著者の一言

「デジタル化」「デジタル・トランスフォーメーション(DX⁠⁠」など、⁠デジタル」が付いた言葉を目にしない日はありません。そういう時代なのだと受け流すこともできます。でも、あなたはそれで、大丈夫だと言えますか。

たとえばあなたは、次の質問に答えることができるでしょうか。

  • 質問1「デジタル」「IT(またはICT⁠⁠」とは、何が違うのでしょうか、どういう関係にあるのでしょうか?
  • 質問2「DX」に取り組もうとトップダウンの号令がかかっている企業もあるかと思いますが、何をすればいいのでしょうか?
  • 質問3:これまでも「IT化」「デジタル化」という言葉が使われ、さまざまな取り組みがおこなわれてきましたが、そんなこれまでの取り組みと、⁠DX」は、何が違うのでしょうか?

自分で電車やバスを作れなくても、それを乗りこなすスキルがなければ、不便な生活を強いられます。それと同様に、自分でデジタル・サービスを作れなくても、それを使いこなすことができなければ、快適な生活を送るのは、難しい時代になりました。ましてや自分たちがビジネスとして、⁠デジタル」に取り組まなければならないのなら、なおさらデジタルの常識は必要不可欠です。

システムを設計する、プログラムを書く、ネットワークを構築するなどは、専門的なスキルを持つ人たちに任せればいいでしょう。ですが、ITベンダーの提案や見積は妥当なのか、最適なテクノロジーを選択しているのか、その価値を十分に引き出せる使い方をしているか、など、最低限の常識がわからないのでは仕事になりません。

「デジタル・リテラシー」で、あなたのビジネス力をアップする

本書は、そのための1冊です。本来、⁠リテラシー」とは、⁠読み書きの能力」を意味する言葉です。これが、転じて「適切に理解し、活用できる能力」という意味で使われています。したがって、⁠デジタル・リテラシー」とは、デジタルの本質や価値、役割を適切に理解し、自分たちの業務や事業に役立てることができる能力となります。けっして、システム開発の知識やスキルを身につけることではありません。

具体的には、次のようなことが、できるようになることです。

  • デジタルの必要性や重要性、価値や役割について理解できる
  • デジタルを業務や事業に活用できる
  • デジタルを業務や事業に適用するための企画や検討、専門家との議論や指示、結果に対する検証ができる

本書は、そんな「デジタル・リテラシー」を、専門知識を持たない方にも身につけていただけるよう、わかりやすく、図表を交え、体系的に整理しました。

ITの仕事に関わっている方でも、新しい言葉についていけずに、困っている方もいらっしゃるかもしれません。そんな方にとっては、いまの常識を整理して見渡すのにお役に立つでしょう。

就活生や新入社員のみなさんにとっても、ビジネスの現場で必要とされているIT の最新の常識を体系的に学ぶ教科書として、うってつけの内容です。

ひとつひとつのテクノロジーを深く理解するには、それぞれについての専門書をお読みください。本書の役割は「深く理解する」ことではなく、⁠広く見渡す」ことです。そして、自分たちのビジネスへの活かし方を考えるきっかけを、ご提供できればと思っています。

斎藤昌義(さいとうまさのり)

1982年,日本IBMに入社,営業として一部上場の電気電子関連企業を担当。その後営業企画部門に在籍した後,同社を退職。1995年,ネットコマース株式会社を設立,代表取締役に就任。産学連携事業やベンチャー企業の立ち上げのプロデュース,大手ITソリューションベンダーの事業戦略の策定,営業組織の改革支援,人材育成やビジネスコーチング,ユーザー企業の情報システムの企画・戦略の策定などに従事。

IT関係者による災害ボランティア団体「一般社団法人・情報支援レスキュー隊」代表理事。

『未来を味方にする技術』『システムインテグレーション再生の戦略』『システムインテグレーション崩壊』(すべて技術評論社 刊)ほかの著書,雑誌寄稿や取材記事,講義・講演など多数。