描きたいけど描けない人にも
この本は「絵を描く技術」について書いてあります。本をざっとめくってみるとそういうことがたくさん画像つきで書いてあるので「技術を獲得したい人」にとっては手に取りやすい本になっているはずです。
でも、それ以外の人、たとえば、「“絵を描きたい” けど、いろんな理由で“ 描けない人”」にも読んでいただけたらと願っています。
「描けない理由」は人によってさまざまなのでひと括りにはできないのですが、共通しているのは描きたい、描いてみたいという「意志」はあるけど「行動にうつせない」ということだと思います。
環境だったり、状況だったり、行動にうつせない理由はさまざまです。でも意志があるのにうまく身体をそちらに向かわせられない、動かせないときのもどかしさだったり悔しさだったりで涙が出てしまうことがあることを知っています。
技術を勉強したいと思ってこの本を手に取っていただいてる人は必ず成長できます。一度獲得した技術、知識はどれだけ使ってもなくなることはなく、どんどん積み上がっていく一方です。だから安心して学び続けていただきたいですし、絵を仕事にしたい方とはいつかどこかで一緒にお仕事をする可能性もあります。そういう未来が、可能性が、「ありえる」というのはとてもすごいことです。
一方で、興味や意志があるのに勉強できない人にとっては、そういう未来の可能性も閉ざされているかもしれない。でも、もしかしたらこの本がそういう人の可能性に少しでも貢献できるかもしれない。そう思うとどうやったらそういう思いをしている人たちにこの本を読んでもらえるんだろうと考えます。
だからせめて序文に「絵を“描きたい”けど、いろんな理由で“描けない人”にも向けた本」ということを目立つように書きたいと思いました。
僕が個人的に誰かに技術、知識を渡せる機会は限られています。でもこういった本や作品になれば、いつか誰かに手に取ってもらえるかもしれない。それはこの本をつくる意味があるんじゃないかと思っています。
誰でも今より良くなりたいはずで、僕が持っている技術知識を渡すことでそのことに貢献できるのであれば、僕が絵を勉強し続けている意味もありそうです。
この本に技術とか、日常的な些細な発見とか、誰かが生きることについて何かプラスがあることを願っています。この本を手に取っていただいて、ここまで読んでいただいてありがとうございます。
あなたのより良い未来のそばにこの本がいられますように。
長砂ヒロ(ながすなひろ)
コンセプトアーティスト。
京都精華大学テキスタイルデザインコース卒業。アニメ美術背景マンとしてキャリアをスタートしたのち渡米。アメリカのアニメーションスタジオ「トンコハウス」作,アカデミー賞ノミネート作品『ダムキーパー』にリードペインターとして参加。他のプロジェクトでもアートディレクター等,NETFLIX『Go Go コリー・カーソン』にリードカラーアーティストとして参加。
現在は自身のプロジェクト「ゴキンジョ」の立ち上げや,アーティストの育成,プロデュースなど精力的に活動中。著書にオリジナル絵本『ドクターバク』がある。
アニメ『SPY×FAMILY』オープニング,『呪術廻戦』,ポケモンオリジナルアニメ『薄明の翼』,川村元気プロデュースアニメーション映画『BUBBLE』,ヨルシカ『春泥棒』MV,Greeeen『星影のエール』MVなど,他多数の映像作品にコンセプトアーティスト,カラースクリプトアーティストとして参加している。