オオカミ特許革命 事業と技術を守る真の戦略
- 田所照洋 著
- 定価
- 2,948円(本体2,680円+税10%)
- 発売日
- 2021.10.27
- 判型
- A5
- 頁数
- 320ページ
- ISBN
- 978-4-297-12397-0 978-4-297-12398-7
サポート情報
概要
攻めのオオカミ特許が企業を強くする
――元特許庁長官 荒井寿光
日本企業への処方箋がここにある!
――元リコー会長 近藤史朗
「苦労してノルマを達成して出願したのに、何の役にも立たない」
「模倣品が出てきても、訴えることすらできない」
「しかも、特許の数だけ模倣者にアイデアという塩を送ってしまう……」
……数だけの権利行使できない「ヒツジ特許」を量産していませんか?
特許の真の実態と特許制度の問題を知らない限り、競合他社の模倣を抑制し、利益を生み出す特許――「オオカミ特許」は取得できません。
「特許審査の罠を見破る方法(毒団子拒絶理由/ステルス拒絶理由通知)」
「ヒツジ特許をオオカミ特許に変革する、一番大事なルール(オールエレメントルール)」
「「キルビー特許」は、いかにして日本で1兆円稼げる特許になったのか?(オオカミ特許の獲得戦略)」
40年の実務経験を持つエキスパートだからこそ書けた、唯一無二の実践知見。
こんな方にオススメ
- 特許で大きな成果を出したい技術者・研究者
- 広い権利範囲の特許の獲り方を知りたい企業の特許担当者/マネージャー
- 知財を核とした経営戦略を実践したい経営者
目次
- 推薦文
- はじめに
第1部 日本の実態と意識革命編
第1章 事業や技術を守るべき発明が、権利行使できない特許になってしまう日本
- 【解説】特許制度の目的とそれを実現するためのしくみ
- [1―1]日本特許の95%は権利行使できないヒツジ特許
- [1―2]広い権利範囲の特許を取得することは発明者・出願人の当然の権利
- [1―3]米国はプロパテント政策で経済的大発展を達成
- [1―4]日本の「知財立国」はヒツジ特許ばかりで破綻
- [1―5]特許のステークホルダーが権利範囲を狭くしヒツジ特許を増やす
- [1―6]ヒツジ特許を増殖させる最大のカラクリ ~「登録特許」という見せかけの成果
- [1―7]技術に強い企業がヒツジ特許で大失敗した事例
第2章 特許の誤った固定観念と、それを打破する意識革命
- 【解説1】特許が登録になるまでの流れ
- 【解説2】特許が登録になるための二大特許要件 「新規性」と「進歩性」
- [2―1]「特許制度や特許審査に大きな問題はない」という固定観念と、意識革命①
- [2―2]「狭くなっても登録にしなければ」という固定観念と、意識革命②
- [2―3]「技術成果こそが技術者・研究者の成果だ」という固定観念と、意識革命③
- [2―4]個人の成果で特許表彰を狙い、技術者・研究者のキャリアを高める
- [2―5]プロパテントエンジニアへの道、「自分自身の知的財産戦略」をつくる
- [2―6]経営者は「知財戦略を実施しているから大丈夫」と安心しない
- [2―7]「我が社の知的財産活動は順調だ」という固定観念と、意識革命④
- [2―8]経営者による「オオカミ特許革命」宣言
- [2―9]「現状のままで何とかなる」という固定観念と、意識革命⑤
第2部 オオカミ特許獲得編
第3章 オオカミ特許を獲るための肝「特許請求の範囲」
- 【解説】特許出願書類について
- [3―1]技術者・研究者にとってとても重要、「特許請求の範囲」の知識
- [3―2]超かんたん 「特許請求の範囲」の広さに関するオールエレメントルール
- [3―3]超かんたん 技術者、研究者、経営者もできる 「特許請求の範囲」の文字数評価法
- [3―4]先人の大失敗に学ぶ1 競合企業より3日早く出願した技術者
- [3―5]先人の大失敗に学ぶ2 1兆円稼いだキルビー特許より2年も早く出願した日本人
- [3―6]「特許請求の範囲」の書き方テクニック① 形式に関する3つのルールと、広さと進歩性の両立
