LaTeX2ε美文書作成入門

LaTeXの入門書としておかげさまでご好評いただいております「LaTeX2ε美文書作成入門」に待望の改訂第4版が発行されました。
前身の「LaTeX美文書作成入門」⁠1991年)以来、16年にわたって評価され続けている本書とTeXについて、著者である奥村晴彦氏にお話を伺いました。

奥村先生といえばTeX界隈では知らない人がいない有名人ですが、そもそも最初にTeXに触れられたのはどんなきっかけからでしょうか。
最初にTeXを使ったのは1988年だと思います。ちょうど圧縮アルゴリズムを研究していた時です。当時なかなか数式がきれいに印刷できず、困っていました。
それで秋葉原でIBM PC互換機を買ってTeXを動かしました。なんてきれいな数式なんだろう!と感動しました。
確かに数式は、出版側の我々としても扱いが難しいですね。専門的な知識がないと、組まれた数式が正しいのかどうか判断しかねることも多いです。その点TeXだと著者自らの記述によるものなので安心できます。
数式以外には、TeXのどんなところが気に入っていますか。
数式を含めて組版が完璧といっていいほど美しいことです。それにEmacsの中からすべてできちゃいますし。:-)
使い慣れた環境で完結できるということは、本当に大きな強みですね。
では逆に、TeXのここが嫌だという点はありますか。
まわりがほとんどWordなので、共同で何かを書かなければならないときはたいへん不便です。:-(
なるほど(^^; しかしそれも、本書でTeXの利用者が増えていけば解決できるのではないでしょうか(笑)
本書はおかげさまで長い間定番書としての評価をいただいておりますが、その前身にあたる「LaTeX美文書作成入門」「LaTeX入門」を含め、執筆中に苦労した点などはありますか。
今はTeXから簡単にPDFにでき、印刷所もPDFで入稿できますが、昔はTeXから写研に変換して出力できるところが東京書籍印刷など数えるほどしかありませんでした。パソコンにはビットマップフォントしかなく、なかなか正確な出力イメージがつかめずに苦労しました。無理を言っていろいろサンプルを出力してもらって、だんだん感覚がつかめてきました。
フォントの問題は、特に昔は大きかったですね。
ほかにも、過去の改訂で、特に印象に残っていることなどはありますか。
最初のころは、日本語の組み方が微妙におかしかったのですが、東京書籍印刷の小林肇さんとずいぶん話し合って、JISの組版規格にほぼ合致したTeX用の日本語フォントメトリックを作っていただいて、初めて満足のいく組版ができるようになったことです。これで日本語でのTeXの利用に大きく貢献できたと思いました。小林さんのおかげです。
この時のことは私も記憶にあります。まさに日本のTeXにおける一里塚だったと思います。
こうした時代に応じた新しい知識・情報の発信という点も本書の特徴とは思いますが、著者ご自身としては、長く愛されている理由はなんだと思いますか。
情報はネットで何でも手に入る世の中になりつつありますが、印刷技術に関しては、実際に印刷して本を作ってみないとわからないことがたくさんあります。
技術評論社さんのおかげで、改訂ごとにいろいろ実験して、その結果を本に書かせていただいています。そのおかげで、本書は版を重ねるごとに新しくなり、売れ行きが衰えないのだろうと思います。みなさんのおかげで、たいへんありがたいことだと思っています。
本書がそのお役に立てていることは、我々としても光栄に思います。
最後に、読者のみなさまに対して何かございましたらお願いいたします。
情報をよりよく伝えるには、道具だけよくてもダメで、組版やレイアウトの正しいノウハウが必要です。それはTeXもInDesignもWordもPowerPointもWebデザインも同じです。TeXに限らず、ぜひ自己流から脱する努力をしてください。
ありがとうございました。