業務の自動化を活用した「仕事術」が求められる時代
これまで、何かを創り出すシゴトは、「自動化」が難しいと言われていました。ところが、ChatGPTに代表される生成AIを使えば、膨大な情報を要約してくれるだけでなく、過去の膨大な情報から新しいものを創り出せる時代になってきました。
生成AIの登場によって「プロンプター」と呼ばれる職種、回答や意見を引き出すために使用される文章やフレーズ(プロンプト)の作り方や考え方を教えるシゴトが生まれたように、新しい技術やサービスの登場によって新しいシゴトが誕生する時代でもあります。
また、サービスの利点を享受し、効率的かつ効果的に業務を進めることができれば、「自分らしい働き方を、自らの手でデザインできる」時代でもあります。
新しい技術やサービスの進化に伴い、ヒトがヒトにしかできないシゴトに集中し、自ら考え、自らの手で「業務の自動化」を設計・計画・実現できることが求められる時代がやってきたといってもいいでしょう。
次々に登場する新しいツールやサービスの機能を見極め、進化の方向性やタイミングを見定めた上で使いこなしていくスキルが、今まで以上に求められているのです。
Microsoft Power Automateが選ばれている理由
Microsoft Power Automate(以降Power Automate)は、さまざまなクラウドサービスを連携させ、自動処理を作成するためのサービスです。Microsoft TeamsやOutlook、Google Driveといったクラウドサービスは、それぞれ単体のサービスとして利用できますが、Power Automateを使って連携させることで、定型業務を一連の処理として自動化することができます。
例えば、受信メールの添付ファイルを特定のフォルダに保存したい場合、作業が自動化されていなければ、毎回、手動で添付ファイルを特定のフォルダに保存する必要があります。ところが、Power Automateを利用して、受信メールの添付ファイルを特定のフォルダに保存されるように自動処理を作成しておけば、手動でファイルを保存する作業から解放されるといった具合です。この例のように、PCを使った定型作業は1回あたりの作業時間は短くても、何度も繰り返されることで多くの時間を費やしていることがあります。1回あたりが短時間な定型作業であっても、Power Automateで自動化することができれば、日々の業務を効率化できるのです。
Power Automateの特徴は、「ノーコード・ローコード開発ができる」ことです。「ノーコード・ローコード開発」は言葉どおり、コンピュータへの指示となるソースコードをまったく書かない、もしくは、ほとんど書かないでアプリケーションを開発することです。
ノーコード・ローコード開発プラットフォームを使用しない、従来型の開発の場合、コンピュータ、ネットワーク、セキュリティ、プログラミングといった高度な専門知識を有した開発者が膨大な量のソースコードをコーディングする必要があります。そのため、従来型の開発は、業務の網羅範囲や開発要件の難易度に関係なく、さまざまな種類の開発ができる一方、高度で複雑なプログラミングができる専門家に依頼する必要があります。
一方で、Power Automateのようなノーコード・ローコード開発プラットフォームを利用することで、複雑で専門的なプログラミングコードを書かなくても開発が可能になり、専門家に依頼をしなくても、自分の業務の効率化を自らの手で実現できるようになったのです。
「ビジネススキル」×「ITスキル」書籍のシリーズ化の背景
「あなたが楽しいと感じる、進んでやりたい業務は何ですか?」
これは、組織の業務改善をはじめる前に、最初に問いかける言葉です。「残業時間の30%削減」「生産効率の15%向上」といった定量的な改善や改革が求められる世界に、「楽しいと感じる」「進んでやりたい」といった定性的な観点を確認している意図は、ヒトの思考や感情が行動の源泉であり、業務の効率や効果に影響を与えるからです。
本書は、Power Automateの使い方(ITスキル)と業務の課題解決スキル(ビジネススキル)の両方のスキルを習得するための実用書であり、前著『Teams仕事術』のシリーズ本にあたります。
各章で具体的な業務シナリオに沿ってクラウドフローを作成しながらPowerAutomateの「使い方」を習得する構成になっており、「ITスキル」×「ビジネススキル」の両方の観点から、具体的なアクションを紹介しています。
Power Automateで業務を自動化する場合、どのサービスを組み合わせて自動化を実現するかは単一解ではありません。前提条件や状況に応じて、最適なサービスを選択できる選択眼が重要になります。そのため、ビジネススキルが磨かれていないと、問題や課題の解決ではなく「Power Automateで自動化すること」が目的になってしまう、いわゆる「手段の目的化」に陥りがちです。「書籍のとおり作っておわり」ではなく、自分の頭で考えて自動化する「応用力」が身につけられるよう、Power Automateの機能や使い方だけでなく、ビジネススキルにも意識を向けて読み進めていただければと思います。
汎用性がある業務シナリオをテーマに「業務の効率化」と「業務の自動化」を考える構成にしているので、ご自身の業務に「最適化」しながら、「応用力」を磨く一助になれば嬉しいです。
本書を執筆している間にも、Power AutomateやCopilotの進化が進み、出版時には、機能が大きく変わっているかもしれません。それでもこのテーマで執筆することを決めたのは、表面上は変わったように見えることでも、本当は変わっていない「モノゴトの本質」や「大切なこと」を見極め、ツールやサービスを利活用することができれば、「楽しいと思える働き方を自らの手で選択できる」ことを伝えたかったからです。
本書が、読んでくださった方々の人生を豊かにし、自己の可能性を広げ、将来のチャンスをつかむ一助になることを願っています。