- [3―7]「特許請求の範囲」の書き方テクニック② 「特許請求の範囲」の分節法
- [3―8]「特許請求の範囲」の書き方テクニック③ 表現に関する3つの提案
- [3―9]広い「特許請求の範囲」のために、特許担当者・弁理士を味方につけろ! 異なる知識の融合
第4章 「拒絶理由通知」にひるむな! 審査での権利化戦略
- 【解説】特許審査の手順
- [4―1]「拒絶理由通知」がきたときが、オオカミ特許を獲るビッグチャンス
- [4―2]相手(特許庁審査官)を知る 審査官の強い立場
- [4―3]特許庁「特許審査に関する品質ポリシー」
- [4―4]特許審査の真実① 「一発登録」(拒絶理由通知無しで登録)は大失敗
- [4―5]特許審査の真実② 早期審査請求は百害あって一利のみ
- [4―6]特許審査の罠① 毒団子入り「拒絶理由通知」
- [4―7]特許審査の罠② 「ステルス拒絶理由通知」
- [4―8]審査官の手の内を見抜け! 「検索報告書」
- [4―9]審査官は後知恵で審査する 進歩性と「後知恵」問題
- [4―10]「容易に発明できた」と拒絶理由通知が来たら、シメタと思え
- [4―11]過誤ある拒絶理由通知に反論することは、出願人の権利・義務である
- [4―12]「拒絶査定」を恐れるな! 下手な登録査定よりはるかにマシ
第5章 公正な判断をあおぐ 「拒絶査定不服審判」
- 【解説】オオカミ特許三銃士のひとつ 「拒絶査定不服審判」
- [5―1]相手(審判官)を知る 審判官の厳しい立場
- [5―2]拒絶査定不服審判は絶対に負けてはいけない
- [5―3]拒絶査定不服審判でオオカミ特許をとる技
第6章 「補正」で特許を変幻自在に操れ!
- 【解説】オオカミ特許三銃士のひとつ 「補正手続」
- [6―1]特許は後出しジャンケンの世界 後出しジャンケン補正で勝つ
- [6―2]補正で、「特許請求の範囲」を広くしてオオカミ特許を獲る
- [6―3]補正で、「特許請求の範囲」をあえて「狭く」してオオカミ特許を獲る
- [6―4]ターゲット(製品・技術)を狙った戦略的補正のしかた
- [6―5]ターゲット製品iPodを発見したと仮定して、戦略的補正をおこなってみる
第7章 特許の可能性を大きく広げる! 「分割出願」
- 【解説】「オオカミ特許三銃士」のひとつ 「分割出願」
- [7―1]4つのケース別、分割出願活用方法
- [7―2]分割出願のタイムマシン機能とシリアル分割出願戦略
- [7―3]分割出願が多い企業はオオカミ特許が多い
- [7―4]分割出願10件、TI社キルビーのスーパーオオカミ特許
- [7―5]「金融ビジネスモデル」を特許出願し、分割出願で訴訟に勝ったマネースクエアHD
- [7―6]下請け企業が巨大企業を提訴した「アスタリスクvsファーストリテイリング」訴訟
最終章 プロパテントカンパニーへの道 「オオカミ特許プロジェクト」のご提案
- あとがきと謝辞
- 参考文献リスト
- 索引
プロフィール
田所照洋
信州大学工学部電子工学科卒業。
株式会社リコー 知的財産部門で、発明発掘、特許出願、権利化、権利行使、米国特許訴訟、ライセンス交渉、知財戦略策定、等の知財実務と知財マネジメントを担当した。
数々の権利行使ができる特許を獲得し、数百億円の特許ロイヤリティを日米欧で獲得することに貢献した。
また、米国駐在員、知的財産センター所長、知的財産担当審議役、などを務めた。
2011年~2016年 日本経済団体連合(日経連)知的財産企画部会委員。
2017年に株式会社リコーの知的財産担当審議役を退任後は、知的財産・経営コンサルタントとして、技術者や経営者への知的財産教育やコンサルティングをおこなっている。
著者の一言
日本は特許出願件数では世界の優等生、だが
あなたの会社は、年に特許を何件出願していますか? 会社の規模にもよると思いますが、けっこうな数の特許を出願されているのではないでしょうか?
