著者の一言

国の情報処理技術者試験推しが、とどまるところを知りません。

もともと「IT人材が足りない」とは、ずっと言われ続けてきたので、何を今さらと思われるかもしれませんが、相次ぐセキュリティ関連事故、人口減少に伴う生産性向上への焦躁から、ちょっと本気を出してきた気がします。

2013年に創造的IT人材育成方針(IT総合戦略本部)が、業務やビジネスにITを活かせる人材を創出するためにITパスポート試験の活用を促す、と明記したのを皮切りに、2014年には世界最先端IT国家創造宣言(閣議決定)で、ITに関する基礎知識を問う国家試験(ITパスポート試験)の活用促進等を行うと謳われ、新・情報セキュリティ人材育成プログラム(情報セキュリティ政策会議決定)でも、スキルの修得状況について客観的に示せるよう、ITパスポート試験の活用方法を示していく考えが明らかにされています。

これを受けて、就職活動におけるエントリーシートに、ITパスポート合格の有無を書かせる企業も出てきました。国家公務員の採用でも、情報セキュリティに関するスキル修得状況を確認するために、採用面接時にITパスポート合格の有無を確認することがあります。

わたしたち受験者にとって永遠の悪夢は、努力が水の泡になることです。報われないかもしれないから試験勉強は辛いのです。報われることが確実なら、もう少し試験勉強は楽しいものになることでしょう。上記の状況を鑑みると、少なくとも「受かってはみたものの、思ったほど役に立たなかった」という失望は味わわなくてすみそうです。

行政は、情報処理技術者試験を英検やTOEICのような試験に育てようとしています。これらで高得点をマークすれば、キャリアにおいてまずムダになることはありません。関係者は「情報も英語と同等に重要なスキルであるのに、なんで英検くらいの受験者を集められないの!」と歯噛みする思いなわけです。今後も各種の後押し施策が登場するでしょう(個人的にはジュニア情報処理試験をやるといいと思うのですが、実現しなさそうです⁠⁠。

ITパスポート試験は、徐々にですが、持っていることの「あたりまえ」化が進行しようとしています。それ以前に、ITが生活の隅々まで浸透したこの社会で、ITを知らずに生きていくことは、ゲームのマニュアルを読まずにボスキャラに特攻するようなもので、ちょっと無防備です。内申書、推薦入試、有資格者入試、就活、昇格……、と動機はいろいろあるでしょうが、この試験の合格証書は、きっと支払った努力に見合ったご褒美をあなたの手元に運んでくれることでしょう。ご自身の輝かしいキャリアの最初のステップとして、ITパスポート試験に挑戦してみてください。

岡嶋裕史(おかじまゆうし)

中央大学国際情報学部教授。情報学専攻。

「わかりやすいITの解説」に定評があり,NHKのラジオ番組「子ども科学電話相談」やEテレ「趣味どきっ!」ほか,多数のテレビやラジオに講師として出演。学生だけでなく子どもからお年寄りまで,幅広い年齢層に支持される。サブカルチャーをこよなく愛し,造詣が深い。

「情報を学ぶ人の最初の一冊になる良い本を届けたい」という想いから,本書をはじめ多数の情報処理技術者試験対策本を手掛けている。

【著書】
『情報セキュリティマネジメント 合格教本』『ネットワークスペシャリスト 合格教本』『情報処理安全確保支援士 合格教本』『はじめてのAIリテラシー』(技術評論社),『メタバースとは何か』(光文社),『ブロックチェーン』(講談社),『実況!ビジネス力養成講義 プログラミング/システム』(日本経済新聞出版社)ほか多数。