著者の一言

本書は、筆者たちがこれまで積み重ねてきたシステム開発や運用の経験をもとに、Infrastructure as Code(IaC)をどのように活用し、現実的に運用へ落とし込んできたのかを整理し、共有することを目的として執筆しました。IaCというツールはすでに広く知られていますが、その一方で「本番環境への適用を考えると、安定運用できるか自信が持てず、導入に敷居の高さを感じてしまう」という方も多いのではないでしょうか。

私たちは、IaCを導入して「これは本当にやってよかった」と実感できた瞬間を数多く経験してきました。環境構築や設定変更の手順がコードとして明文化され、誰が作業しても同じ結果を再現できるようになったこと、障害対応や新規環境の立ち上げが迅速かつ安全になったこと、さらにはレビューを通じて運用変更の品質やチーム全体の理解が向上したことなど、その恩恵は非常に大きなものでした。一方で、最初からすべてをIaCで管理しようと無理をした結果、コードや構成が過度に複雑化し、かえって変更しづらくなったり、ツールの学習コストや設計ミスにより運用負荷が増えてしまったりと、⁠正直これは失敗だった」と感じるケースもあります。

本書では、そうした良い面だけを切り取るのではなく、悪かった点や想定外だった点についても正面から触れています。どのような背景や課題意識でIaCを導入し、どこでつまずき、どのような試行錯誤を重ねて改善してきたのか。その過程を具体的に記載することで、読者の皆さんが自分たちの現場に置き換えて考えられるよう意識しました。完成された理想形だけでなく、そこに至るまでの判断や迷いこそが、実践的な知識として最も価値があると私たちは考えています。

また、その試行錯誤の積み重ねから得られたノウハウ――IaCと手作業の適切な境界の引き方、運用を前提とした設計の考え方、チームで継続的に改善を回し続けるための工夫や文化づくり――を、できる限り具体的かつ再現可能な形でまとめました。本書が、これからIaCに取り組む方にとっての道しるべとなり、すでに導入して悩みを抱えている方にとっても、次の一手を考えるためのヒントになることを願っています。

システム運用を安定させ、無駄な作業や属人的な判断を減らすことは、結果としてエンジニア一人ひとりの時間と心の余裕を生み出します。その余裕は、学習や改善、さらにはプライベートの充実にもつながるはずです。ぜひ本書を、日々の業務改善だけでなく、日頃の生活の向上のためにもご活用ください。

真鍋大地(まなべだいち)

筑波大学大学院数理物質科学研究科修了後,大手精密化学メーカーのグループ会社に入社。民間および公共向けの情報サービスの開発部署に配属される。AWSの設計・運用に5年従事。新規事業のシステム開発を対象に,AWSクラウドの管理やWebアプリケーション開発の支援を全社的に行っている。また,事業部の新規事業の立ち上げまでの期間の短縮を目指して,社内用の内製フレームワークの開発し,普及活動を行っている。

畝孝雄(うねたかお)

九州大学大学院システム情報科学府修了後,大手精密化学メーカーでソフトウェアの設計・開発に従事。これまでに,印刷事業向けのアプリケーション開発や,医薬事業向けのシステム開発を担当。また,社内利用を目的としたシステムの開発も多数手がけており,社内のDX推進に貢献をしてきた。直近は新規ソリューションビジネスの立ち上げに奮闘している。

馬石直登(うまいしなおと)

関西大学大学院総合情報学研究科博士前期課程修了後,精密機器メーカの事業部門,開発部門を経て,画像・AI研究所にて研究マネージャとして従事。印刷分野,医療分野,公共分野,全社IT戦略部門等において新規事業企画,開発,研究推進を経験。小さくとも世の中の困っている人の顔が笑顔になることを想像し,業務に取り組んでいる。​

論文:映像メディア学会[動画像による個人識別技​術を用いた勤怠管理に関する研究]​

著書:基礎からわかる画像処理(工学社)