残念ながら、圧倒的多数の日本企業にはそのような経験はないはずです。あったとしても、遠い昔のことだったり、たまたまだったりではありませんか?一般的な日本の会社は、技術者に特許出願のノルマを設けて、目標特許出願件数を達成しています。もし、貴方が技術者だとしたら、きっと、特許出願のノルマに苦しまれた経験があると思います。特許出願の目標件数達成はたいへんですが、達成できれば人事考課の評価がよくなるので、技術者の方は一生懸命ノルマを達成します。
ノルマの効果だけではないと思いますが、日本企業は、世界の工場だった時代から現在まで、膨大な数の特許を出願し続けています。2005 年以前は世界一の特許出願件数を誇っていました。2019 年の日本における特許出願件数は約30 万件で、中国、米国に次いで世界3 位です。その結果、日本では多くの特許出願が登録になっています。たとえば、2017 年の特許登録件数は約20 万件です。2010 年から2019 年までの10 年間の累積登録特許件数は、実に、220 万件におよびます。
登録特許には、技術を独占できる独占権がありますから、日本には、とてつもない数の独占権が、常時、存在していることになります。したがって、経済活動の多くの場面で、特許侵害事件が毎日のように起きていても不思議ではありません。新製品を発売するたびに、特許侵害を警告する警告状が届き、中国や米国のように特許侵害訴訟が頻発するはずです。
しかし、日本のニュースで特許侵害警告事件や特許侵害訴訟が、取り上げられることはほとんどありません。まったくないわけではありませんが、数カ月に1回あるかないかといった程度です。考えてみてください。あなたの会社は、第三者から特許ロイヤリティを獲得したことがありますか? あなたの会社の特許が、事業や技術を守るために特許侵害訴訟で使われたことはあったでしょうか?
日本の特許は、権利範囲が狭すぎて権利行使ができない
前述のように、日本では、毎年約30 万件の特許が出願されています。しかし、日本の特許侵害訴訟件数は、年に、たった160 件程度しかありません。日本の特許侵害訴訟件数(年間約160 件)が、米国の特許侵害訴訟件数(年間約5000 件)や中国の特許侵害訴訟件数(年間約10000 件)に比べて極端に少ないことに、多くの有識者が危機感を表明しています。彼らはその原因が日本の訴訟制度にあり、訴訟制度改革が急務であると指摘しています。
しかし、訴訟制度の問題だけが原因ではない、と私は確信しています。日本の登録特許の権利範囲が狭すぎることがより重大な原因です。ほとんどの日本登録特許は、権利範囲が狭すぎて、特許侵害訴訟を起こすことすらできないのです。
本書の第1 章を読んでいただければ納得していただけるはずです。日本の特許システムは、過剰に権利範囲を狭くしてしまう驚きのしくみになっています。あなたの会社の登録特許も、「特許請求の範囲」を調べていただければ、きっと、権利範囲を狭くしている不必要な限定が見つかるはずです。
日本の登録特許の多くは独占権であるはずなのに、権利範囲が狭すぎて、模倣製品に対して警告したり、特許侵害訴訟を起こしたりすることができないのです。すなわち、日本の登録特許は、日本のすばらしい事業や技術をほとんど保護することができていません。換言すれば、多くの日本の企業や技術者は、特許による保護が受けられない特許難民化しているといえます。
しかも、ほとんどの経営者や技術者は、この異常な実態にまったく気づいていません。できる限り多くの人に、この異常な日本の特許実態をお伝えすることが、本書の大きな使命のひとつです。真の実態をしっかり認識していないと、事業と技術を守る真の戦略は策定できないからです。
ヒツジ特許とオオカミ特許
