが、文の書き方という点においては、本書の解説やサンプルはWebページの書き方・ビジネスメールの書き方・レポートの書き方・チャットの書き方にも十分参考になると思います。