特許には独占権があるので、「強い」イメージがあります。しかし、権利行使できない特許には、その強さがまったくありません。ただ、数多く存在しているだけです。したがって、権利行使できない特許は、数は多いものの、ただ群れているだけの弱いヒツジのイメージです。そこで、権利行使できない特許を「ヒツジ特許」としました。
一方、権利行使できる「強い」特許は、経営者・技術者・特許担当者・弁理士が、力を合わせて行動しないと獲得できません。そこで、仲間と力を合わせてチームワークで行動し、個々ではけっしてかなわない熊とも闘うオオカミの「強い」イメージから、権利行使できる特許を「オオカミ特許」としました。
「オオカミ特許革命」で、ヒツジ特許蔓延から脱却する
まちがいなく日本の企業では、世界に通用する価値ある技術が創造されています。しかし、その価値ある技術に関する多くの発明が、日本では、権利行使できないヒツジ特許になってしまっています。したがって、日本の特許システムを根底からひっくり返して、権利行使できるオオカミ特許をもっと多く獲得できるようにする「オオカミ特許革命」が必要なのです。
本書最大の目的は、あなたの会社に、あなたの技術者人生に、そして日本に、「オオカミ特許革命」を巻き起こすことです。「オオカミ特許革命」は、日本中を特許難民状態から開放するだけではなく、特許による真の恩恵を創造者にもたらします。
では、権利範囲が狭いヒツジ特許になってしまう日本の特許システムで、どうすれば権利範囲が広く権利行使ができるオオカミ特許を獲得することができるようになるのでしょうか?
特許を出願する側の最大の問題は、特許の仕事を次工程に丸投げしてしまうことです。丸投げされた側は、その特許に対する使命感や責任感を持てず、自分に都合がいいように処理するだけです。たとえば、発明者は、発明届出書を作成しますが、一番大事な「特許請求の範囲」の作成を特許担当者や、弁理士に任せてしまいます。ところが、特許担当者や弁理士は、とても忙しいうえに、発明技術周辺の大事な技術情報が不足しています。表面的に広い「特許請求の範囲」は作れても、広い権利範囲で登録になる「特許請求の範囲」は作れないのです。
この丸投げ問題は、経営者にも起こります。知財のことはわからないからと、知財経営を知財部門の責任者に丸投げしてしまいます。知財部門の責任者は、X件特許出願しました、Y件登録特許になりましたと本質的ではない見かけ上の成果報告をします。経営者はその見かけ上の成果で納得し、安心していまいます。経営者は、Y件の登録特許がヒツジ特許ばかりでオオカミ特許がまったく獲れていない、真の実態に気づかないのです。
私は、知的財産部門での40 年に及ぶ実務経験の中で、日本の特許システムにおける数々の不合理に気づきました。ヒツジ特許の蔓延から脱却するために、オオカミのように経営者、技術者、弁理士と力を合わせて、チームワークで闘いました。その結果、オオカミ特許をたくさん登録にすることができたのです。そして、数億、数十億という単位で利益を生み出す権利行使プロジェクトをいくつも成功させることができました。それだけではありません。米国企業から何百億円もの特許ロイヤリティ支払いを要求された特許警告事件を何件も、オオカミ特許で逆に警告し、撃退できました。オオカミ特許は、収入を増やすだけでなく、支払いを激減してくれるのです。
技術開発で大きな成果を達成した優秀な技術者リーダーと、特許について意見交換する機会が何回かありました。彼らに「貴方の特許は過剰に狭くなっています。こうすれば、こんなにすごい特許がとれていたはずです」と説明すると、いつも彼らは驚き、後悔の念を示します。ある優秀な技術者は、「もし、10 年前にこの話を聞いていたら、私の技術者人生は大きく変わっていたと思う」と言ってくれました。この言葉こそが、私に本書執筆を決心させたのです。